文化の違い
スキップしたくなる気持ちを抑えて、アンリーヌに着いていくと、日本の温泉や銭湯のような和風な感じではなく、実写化で話題になったあの温泉ドラマに出てきそうなイタリアローマのような洋風なお風呂屋に着いた。
かなり大きな建物だ。
全力で客を歓迎している開放的な入り口を潜ると、まるで高級ホテルのロビーのような空間が広がっていた。
「すごいね、思ってたよりも本格的っていうか‥‥‥アン姉、ここ本当にただの民衆風呂場?」
「うんうん、もっとこじんまりした銭湯みたいな感じかと思ってたら‥‥‥」
律とわたしの反応に、アンリーヌとヨナは首をかしげる。
「せんとう‥‥‥?と言うのが何かはわからないけど、この世界ではこれが普通ね。基本風呂場はひとつの街にひとつしかなくて、この町で言うとここがそのひとつよ。風呂屋に行くとなったら町中の人がこの建物に集まるから、そりゃあ大きくないと人が入らないわ。それにここは貴族街に一番近い町で、偉い人や観光客なんかも沢山くるってのもあるし、何より風呂の種類が多いのがいいわね」
なるほど、日本のように、小さな銭湯がポツンポツンとあるわけじゃなく、でかいのがドーン!と言うわけか。
めちゃくちゃ落ち着かなさそうだな。
ーえ、とんでもなくでっかい浴槽にわいわい入るってこと‥‥‥?
もはやお風呂ってよりプールみたいになってそう‥‥‥ちょっとやだな。
いやいや!わがまま言ってちゃダメだ、お風呂に入れるだけでもありがたいんだから。
それに種類が多いってことは、浴槽1個バーンではない、多分!
「さてと、受付に並びましょう。並んでる間に、どのお風呂に入りたいか決めておくのよ。ひとつしか選べないから、これが迷うのよね〜どうしましょう」
「ヨナ、疲労回復にする」
「‥‥‥ん?ええっと、ひとつの種類のお風呂しか選べないの?好きなようにお風呂場を動き回って、次はこのお風呂、次はこっち、次はサウナ、とかじゃなの?」
「咲久、何言ってんの?もしふたつの種類に入りたいにしても、ふたつ券を買うことになるから倍お金がかかるし、ひとつのお風呂に入ったら、服を着てそのお風呂の脱衣所を出て、ふたつ目の風呂場の脱衣所に着いたらまた服を脱いで‥‥‥って、その都度着替えないと、部屋移動があるのよ?まさか全裸で廊下を歩き回るつもりなの?」
「ち、違う!文化の違い!そう言うことね、わかった理解した!わたしの元いたところでは、いろんな種類のお風呂が大体大きな部屋にいくつもあって、脱衣所もひとつで‥‥‥それを想像してたの!本当に誤解だから!」
唐突にヨナに痴女疑惑をかけられて、慌てて誤解を解く。
律が隣で爆笑していてうざい。
絶対律だってヨナの説明聞くまで私と同じ疑問抱いてただろ!
「うふふ、咲久ちゃんたちのいた世界はサービス精神旺盛でいいわねえ、ここでは基本1種類のお風呂を選んで入るし、ひとつひとつ温泉の効果によって値段も違うのよ。1番安いのはただのお湯。値段もちょうどよくて人気なのはヨナが選んだ疲労回復の風呂や、肩こりや腰痛に効くお風呂とかね」
「へえ‥‥‥高いお風呂だとどんな効果があるの?」
「病気を治すお風呂は高いけどやっぱり人気ね。あとはそうね‥‥‥ちょっとえっちな気分になるお風呂とかかしら。カップルの旅行客に人気ね、きっと夜はお楽しみにー」
「ちょ、アンお姉ちゃん!」
「あらあらごめんなさい、咲久ちゃん。ふふ、おふざけがすぎたわね」
わたしがアンリーヌの話を遮ると、楽しそうにきいていた律はつまらなさそうな顔をして、ヨナは呆れた顔で大袈裟にため息をついた。
律もアンリーヌもいい加減にしてほしい。
「咲久、どのお風呂入る?ここはノリよく、例のあのお風呂にー」
「あほ!入るかばか!わたしは律がいないお風呂に入る!」
「こらこら2人とも、ここは声が響くんだから喧嘩しないのよ〜」
ー元はと言えばアンリーヌが変なこと言ったからだろ!
こうしてしばらく揉めたあと、ヨナが決めた疲労回復のお風呂に結局4人で一緒に入ることになったのだった。
お読みくださりありがとうございます。
次話やっとお風呂に入れます‥‥‥やっと。早くお風呂シーン書きたい。
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