同類
全身に鳥肌が立った。
知られてる‥‥‥バレてる‥‥‥転移者だって。
いやいや、ここまでバレないようにアンリーヌたちに協力してもらって必死で隠してきたんだから、バレてるはずがない。
この子は律の黒髪を見て、憶測でそう言っているんだきっと。
それでわたしの反応を伺っている。
ここで焦ったりしたら「はいそうです」って言っているようなものだ。
つまりここでの返しの正解はー
「‥‥‥て、転移者?もしかしてあの都市伝説のことを言ってるんですか?」
「ありゃ、違った?」
「確かに律は黒髪だけど、ちゃんと魔力定着をした上で黒髪なんです。魔力定着をしていない人は冒険者カードも作れないし、カードを発行できてることがその証明です」
「んー、ほんとにそこなんだよね。そのせいで転移者って証明できないくて連れてけなくてまじ困るっていうか、めんどいっていうか。一体どうやったんだか‥‥‥ねえ、教えてよ!ってかあの黒髪の子だけじゃなくて、あんたも転移者なんでしょ」
「い、いやなに言って‥‥‥だ、だからわたし達は普通のー」
わたしが引き続きシラを切ろうとすると、彼女はわたしのローブのフードを持って、それをわたしの頭にバサっと被せると、フードをぐいっと自分の方へ引き寄せてきた。
「わっ‥‥‥何?!ちょ、顔近い、です!」
至近距離で目が合って、思わず後退りしようとするが、頭に被された状態でフードを掴まれているので、頭は後ろへ動かせず、下半身だけジタバタしているだけで、顔の近さは全く変わっていない。
もう、なんでどいつもこいつも距離感おかしいんだよ!!
「あーもうめんどくさあい。ねえ認めてよ。うち、わかっちゃうんだよね、2人が転移者だって。生まれつき、見るだけで同類かそれ以外かすぐわかんの。あー、生まれつきじゃなくて、転移つき?か」
「ー同類?それって‥‥‥」
「それってあなたも転移者ってことですか?」と聞こうとして、慌てて口を閉じる。
そう聞いてしまったら、自分が転移者であることを認めたようなものだ。
「な、何言ってるのか分からないです」
「ーちぇ、これでもダメか。じゃあ〜、うっわ何すんの?!」
どのタイミングで気がついたのか、いつの間にか駆けつけた律が、彼女の手を私のフードから引き剥がした。
「律!」
「咲久、こいつ誰」
「あ、だれ‥‥‥なのかはわたしが知りたいくらいっていうか‥‥‥」
「ちょっと、痛いんだけど。ってか力強っ、うち結構強いはずなのに、あっさり手弾き飛ばされちゃったんですけど。ちょっと楽しくお話してただけなのにひどいって。独占力強めタイプ?」
やばいやばい、転移者って多分バレてることも、今この状況も、色々やばい。
とりあえずお願いだから律を煽らないでほしい。
ってか自分より強いってわかった相手を煽るって、どんな度胸してるんだこの子は。
「私は、変な女に咲久が乱暴に絡まてたから助けただけ。独占力が強い?そりゃあそうでしょ、咲久は私だけのものなんだから。何当然のこと言ってー」
「いつからわたしは律のものになったんだよ!」
またふざけたことを言い出す律の言葉を遮って腹パンを食らわす。
「あははっ、咲久、くすぐったい」
「……」
かなり全力でパンチしてるのに、なんで笑ってるんだよ。
「あー、おっけおっけい。これもう探してる人ほぼ確だわ、大収穫。タカノんに報告しなきゃ、今日は帰るね」
「え、あの!」
「サクって呼ばれてたよね?うち、レミ。今日は場所も悪いしまた話そっ!タカノん困ってて早いうちに済ませたいし、すぐまた会いに来るし」
「待っ……そのタカノんってーえ?!」
わたしの声はガン無視でさっさと言いたいことだけ言ったレミとかいう女の子は、瞬きした瞬間に姿を消した。
それにしてもやばい、タカノんに報告って……あの子も転移者っぽい匂わせ発言してたし、もしかしたらー。
「咲久」
「うぁっ、はい!!」
「誰、あの女」
「……だからそれは……」
わたしもわなんないんだってば。
冒険者カードの発行が終わってようやくひと息つけると思った矢先、なんでこうなるんだ。
律にも彼女が転移者で、わたし達を連れていこうとしているかもしれないことを伝えたいけど、そんなこと伝えたら次レミが会いにきた時に律がレミに何をしでかすかわからない。
想像するだけで怖すぎる。
よし、とりあえず一旦隠しておくことにしよう……。
わたしは律から目を逸らして、フードを被って言った。
「……知らない。なんも教えてくれなかった」
お読み下さりありがとうございます。
レミは、タイトル「やらかし事情」に登場していたキャラの1人です。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!!




