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危ない匂い

 空気は、さらに最悪になった。

 アンリーヌに宥められている律は、頷くことも何か反論することもなく、悔しそうな表情でただただ叱られている。

 相変わらず黒いモヤを撒き散らかしているけど、モヤにさっきよりも覇気がない。

 わたしに怒鳴っていた時は突き刺すような勢いで出ていたモヤが、今はヘナヘナと律の周りを漂っている感じだ。


「ねえ咲久ちゃん、あのモヤってなんなの?」

「あー、その‥‥‥わたしにもよくわかんなくて、怒った時に出るってことくらいしか‥‥‥」


 重すぎる空気の中、なぜか無意識に小声で会話する。

 それから間も無くして、ドアが開いてエレサが入ってきた。


「さて、私を説得したいのよね?話くらいは聞いてあげるけど、先に言っておくわ。私は2人を報告するっていう考えを変えるつもりはないー‥‥‥って、聞いてんの?」


 入ってきて早々、椅子に向かいながら話し始めたエレサだったが、席についてわたしたちの顔を見渡すと、言葉を止めた。

 

「‥‥‥なんなのこの空気、気味が悪い。想像以上に嫌われたみたいね、私。まあだからといってどうということもないけれど」

「あ、この空気は別に、エレサさん関係なくて‥‥‥」

「‥‥‥え?あ、そう。で、結局なんなの、話すの話さないの?」


 エレナさんは、「勝手に仲間割れしてくれてるのなら都合がいいわ」と言って、わざとらしく鼻で笑って足を組んだ。

 ー‥‥‥うっざいっ。


「話します!!話すに決まってるだろ!あと仲間割れとかじゃないですし、元はと言えばこうなった元凶はエレサさんですし!」

 

 エレサを庇うような発言をした自分の失態が律の逆鱗に触れたので、どう考えても元凶はわたし自身だ。

 でもでも、そもそもエレサがわたしたちを貴族に報告するとか離れ離れにするとか言わなければこんなことにはなってない訳だし、やっぱり元凶のさらに元凶はエレサであって‥‥‥。

 っていうか今晩だって律と2人同じ部屋に帰って、朝を迎えるまで2人きりだって言うのに、ほんとにどうしてくれるんだよめちゃくちゃ気まずいじゃないか!

 半分は八つ当たりだけど、わたしはエレサを精一杯怒りのこもった目で威嚇した。


「そうだぞ、咲久と律の喧嘩は日常茶飯事の痴話喧嘩なんだ。元々俺らは喧嘩の多いパーティーだったしな、2人が俺らのパーティーに正式に入るのが楽しみだ、さらに騒がしくなって楽しくなるってもんだぜ」

「そうそう、それに比べてエレサは、喧嘩できるような仲間もいないんじゃない?」

「おいおいサック、あんまり煽ってやるなって」

「いいじゃん、もっと煽りなよサック。先に煽ってきたのはエレサの方なんだしさ」

「さすがヨナ、わかってるね」


 ゴルドとサックにヨナまで加わって、なんだか嫌な流れで話し合いが始まってしまった。

 これじゃ話し合っていうより煽り合いだ。

 エレサの表情もどんどん険しくなっていく。

 まずい、このままじゃ、エレサを説得なんて絶対にできなくなってしまう。


「ちょっ‥‥‥まって、あの!エレサさん、わたしやっぱり、貴族街行きたくないです。律と一緒に、みんなのパーティーに入りたい。ちゃんと話しませんか?わたしも、今までの話全部包み隠さずエレサさんに話します。それを聞けば、エレサさんもわたしたちがなんでパーティーになりたいのか理解してくれるはずです。だからその後に、エレサさんの事情も教えてください。そしたら、できるだけお互いの事情を汲んだ上で最善の方法をー」

「本当にばかなのね。脳内お花畑で笑える。話し合いをして事情を汲んで‥‥‥何を言っているの?どうして私があなたたちと同じ立場で話さなければならないの?言っておくけど、決定権は全てギルド長の私にあるの。私が承諾しないとあなたたちは冒険者カードを手にすることもパーティーに入ることもできないし、私がささっと通信魔法で貴族に報告してしまえば、もうあなたたち2人はすぐに貴族街行き。立場をわきまえなさい」


 ー‥‥‥なんだそれ。

 話し合いをするとか言っておきながら、この人は最初からわたしたちを見逃す気なんて更々なかったんだ。

 あーもうわたし、なんでこんな人庇っちゃったんだろ。

 ほんと、つくづくばかなんだなあ、わたし。


「ほらね、傷ついた顔。だから言ったのに、なんで咲久はそうなの」


 いつの間にか隣に来ていた律が、わたしの顔を覗き込んで言った。

 そう言う律のほうこそ、私以上に苦しそうな顔していることに、本人は多分気づいていない。

 

「うるさい!はいはいそうですよ、いつだって律が正しいですよ!」

「納得いかないけどまあいいや、咲久とはあとで部屋でゆっくりじっくりわからせるとして‥‥‥私はエレサを説得してくる。物理的に」

「え、まって、部屋で‥‥‥じゃ、じゃなくて、物理的な説得ってなんだよ?!危ない匂いしかしないんだけど?!」


 止めようとしてみたものの、わたしが律の力に敵うはずもなく、ぺぺっとあしらわれる。


「待ってて、すぐ終わらせるから。で、今日はすぐ帰るよ」


 律はそう言って、エレサの方へと走り出した。


 



 

お読みいただきありがとうございます。

律の黒いモヤがなんなのか、作者もよくわかっていません。

改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをしてくださっている方々、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
面白そうなのでブクマしました。 まぁ結局暴力よな。日本なら一応平和だから話し合いが成立出来るけど異世界でしかも中世っぽいし。なら最終的ではあるが暴力の手段を持つべきだろう。まぁ・・・律はトラウマにな…
なんかもう律ちゃんがいくとこまでいかないと解決できない(いくとこまでいったら別の意味で解決できない)感じになってるような 一発逆転もなさそう 次の展開がよめないけどどうなるのかな 確かに物理的な解決し…
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