地雷
「あ、あの、やっぱりー」
「良い。ヨナ、気に入った。それがいい」
「やっぱり考え直します」と言いかけたところで、わたしの言葉を遮ってヨナが少し前のめりでそう言った。
わたしは、女神でも見るかのような目をヨナに向ける。
「優しい‥‥‥めっちゃ好き‥‥‥慰めでも嬉しいよ、ありがとうヨナああ」
「は?何。別に慰めとかじゃないし。ヨナ本当に咲久の決めた名前良いと思ってるんですけど。勘違いしないでよね、優しさでもなんでもないんだから。ヨナは意見言っただけだから!」
‥‥‥ああだめだ、めちゃくちゃヨナが可愛い。
「そうねえ、私もその名前素敵だと思うわ。最初聞いた時はどう言う意味なんだろうって不思議だったけれど、咲久ちゃんに名前の由来聞いて、本当に私たちにピッタリで気に入っちゃった」
「僕も良いと思うよ。パーティー名と言ったら、いかに強そうに聞こえるか、ってので考えて決める風潮があるけど、正直よくあるなんとかの剣やらなんとかの龍やらのパーティー名、ダサいし僕達っぽくないなって思ってたんだよね。咲久ちゃんさすがだよ、これはパーティー名決めに革命を起こしたね。僕らがこのパーティー名にしたら、きっとそれが話題になって、この先は無駄に威張ってない自分たちの個性を象徴したようなパーティー名がどんどん生まれていくはずだよ」
「最先端ってやつだな!」
「そ、そうかな‥‥‥」
褒められすぎなような‥‥‥。
もはや褒められすぎて、ネーミングセンスのなさを全員が全力で庇ってくれているようにすら思えてきた。
そうだ、こう言う時こそ本音しか言えない律に意見を聞けば良いんだ。
「律はどう思う?ずっと黙ってるけど」
「‥‥‥良いんじゃない」
「真面目に答えてよっ」
「答えてる。というか、咲久はいつもよく周りをみてて、人のことも一人一人超よくみてるから、こう言う名前決める系って高1の頃からめっちゃ上手だったし。班の名前とかいつも咲久が決めてて。だから私は、咲久が良い名前つけるって最初からわかってたんだけど」
「あ、え、あり、ありがと‥‥‥」
なぜか半ギレ口調でものすごく褒められた。
態度と言葉があまりにも合っていなくて混乱する。
ーなんでまた怒ってんのこの人‥‥‥。
「ー‥‥‥私の方が〜‥‥‥なのに咲久はいっつもヨナにばっかり‥‥‥で簡単にー‥‥‥とか言って‥‥‥」
「え?律、ごめん聞こえなかった、何か言った?」
「いや何も。パーティー名は最高だけど、咲久がやっぱり気に入らないだけ」
「なんでだよ?!」
律の地雷が全くわからない。
なんだか一日中地雷踏みまくって、もう地面がボッコボコで足の踏み場がない気がする。
「はっはっ!!律ちゃんは結構面倒くさいタイプだよな!案外咲久ちゃんも面倒くさそうだけどな!ああ、それでいくとヨナはマジでずーっと面倒くさいよな!アンリーヌもたまになんか怖いし、女って面倒くさいな!!」
パーティーの女子メンバー全員を敵に回したゴルドの発言により、場が一瞬でしらけた。
冷たサックが笑いを堪えきれず「クック、はは、だめだこりゃ」と全く押さえられていない笑い声を漏らしている。
「い、いや違うぞ?!俺はそんなお前らが大好きだって話をだな!」
流石に空気を感じ取った酔っぱらい非常識おじさんことゴルドが、ダラダラと汗を流しながら弁解を始めた。
「ヨナ、もう今日はゴルドといたくない」
「流石にさっきの発言はないわね」
「確かにコンプラ違反で炎上する発言だね」
「あはは‥‥‥わ、私は気にしてないですよ〜」
数秒に沈黙が流れたあと、アンリーヌが「はいはい、おしまーい!」と言ってパンっと手を叩いた。
「本当は今後の話とか6人でもっとする予定だったけど、もう今日は私たち女子メンバーで温泉でも行きましょう!ってことで私たちは抜けるので、ゴルドはちゃーんと反省しなさい?良いわね?」
温泉‥‥‥!!
嬉しい、目の前のめちゃめちゃ凹んでる本人を前に申し訳ないけど、これはゴルドに感謝だ!
嬉しくて頬が緩んでしまう。
「いくわよ〜!3人とも来るでしょう?」
「行く!」
「行く」
「咲久が行くならもちろん行く」
アンリーヌは、「お会計はよろしくね」とゴルドに伝票を差し出すと、青ざめた顔のゴルドにお手本のような綺麗なウィンクをかましていた。
さっさと立ち上がった私たち女子メンバーは、完全に酔いが覚めたゴルドと、今だにツボにハマって笑っているサックに手を振って店を出た。
お読みくださりありがとうございます!
次回、ずっと書きたかったお風呂回です!
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!スローペースではありますがこの先もまだまだ続いていくので、時々覗いてみてくれたら嬉しいです。




