センス
「律ちゃんと咲久ちゃんのパーティー正式加入に〜!」
『かんぱーい!!』
勢いよく持ち上げられたジョッキがぶつかり合い、良い音を鳴らした。
テーブルには大量の食事が並べられ、香ばしい肉の匂いが店内に蔓延している。
‥‥‥よし、一旦あの謎の女の子のことを忘れて、食事に集中しよう。
わたしは、顔ぐらい大きい大胆すぎる骨付き肉に手を伸ばし、かぶりついた。
「ん〜!うま‥‥‥!!」
「あ、咲久、それ私にも一口ちょうだい」
「だめ!まだあるんだから自分で取ればいいだろ!」
横からかぶりつこうと狙ってくる律から、慌ててわたしの肉を死守する。
「咲久、ヨナにも一口ちょうだい。1個も食べきれないから」
「うんいいよ、はいあーん」
「自分で食べるから肉だけ渡して」
「あ、はい。ごめんなさい」
「ねえ、なんでヨナにはあげるのに私にはくれないの?ねえ?」
調子に乗ってヨナに振られて、結構なショックを受けつつも、和やかな空気で打ち上げが始まった。
「お、なんだよ、ヨナがスープ以外を食べてんの初めて見たぜ」
「‥‥‥別にいいでしょ」
「あ、わかった!咲久ちゃんが美味しそうに食べるから食べたくなったんだ!」
「ゴルドとサックうざっ。2人はこっちに入ってこないで」
「こらヨナ、2人案外傷つきやすいんだから、あんまり冷たくしちゃダメよ?」
アンリーヌに注意され、ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いたヨナは、そのまま無言で肉にかじりついた。
またひとくち、もうひとくちとわたしの肉が減っていく。
‥‥‥あれ?もしかして返ってこない‥‥‥?
「そういえば、パーティーの名前とかってないの?」
律の問いかけに、わたしの興味も肉からそちらへと移る。
確かに、パーティーって聞くとかっこいい名前が付いてたりするイメージがある。
「そういえば、付けても付けなくてもパーティー申請はできるから、結成後に名前つけることもできるし、結成した時はとりあえずいっか〜ってなったのよねえ」
「そうだったね。ゴルドは名前つけたがってたけど、そのネーミングセンスが酷すぎてさ‥‥‥結局全部ヨナに却下されて一旦名前は保留になったんだよ」
サックはそう言ってゴルドの肩をぽんぽん、と叩き、同情の視線を送っている。
ゴルドは納得がいっていなさそうだ。
「どんな名前つけようとしてたの?」
「全力疾走、とかあったわね」
「‥‥‥え?」
「燃える勇気、とかね」
「‥‥‥も、燃え‥‥‥」
「向上心と勢い、も」
「‥‥‥」
‥‥‥思ってたのと違った。
パーティー名ってそんな感じなのか。
それなら確かにつけないほうが良い気がする。
「それって、パーティー名なの?ダサい以前になんかズレてない?気のせい?」
律がド直球に言った。
どさくさに紛れてダサいって言っちゃってるし。
注意しようと思ったけど、今回ばかりはわたしも同意なのでそっと口を噤む。
「そうなんだよ、ネーミングセンス以前の問題なんだよ」
「っていうか全部暑苦しいし。ヨナ、絶対ゴルドが考えた名前嫌だ」
「ふふ、私も流石に恥ずかしいわねえ」
「おい!なんだよ!言い過ぎじゃねえか?!」
黙って聞いていたゴルドが、ついに声を上げた。
「せめて他の有名なパーティーの名前とか参考にしなよゴルド。今人気なパーティーだったら、白銀の稲妻、とかさ!」
「それじゃパクリじゃねえか!」
「僕は参考にしようって言ってるんだよ」
そこから、ゴルドとサックのいつもの言い合いが始まった。
アンリーヌはそんな2人の様子を呆れたように眺めながら、「こんな感じで決まらないのよ」と困り笑いを浮かべる。
「僕たちそこそこ有名なパーティーなんだよ?!それがもし仮に名前が全力疾走になったとして、街ゆく人に、全力疾走が来たぞ、あっ全力疾走だ!って言われるんだよ?!バカっぽすぎるよ」
「バカとはなんだサック!常に全力な俺らにピッタリだろう!」
「‥‥‥常に全力なのはゴルドだけだし」
「ヨナは覇気が足りない!もっといつも笑顔でだなー」
「ーは?なんでゴルドにそんなこと言われなきゃならないの」
「あー、もう!はいはい、みんな落ち着いて」
ヒートアップしていく3人を、やっぱりアンリーヌが鎮める。
「パーティー名をつけようって話は何度か出たんだけどね、こうやって絶対言い合いになって決まらないのよ。もうずっとつけなくてもいいかしらって思ってたけど、そうね‥‥‥やっぱり名前がないと何かと不便なことも多いのよねえ」
アンリーヌは頬に手を当てて困ったような仕草でしばらく考えた後、「そうだわ」と言ってわたしと律の方に向き直して言った。
「2人にこのパーティーの名前を決めてもらおうかしら」
お読みいただきありがとうございます。
やっと打ち上げが書けました。
次話も打ち上げ続きます。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます。




