謝罪
「これで全部話したわよ」
エレサは、そう言ってコーヒーカップを手に取り、背もたれによかって姿勢を崩し、軽く息をはいた。
今まで黙って聞いていたアンリーヌは、エレサの肩を優しく撫でる。
「大変だったのね。よく頑張ったわ」
「ちょっ、やめてよもう!それに、頑張ってるって言ったて、私がリリに会いたいからっていう、全部私の都合で、自分のために頑張ってるだけ。‥‥‥リリはね、あんまり嬉しそうじゃないの。いつも困ったように笑って、今月もありがとう、ごめんねって言うの。私はリリを困らせてる。私が1人でリリを下町に連れ戻そうとあたふた動いているだけで、リリはもう諦めているように思える。申し訳なさそうに、早く諦めて欲しそうな顔をするのよ。リリはもう、私のこと‥‥‥」
エレサは俯いて、膝の上で拳を強く握って言葉を詰まらせた。
その拳を、アンリーヌは両手で強く包み込む。
「バカなの?リリはまだあなたのことが好きよ。好きで、大切に思っているからこそ、毎月たった数分自分に合うためにエレサがどれだけ頑張っているのか、自分がどれだけエレサの負担になっているのか、こんな状態がいつまで続くのか、そんなことばかり考えているのよきっと。リリもあなたも、お互いのことしか考えてないじゃない」
「そ、そんなことは‥‥‥まあ、なくはない、わね」
「あらまあ、惚気ね」
「な‥‥‥!私は真剣に!」
「うふふ、わかってるわよ。とにかく、話してくれたからにはちゃんと協力するわ。リリとまた2人で住みたいんでしょう?」
アンリーヌがそう聞くと、エレサは真っ直ぐ目を見て言った。
「ええ、絶対に諦めない」
***
ドアの開く音がして、部屋で待機していた全員の視線が入ってきた2人に集まる。
「アン姉!どうなった?!」
真っ先にアンリーヌに駆け寄った律の頭を、アンリーヌは優しく撫でて言った。
「交渉成立よ」
交渉成立。
つまり、貴族に報告されずに、無事冒険者にもなれて、正式にパーティーのメンバーにもなれるということだ。
「おっしゃああ!!さすがアンリーヌだぜ!」
「僕は最初から信じてたけどね」
「嘘つき。ずっと落ち着きなかったじゃん」
ヨナに突っ込まれて、サックがゴルドに背中をバシバシ叩かれている。
ようやく緊張が解けた。
「アンお姉さん、あと、エレサさん。あの‥‥‥本当にありがとうございます!すっごく嬉しいです!」
わたしが2人の前に駆け寄って頭を下げると、エレサとアンリーヌは顔を見合わせて笑った。
「もう咲久ちゃんってば本当に良い子なんだから!ね、エレサ、咲久ちゃん良い子でしょう?」
「‥‥‥まあそうね。咲久の方は礼儀がなってる。でも律とか言う方は、ずーっと私に敵意むき出しだったわよね?」
確かに、律のエレサに対する態度はかなりひどかった。
やばい、エレサの気が変わる前に律に謝らせないと‥‥‥!
「律!エレサさんに、ひどい態度とってごめんなさいって謝れ!」
「‥‥‥いや、先に敵意を向けてきたのはエレサだし、咲久と私を離れ離れにさせようとしたわけだし、エレサが謝らない限り私は謝らない」
「子供か!!ってかエレサさんのことナチュラルに呼び捨てしてるし!あの、ほんとにごめんなさいエレサさん、この人頑固で、だいぶ頭おかしくて、でも悪気はないっていうかー」
「悪気あるけど」
「もう本当にいい加減にしろー!」
もう終わった、折角アンリーヌが交渉してくれたのに。
本当律ばか、KY。
「ふふっ」
全力で頭を下げ、怖くてエレサの顔を見れないでいると、聞き慣れない笑い声がして、恐る恐る顔を上げた。
笑っていたのはエレサだった。
「それもそうね、私から謝るべきだわ。ごめんなさい。2人を離れ離れにさせたかったわけじゃないの。けど私にも事情があった。もうそんなことはしないって約束するわ」
「そうよ〜?本当は、エレサが1番知ってるんだから、大切な人と離れたくないって言う気持ち」
「アンリーヌ!余計なこと言わないで」
何だかよくわからないけど、エレサは私たちの味方になってくれたってことだろうか。
一体アンリーヌはエレサと何を話したんだろう。
「‥‥‥あーえっと、私も、敵意むき出しにしたこと謝ります。すみませんでした」
ー!!
律は、エレサが謝らない限り自分も謝らないと言っていた。
エレサが謝ったから、誰に促されたわけでもなく、自主的に謝ったのだ。
‥‥‥本当、そういうところがあるから嫌いになれない。
むかつく。
まさかこんなに素直に謝罪されると思っていなかったであろう少し驚いた表情を見せたエレサに、アンリーヌは何故か得意げな視線を送って言った。
「どう?2人とも良い子でしょう?」
「あーもう、わかったわよ」
エレサは、呆れたように笑って言った。
「2人が冒険者になること、アンリーヌたちのパーティーに加入することを認めるわ」
お読みくださりありがとうございます。
回想が長すぎて、すごく久々に咲久と律の絡みをかいたような気がします。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをしてくださっている方々、本当にありがとうございます。




