魔力検査
エレサに呼ばれて移動すると、床にポツンと水晶玉が置かれただけの、壁が全方面真っ白な部屋に着いた。
よく見ると、部屋の奥の壁に人1人入れるくらいの奥行きと縦幅の、不自然な窪みがある。
なんていうか、仏壇を置くための窪みっぽいと言ったらわかりやすいだろうか。
魔力検査でこれから何かしらされるとわかっていても、こんな「タネと仕掛けしかございません」みたいな部屋に連れてこられると警戒と緊張で逃げたくなってきた。
「じゃあ、もう準備はできているから、さっさと始めるわよ。1人ずつしかできないけど、どっちからにするの?」
律と顔を見合わせると、わたしは胸の前で拳を作って言った。
「やっぱこういう時はじゃんけんで負けた方からってことで‥‥‥」
「いや、じゃんけんなんてしなくても私からいくよ」
「いやいや、ここは公平に!」
「負けた方からって言ってる時点で咲久怖がってるよね。先行くから、まずは見てな。っていうか、安全が確認できてないのに、絶対先に行かせない」
ーこいつはまたさらっと人たらし発言を‥‥‥。
無意識に言ってると思うと恐ろしさすら感じる。
「あと、普通に楽しみすぎてこれ以上お預け状態はきつい」
「結局そっちが本音かよ!」
まあそんなことだと思ったけど。
「不安」なんて言葉は律の辞書には載っていない。
ただキラキラした目で、未知の体験とその結果にワクワクしているように見える。
「じゃあもうどうぞ、お先に行ってください、ええ、はい」
呆れ顔で律に先を譲ったけど、内心わたしはまだ心の準備ができていなかったのでありがたかった。
うっきうきを隠し切れていない様子の律が、少しスキップになり気味の歩き方でエレサの元へと歩いていく。
「私からになったけど、どうすればいいの?」
「何もしなくていいわ。ただ、この凹みに入って、いいというまで背筋を伸ばして立っていて」
エレサに言われるがまま、不自然な壁の窪みに律が収まった。
「こんな感じ?」
「ええ、いいわ。それじゃあいくわよ。窪みから出ないように。あと、動かないように」
律が「わかった」と頷き、エレサが水晶に手をかざすと、わたしとパーティーメンバーが見守る中魔力検査が始まった。
硬い壁でできているように見えていた窪みが、徐々に縮んでいく。
窪みは律が収まるにはかなり余裕があったはずなのに、気づいたら律の身体の縦幅と横幅にピッタリになっていた。
ーこのまま縮みが止まらず律壁にが潰されたらどうしようなんて考えたけど、流石にそんな大惨事にはならなかった、良かった‥‥‥。
ほっとしたのも束の間、今度は律を囲う窪みの壁に、魔法陣のようなものが浮かび上がってきた。
上面、左面、右面、下面、壁のない正面以外の全ての方面から、魔法陣の光で照らされている。
ー‥‥‥めーっちゃ発光して見えるな、律。
目を瞑っていて無表情なので、ちょっと不安になる。
「あの、アンお姉ちゃん。なんか律を照らしてる魔法陣から、たまに稲妻みたいなパチパチしたものとか見えるんだけど、大丈夫なんだよね‥‥‥その、痛みとか」
「うふふ、大丈夫よ、安心して。あの光が、体内の魔力量や魔力属性はもちろん、筋力や体力、他にも色々解析しているのよ。すごいでしょう」
「あ、CTスキャン的な」
「ー?しいてぃい‥‥‥なあに?」
「ああいや、なんでも!こっちの話です」
安全な光なら良かった。
5分ほど経過すると、光が徐々に弱くなっていった。
「もうすぐ終わりそうだな!結果が楽しみだ」
「これから水晶が、出た結果を白い壁に大きく映し出してくれるんだよ、咲久ちゃん」
「ああ、プロジェクター的な‥‥‥」
「ぷろじぇ‥‥‥?」
「あ、いやあの、こっちの話です!」
そうこう話しているうちに、気がついたら窪みも元の大きさに広がっていた。
律が「終わり?」とエレサに視線を送る。
「終わりよ。出なさい」
「律、どうだった?!」
「あーなんか、眩しかったのと、なんかむずむずするくらいだね」
戻ってきた律に早速駆け寄ってきくと、拍子抜けしたような口調で律が言った。
いったいどんな魔力検査を期待してたんだこの女は。
ピーッ!
「解析ガ 完了致シマシタ」
水晶から声した。
結果が出たみたいだ。
「それじゃあ、映すわよ」
全員頷いて、微かに緊張が漂う。
エレサが水晶に手をかざすと、「結果ヲ 投影サセマス」と再び水晶が喋り、真っ白な壁に光を放った。
すると、 光を当てられた壁から、徐々に模様や文字が浮かび上がってくる。
チェキの写真がだんだんはっきりとしていく感じに似ている。
全てがはっきりと映し出された時、1番大きく見やすい位置にある数字は「999」。
数字の平均や最高数値なんて全く知らないけど、きかなくたってわかる。
多分絶対どうせ、えっぐい数字だ。
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