お風呂事情2
「広ーい!!」
浴室に入ると、縦横20メートルくらいの大きな浴槽がバーンと置かれていた。
シャワーの数もかなり多く、シャンプーやトリートメント、ボディーソープなど、石鹸類もちゃんとある。
けど、普通身体を洗うところは仕切りがあるが、ここにはない。
石鹸も、仕切りごとに置かれていてシャワーの数だけあるのが一般的だが、圧倒的に石鹸の数が少ない。
譲り合わないといけないのか……いちいち借りてもいいですかとか、すみませんリンスいいですかいうやり取りしないといけないの、ちょっとめんどくさいな。
「あっち方のシャワー空いてるよ、咲久」
「あ、ああうん!」
だめだ、またわたしは文句ばっかり考えてしまう。
石鹸があってお湯につかれてシャワーもある、もうそれで最高じゃないか。
「ほら3人とも、はやくきなさい。ここなら4人並びで空いてるわよ〜!」
アンリーヌに手招きされて、彼女が確保してくれたシャワーに手をかける。
「えーっと…これかな?」
ボタンを押すと、適温のお湯が身体目がけて吹き出てきた。
お風呂……やっと入れたお風呂……お湯……!
汗や汚れといっしょに、疲れも流れていくのを感じる。
幸せすぎる、何を不満に思ってたんだわたし。
こんなに贅沢なのに。
「咲久」
「うおあっ!な、なに?!」
癒しに浸っていたら、律に隣から脇腹をつんつんされて、完全無防備リラックス状態だったせいで必要以上にびっくりしてしまった。
「そんなおどろかなくても」
「き、急に触るから……普通に声かけろよ!あとなんで脇腹なんだよ、肩でいいだろ!」
「声かけたけど目つぶって幸せそうにしてて、全然返事してくれないから。咲久くすぐり弱いし脇腹なら確実に反応すると思って」
「次やったら口利かないから!」
「うふふ、声響くんだから、こんなとこでまで喧嘩しないのよ。はいほら、これシャンプー」
アンリーヌがシャンプーを恵んでくれた。
わたしのシャワーの周りにはなくて、あるところに貸してと言いに行く勇気もなかったので、本当にありがたい。
わしゃわしゃと髪を洗っていると、視線を感じて横を睨む。
「律、何?」
「いや、おでこ全開で髪の毛泡だらけなのかわいくて。レア咲久を目に焼き付けてる」
「髪洗ってるんだから当たり前だろ!見てないで律もさっさと髪洗え!」
律のかわいい基準は本当に理解できない。
わたしはシャンプーを律の方にスライドさせて、身体をひねって律に背中を向ける。
風呂場でガン見されたらたまったもんじゃない。
だいたいわたしは恥ずかしくて律のこと直視できないっていうのに、律はー。
いや、律だから恥ずかしいんじゃなくて、誰に対してもだから、別に律に対してだけ特別意識しているわけではないんだけど……!
「咲久ちゃーん?はい、トリートメント」
「あっ、ぅぁはい!」
またわたしは誰に対してぐるぐる言い訳してるんだよもう。
もう何も考えない、せっかくの温泉だ、自分のお風呂に集中しよう。
アンリーヌが渡してくれたリンスをありがたくいただく。
目の前の鏡を見ながらリンスを髪馴染ませていると、鏡越しに、目を瞑ってシャンプーをして、髪の毛がモコモコになっている律の姿が見えた。
ー……確かに、なんか、見ちゃうな……。
そうだ、さっきの仕返しに、わたしも脇腹つついてやれ。
律が目瞑ってる今なら、確実に不意打ち狙える。
にやにや緩む頬を抑えながら、こっそり律の方に手を伸ばす。
もう少し……あと少しー
「あっ」
「……ふっ」
あとほんの数ミリで手が届くというところで目を開けた律と、鏡越しに目が合った。
律の方ににやにやしながら手を伸ばすわたしの姿をばっちり見られた。
「あ、いやこれは違う……ーうわっ!」
慌てて手を引っこめようとすると、逃がさないというように律にがっしり手を掴まれた。
「何しようとしてたの、咲久」
「えっと、あ、シャンプー取ろうと思って!」
「今リンスしてるのにまたシャンプーするの?」
「……っ」
ああもう、もう少しで仕返しできたのに、なんでそんなタイミングよく目開けるんだよ。
やっぱ律のチート能力の中に危機察知能力みたいなのもついてるんだろうか。
いつか絶対やり返してやる。
「あははっ、咲久、こっち来てよ。身体洗いっこしよう」
「誰がするかー!!」
「ちょっと2人ともうるさい!声響いてんの!連れだって思われたらヨナまで恥ずかしいから、こんなとこでいちゃつかないでくれない?」
ヨナの雷が落ちて、律がすごすごわたしの手を離し、わたしも即座に大人しく手を引っ込める。
でもこれだけは言わせて欲しい、決していちゃついてなんていない。
あと、ヨナの声が1番響いていた。
お読み下さりありがとうございます!!
お風呂回、まだ続きます。
咲久以上ににやにやしながら書いてます。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをして下さっている方々、本当にありがとうございます!




