進路
「絶対そうだと思ったわ」
「えげつねえな」
「さすが律ちゃん、期待を裏切らないよね」
「‥‥‥こわっ」
律の魔力検査の結果を見て、パーティーのみんなは驚きながらも冷静に反応していた。
どうせ規格外の数値が出るとわかっていたから、想定通りだったんだろう。
そんな4人の一方で、エレサの中では想定外だったらしい。
「ど、こんな、ないわ、おかしい、機械が‥‥‥失敗‥‥‥」と、大混乱の様子で呂律が回っていない。
「999って、もしかして最上値?」
「もしかしなくても最上値よ。私たち庶民の平均値は300で、500以上から貴族並みと言われていて、700以上から転移者並みっていうのが一般的に知られている基準ね。999以上は測定できないから、一体律ちゃんにどれだけの魔力量があるのか、正確な数値は測れないわね‥‥‥」
最上値が設定されていて良かったかもしれない。
律のことだから、設定されていなければ「無限」とかいう結果出して、もはや「脅威的すぎる」「このまま生かしていては危険だ」なんてことになって殺されていたかもしれない。
‥‥‥いやいや、流石に考えすぎか。
「ありえない‥‥‥このことは報告しないと‥‥‥でも基盤を乱すとして下手したら消される可能性も‥‥‥」
ちょっと待って、今エレナさんなんて言った‥‥‥?
「え、エレナさん!それは、だめ、です!律はおっかないけど、危ないことはしない‥‥‥とは限らないけどしないようにわたしが見張るし、結構やばい奴ではありますけど、殺されるほど悪い奴ではなくて!」
「ねえ咲久?庇ってくれてるんだよね??」
「ごめん、庇い切れなかった」
「ほお?咲久、ちょっと来い」
「何す‥‥‥やめろ、いひゃいいひゃい!!」
律に頬を思いっきりつねられて、左右に引っ張られながら「ごめんってばあああ!」と涙目で叫ぶ。
「待ちなさい、消されるって言うのは殺されるわけではなく、庶民の中からこの数値の人間が出たというデータや記録が消されると言うことよ。それから、情報が漏れないように、今この場にいるあなたたちの中にある律に関する記憶も消される可能性もあるわね」
「え、な、何それ‥‥‥」
「安心しなさい。律は貴族街に送られて、最初から貴族の人間だったっていうことにされるだけで、なに不自由なく過ごせるわ。それどころか、相当大事にされるでしょうね、きっとかなりの地位をもらえるはず。冒険者として働くよりもずっといいわ」
なにを言ってるんだろう、この人は。
話に追いつけない、ちょっと整理する時間が欲しい。
つまり、エレサがこの結果を貴族に報告してしまったら、律は貴族街に送られてわたしと離れ離れになる‥‥‥?
しかも、わたしたちは律に関する記憶を消されて、律の存在すら忘れちゃうってこと‥‥‥?
「えー、いやなんだけど、どうすればいい?私貴族街とかいく気ないし、地位とかいらないんだけど。そもそも、ここにいるみんなのパーティーに入って冒険者やるために冒険者カード作りにきたのに、理不尽じゃない?進路相談に来たわけじゃないんだけど。悪いけどもう進路決まってるんで」
言い方に棘はあるけど、律の言う通りだ。
こんなの酷すぎる。
「全くだぜ、流石にそれはないんじゃねえの?」
「そんなの、納得できないよ。律ちゃんはもう僕たちのパーティーメンバーなんだからさ」
サックとゴルドの言葉に、わたしも首が取れるくらいの勢いで頷く。
しかし、エレサは表情を変えずに言った。
「‥‥‥まだ登録はしていないわ。あなたたちが勝手にそう言っているだけでしょう」
「おい、なんだとお前ー」
「やめなさいゴルド!‥‥‥全くもう。エレサには後で私からちゃんと説明して、交渉するわ。とりあえず今は咲久ちゃんの魔力検査を終わらせないと。咲久ちゃんの数値も予測できないし、結果によってはさらに話がこじれる可能性もあるわ。後で2人分まとめて話しましょう」
感情的になりかけたゴルドを、すぐさまアンリーヌが宥めた。
わたしの数値は庶民の平均かそれ以下かくらいだと思うから、貴族に送るどうのこうのの話とは縁がなさそうだけど‥‥‥まあそれは置いといて、こういう時のアンリーヌは本当にさすがだ。
「へえ、交渉ね。私は絶対に事実を報告するわよ?ギルド長としての責任があるもの」
「本当にそれだけかしら?そういえば、今まで貴族を毛嫌いしていたあなたが、ある日を堺に急に、月に一度の貴族への報告の日を楽しみに待つようになったわよね。しかも最近は報告書も念入りに作成して、今まで5分足らずで終わらせていた報告の時間を、今では2時間以上かけて行なっているとか‥‥‥」
「ー‥‥‥アンリーヌ、なにが言いたいの」
「いいえ。さあ、続きは後で話しましょう!今は咲久ちゃんの魔力検査よ」
なんだかよくわからないけど、アンリーヌはエレサの弱みでも握っているのだろうか。
本当に、アンリーヌって一体‥‥‥。
「ほら咲久ちゃん、検査してらっしゃい」
アンリーヌは、いつもの穏やかな笑顔でわたしの背中をぽん、と押した。
お読みくださりありがとうございます。
次回こそ咲久の魔力検査に入ります。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます。




