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出会い

「話すとはいったものの、どこから話せばいいのかしら‥‥‥とりあえず、私がなぜ急に月に1度の報告会を真面目に行うようになったのかだけどー」

「ああ、その前に、ひとつ確認してもいいかしら?」

「いいけれど?」

「リリちゃんとあなたって付き合ってたの?」


 エレサは、3秒ほどフリーズし、持ち上げかけていたティーカップをそっと置いた。


「ど、どこ、どこまで知っているの?それも私がっ‥‥‥酔って言ったの?」

「あら、本当に付き合っていたのね。これは勘だったのだけど」

「ー!アンリーヌ!」


 エレサが真っ赤な顔で机をバシンと叩く。

 食器がガシャんと音を立てる。

 アンリーヌはというと、大爆笑だ。


「よかったわ、そこを確認しておきたかったの。そしたら、エレサの行動の意図とかがわかりやすくなるでしょう?」

「ほんっと性格悪い。それに、色恋沙汰が介入したら、よりややこしくなるだけじゃないかしら?」

「そうでもないわ。恋をしている女の子の気持ちは複雑で難しいけれど、行動は、実はとっても単純でわかりやすいんだから」


 言い返す言葉を探すも見つけられなかったエレサは、乱暴にティーカップを握って、とっくにぬるくなった中身を一気に飲み干した。


「話すわよ、今度こそ」

「リリちゃんとの出会いからよろしくね」

「そこいる?!面白がってるんじゃないでしょうね?!」

「必要な情報よ」

「‥‥‥もういいわよ、ここまできたら。全部話すわ」


***


 リリとの出会いは、職場‥‥‥ここ、ギルドだった。

 私は今でこそこんなだけど、その頃は自由人で適当で、全く真面目のまの字もないような新卒だった。

 リリは一個先輩だったんだけど、印象としては控えめで目立たない人って感じだった。

 周りからあからさまに避けられているようにも見えた。

 ちょっとでも話しかけたら、ビクッて体を揺らすもんだから、話しかけづらい。

 私は不真面目だったけど、その頃はバンバン職場の人たちに絡みに行くタイプだったから、先輩たちと仲は良く、リリのことをそれとなく聞いてみた。

 そしたら、話さないほうがいい、あの子は貴族の子なんだ、スパイだ、とかまあ散々言われて。

 あんなに気弱そうな子が?馬鹿げてると思った。

 そんなある日、私が仕事でやらかしてしまって、村に魔物が現れたっていうのに、手違いで全く別の村に討伐依頼を出してしまった。

 気づいた時にはみんな間違った方の村に行っていて、前線で戦えるほどの力があるパーティーはもう残っていなかった。

 ただただ脂汗が流れたわ。これで、何人の村人が死ぬんだろう、私のせいでって。

 先輩たちも、俯いたり、ヒソヒソいうだけだった。

 ただ1人、リリを除いては。

 「大丈夫だよ」

 リリはそういって、ギルドを出て、魔物が襲っているという村の方に、空を言葉通り飛び出して行った。

 飛行魔法なんて、平民の魔力量じゃ絶対に不可能なのに。

 先輩たちはやっぱり貴族だったんだ、だの、怖い、だの、分かり合えない、だの色々いっていたけど、私にはリリがヒーローに見えた。

 結局、リリが1人で魔物を倒し、負傷者は出たものの死亡者は出なかった。

 私は、帰ってきたリリに他の先輩の目なんて気にせず飛びついたわ。

 もっとリリを知りたいと思った。

 でも、翌日からリリが出勤することはなかった。

 平民が貴族の職業につけないのと同じように、貴族は平民の職業にはつけない。

 貴族疑惑が今回の件で明白になったリリは、クビにされたのだ。

 私は町中探し回って、1ヶ月ほど経ってようやく裏路地でリリを見つけた。

 服はボロボロで、元々細かった体はさらに痩せ、かなり血色が悪く、最悪の状態。

「リリ先輩!」といって駆け寄ると、痩せこけた顔で「もう先輩じゃないよ」といって笑った。

 私はリリを自分の家に担いで連れて帰り、お風呂に入れてご飯を食べさせて、3日間ほど経った時、リリが私より先に起きてご飯作っていて「おはよう」ってすっかり元気になった顔で笑いかけてきて。

 その時に聞いた。

 リリは捨て子で、孤児院で育ったこと。

 洗礼式で魔力量が平民並みではないと噂になり、身元がわからないということもありその噂の信憑生が高まった結果孤立してしまったこと。

 今は、職を失い就活をするも、身元や噂のこともありうまくいかず、貯金もないので家を借りられなくなり、途方に暮れていたこと。

 職が見つかるまで、どうかこの家に居候させてもらいたいこと。

 私は本当に最低だ。

 その話を聞いて踊り出したくなるほど嬉しかった。

 その時、私はすでに、確かに、リリに惹かれていたから、もっと彼女を知りたいと思っていたから、家に帰ったらいつもリリがいて、今日みたいに食事を共にする日が続くんだ、と。

 私はリリに言った。

「仕事は探さなくていい。同じ家に住んでるんだから家賃はかからないし、食費も1でも2人でもほぼ変わんないよ。リリは家で、ご飯作ったり家事したりしてて欲しい。ずっと居候でいいよ。丁度家事が追いつかなくて困ってたの」

 もちろん、リリが仕事を見つけて出て行ってしまうのが嫌だという気持ちもあったが、それ以上に、新しい職場でリリがまた除け者にされている様子を想像すると、これ以上傷ついてほしくないと思ったのが大きかった。

 こうして、私とリリの同居生活が始まった。

 

 

お読みくださりありがとうございます。

次話もエレサとリリの回想になります。


改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
エレサさんの独白 なるほどです。 そしてこの内容は咲久ちゃんと律ちゃんにも通ずるような なんとなく今後の展開がいい方向に進みそうでよかった。 それにしてやはりアンリーヌさんは恐ろしい。 かわさんごさ…
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