お風呂事情
「疲労回復風呂、4人でおねがいできるかしら?」
「かしこまりました。それでは、こちらを」
アンリーヌが受付のお姉さんにお金を渡すと、代わりにカードの様なものが4枚と、バスタオルが4枚返ってきた。
「疲労回復風呂は3階の右端でございます。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう。さぁ、行くわよ。はぐれちゃダメよ」
アンリーヌに促されて、エレベーターもどきのような機械に乗り込む。
先程渡されたカードを指定の場所にかざすと、『3』のボタンが点灯し、あっという間に3階に着いた。
本当にホテルみたいだ。
「すごいわよねぇ、自動上下移動機。平民はめったに乗る機会がなくて、それこそこのお風呂場ぐらいでしか乗れないわ。魔力で動かしているのだけど、かなり高級な機械なのよ」
「へぇ、、これも魔力で…?!」
自動上下移動機ってめちゃくちゃ長くて言いづらいな……もうエレベーターでいいや。
それにしても、この世界の電子機器っぽいものは、全部魔力で動かしているということなんだろうか。
「さぁ、ここが疲労回復風呂の入口よ。1人ずつ渡されたカードをかざして入りなさい」
カードをかざすと、ぴぴっと音がなり、ゲートのようなものが開く。
遊園地なんかに入る時のチケット確認みたいな感じで面白い。
わたしの知っているお風呂のイメージとはかけ離れているので、違和感しかないけど。
全員無事ゲート内に入り、靴を脱ぎさらに奥へ進むと、大きな脱衣所があった。
「あ、脱衣所はわりと普通…」
「ほんとだ。一気にお風呂って感じだね」
脱衣所は、ロッカーやドレッサー、体重計っぽいものが並ぶ見覚えのあるような光景だった。
ロッカーというより、鍵がかけられないどころか扉すらついてないので、小学校の下駄箱みたいだ。
防犯面は期待しない方がいい。
「そんなに混んでなくてよかったわ。じゃあこの辺使いましょう」
アンリーヌがさっさと4つ隣り合わせで空いているロッカーを確保してくれた。
「さてと、じゃあ脱いでお風呂に行くわよ〜!」
「はーい。はぁー、やっとお風呂に入れるよ。ねぇ、咲久」
「あ、う…うん」
「ヨナもはやく入りたい」
ーちょっと待って、そっか、脱ぐのか、全部。
いや、それはそうだよね、お風呂なんだから……。
なんの躊躇いもなしに脱ぎ始める3人を横目に、わたしはひとり服の裾に手を置いたままフリーズしていた。
「咲久、何してんの?」
「あ、いや……隠すタオルとかってないのかなぁーなんて……」
「何言ってんの、別に気にしなくていいでしょ。女しかいないんだから。日本で温泉入ってた時どうしてたの?」
「いや、なんていうか……赤の他人に見られるのは大丈夫なんだけど、知り合いに裸を見られるのが抵抗あるというか……あと知り合いの裸を見るのも……それにー 」
「それに?」
それに、律とアンリーヌは抱きついてきたりわたしの身体をふわふわしていて気持ちいいとか言った前科がある。
平気でガン見してきそうな嫌な予感がする。
早くお風呂に入りたいという気持ちと、脱ぎたくないという気持ちとで服の裾をもったまま唸っていたら、ヨナがぽん、と肩に手を置いてきて言った。
「わかるよ、咲久」
「わかってくれる?!ヨナならわかってくれると思ってた!」
「うん、わかる。胸だよね?」
共感してくれた嬉しさでヨナに抱きつきかけた時、あまりにも見当はずれなヨナの言葉にわたしは再びフリーズする。
わたしの脳内大混乱状態を知る由もないヨナは、うんうん、わかるわかると首を上下に降って、私の肩をぽんぽんと叩く。
そして、わたしの耳元でこっそりと言った。
「2人の胸が大きいから、自分の胸が恥ずかしいんだよね。ヨナも小さいから、仲間だね」
……ぜんっぜんそんな発想はなかった。
ほんとに今の今まで言われるまでなかった。
でも、そう言われてみると確かに、この2人服の上からでもわかるくらいでかい。
律は身長が高くてスタイルがいいからスラッとしてみえるけど、確かに意識して見てみると……ある。
「大丈夫だよ、咲久。ヨナたち、いっしょ」
「大丈夫じゃないよヨナ……脱ぎたくない理由が増えただけだよ……」
「……?なんで?」
ああ、やっぱり話が通じる人なんていないんだ。
もういいや、なんかヨナ嬉しそうだし、それでいいや……。
わたしは観念して、ようやく服に手をかけた。
お読み下さりありがとうございます。
次話、ようやくお風呂に入れれます!!
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをして下さっている方々、本当にありがとうございます!




