また1難
「これが冒険者カード‥‥‥!!」
発行されたカードを手渡されると、わたしは卒業証書を授与されるときのように、頭を下げながら両手で大切に受け取る。
たかがカード1枚が、本当に輝いて見える。
見た目は学生証みたいな感じだった。
「ありがとうございます、エレサさん!」
「はいはい。それより絶対に無くしちゃダメよ。それがないと依頼を受けることも、報酬を受け取ることもできないんだから。何より身分証明書だから個人情報が全部漏れるし、2人の異常な魔力量もそこに全部載ってるんだから、落としたりしたら‥‥‥わかるわね?」
わたしと律はエレサの問いかけに頷いて、カードをそっとボタン付きポケットにしまった。
「よっしゃー!!今日のミッションはコンプリートだぜ!飯でもいこうぜ、パーティーメンバーで!改めて、2人の歓迎会だ!」
「ゴルドにしてはいい案だね、僕も大賛成だよ」
「まあ、いいんじゃない。ヨナもお腹すいたし」
確かに、ずっと緊張状態で気がついていなかったけど、めちゃくちゃお腹が空いた。
お昼も食べてないし、外はもうきっと日が暮れ始めている。
わたしと律と、ゴルドたち3人で、期待のこもった目でアンリーヌを見ると、アンリーヌは「仕方ないわね」と笑って言った。
「打ち上げでもしましょうか」
盛り上がるわたしたち5人をみて、アンリーヌとエレサは顔を見合わせて笑っていた。
「それじゃあエレサ、今日は帰らせてもらうわね。またすぐに会いましょう」
「ええ、また」
アンリーヌの言葉に続いてエレサにペコリと頭をさげ、わたしたちはギルドの出口に繋がる、ロビーへと続くドアを開ける。
「え、な、なに?!」
一歩ロビーに入った途端、そこにいた沢山の冒険者たちが駆け寄ってきた。
「おいおい、本当にいたのかよ?!」
「だから言ったっだろ、黒髪がいたって!」
「冒険者登録に随分と時間がかかっていたみたいだけど、何があったの?」
「本当に真っ黒だ‥‥‥魔力量はどうだったんだ?!」
冒険者登録をする前、ロビーで律が黒髪を大胆に晒したのが噂になって広まって、物珍しさに一目見ようと出待ちしていた冒険者たちだった。
一瞬にして律が見知らぬ冒険者たちに取り囲まれる。
「‥‥‥しまったわ、裏口から出るべきだったわね。こんなことにすら気が回らないなんて、カードの発行が無事済んで、私ったら気が緩んでいたみたい」
「ったく、めんどくせえなあ。これから打ち上げだってのに」
冒険者たちに完全に囲めれて見えなくなった律を助け出そうと律の元へ行こうとするが、ガタイの良いおっさん達に押し出される。
律はというと、得意の爽やかスマイルで「ついさっき冒険者になって、アン姉たちのパーティーに入ったから、よろしく」と言って、投げかけられる全ての質問には全て「ノーコメントで」と答えている。
アパートであんな事件を起こした前科がある律だ。
大丈夫だとは思うけど、誰かが律の地雷を踏むような発言でもしたらまだ力加減ができないくせに物騒な物理解決ばかりする律は絶対何かやらかす。
わたしは囲まれている律をなんとか連れ戻そうと、律を囲む人混みの輪に体を捩じ込んで、人をかき分け潜り込んだ。
よし、もう少しで律のところにー。
ガクンッ。
ー?!
誰かに腕を掴まれた。
振り向いて誰なのか確認しようと試みても、人混みに紛れて掴んでいる手しか見えず、力が強くて前に進むことも、手を振り解くこともできない。
「だ、誰ですか!離してください!」
どうにかして手を振り解こうとするが、抵抗虚しく指の一本すら解けない。
「いいから近くに来て」
「うわっ?!」
ものすごい力で腕が引っ張られ、体勢を崩す。
「わわ、あっぶない。ごめんごめん、うち力強くって」
転倒しかけたところを、私の手を掴んでいたであろう人物がキャッチした。
こんな人混みで転んだら、このガタイの良い冒険者達に踏み潰されてぺちゃんこにされるところだった‥‥‥。
いやいや、今はそんなことよりも!
「な、なんなんですか!」
わたしは警戒心マックスでその人の顔を睨むように確認する。
そこに立っていたのは、あの力からは想像できないほど華奢な、同年代くらいの女の子だった。
髪色は濃い赤色だ。
確か色が濃いということは、魔力量が多いということだったから‥‥‥この子、強いんだ。
「タカノんが困っててさー、まあ協力するって言ったからにはちゃんと調査しなきゃなんないじゃん?だから急だけど気になったあんたに声かけたわけ!多少強引なのは許してって!ね?」
タカノん‥‥‥?
調査?
結局何がしたいのか全くわからない。
わけが分からない、という顔をしていると、彼女はニッと笑って、わたしにぐいっと距離を詰めてきたかと思うと、わたしの耳元で他の誰にも聞こえないような小声で言った。
「あんた、転移者でしょ」
お読みくださりありがとうございます。
やっと冒険者カードができました、、想定してた3倍かかりました、、ようやく次の段階が書けて嬉しいです。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをしてくださっている方々、本当にありがとうございます。




