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他人に戻りたい  作者: かわさんご
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朝のふたり

 夢の世界から徐々に目が覚めていき、重い瞼を少しだけ上げると、うっすらと見えた視界に超ドアップな律の顔面があった。

 なんか、身体に重みを感じる。

 ‥‥‥ああ、律がわたしの身体に腕を絡めてるのか。

 ていうか顔近っ、ちょっと寝返りうったら唇当たりそう。

 寝顔綺麗すぎだろ‥‥‥こんな近くで見ても綺麗ってもう顔面までチートだろ。


ー‥‥‥待って?

 

 目を何度も閉じては開き、まだ寝ぼけている脳で今の状況を認識するのに数秒かかった。


「うわああああ!!は?!」


 わたしは飛び起きてベッドから降りた。

 さっきまで自分がいた場所をベッドの脇に立って確認するが、やはり律のベッドの、律の腕の中だった。

 そして自分のベッドはというと‥‥‥昨晩使われた形跡がない。


「あれ、咲久が先に起きるなんて珍しいね。おはよ」


 律がもそもそと起き上がった。

 わたしは寝起きの律に枕を投げつける。

 顔面に枕を食らった律は、「ぐわっ」と気の抜けた声を上げた。


「何すんの咲久。朝から物騒」

「うっさい!何すんのはこっちの台詞なんだけど?!なんで同じベッドで寝てるんだよ!」

「いや、だって帰ってきたら咲久が私のベッドで寝てたから」

「何言ってんの、そんなわけー」


 いや待て、そういえばわたし昨日‥‥‥そうだ、寝ようと思ったけどあまりにも静かで暗くて落ち着かなくて、なかなか眠れなかったから結局律の帰り待つことにしたんだっけ。

 それで、律がなかなか帰ってこなくてちょっと寂し‥‥‥かったわけではないけどまあちょっと怖くなって、律のベッドに行って律の枕をー‥‥‥。

 え、それで寝落ちした?

 それじゃあ律が帰ってきた時ってわたしどんな感じで寝てたんだ、待って本当に考えたくない。


「そ、それならわたしのベッドにわたしを移動させるか、律がわたしの方で寝ればよかっただろ!」

「咲久が私と一緒に寝たかったのかと思って」

「なわけあるか!」

「あと単純に私が咲久と一緒に寝たかったし」

「ーっ!ひ、ひゃ、百歩譲って同じベッドはいいとして、あんなぎゅーっして寝る必要ないだろ!」

「それは単純に私が咲久と密着したかったから」


ード変態だろ。

 ってか「単純に」ってなんだ「単純に」って。

 しかもそんな発言、勘違いしてしまいそうになる。

 だめだだめだ、騙されるな。

 律にとってはこの距離感が普通で、誰に対してもこれなんだ。

 今日は冒険者登録に行くし、律なら知り合いや友達も1日で何人も作るんだろう。

 また自分だけ少し特別かもなんて期待して、転移前の日々のように苦しみたくない。

 律といると心の平穏が保たれないのに、なぜか一緒にいると安心する。

 本当にこの女は、人たらし代表のような奴なのだ。


「ー‥‥‥まあもういい。女友達で一緒に寝るのなんて普通のことだし」

「え、ちょっと咲久。それなんか違う‥‥‥って、ちょいちょいどこ行くの」

「便所!と洗顔!」

「ふははっ、便所。待った待った、私も一緒に行く」

 

 2人で部屋を出てお手洗いに向かう。

 途中何人かとすれ違ったが、皆わたしたちを見るなりそそくさと早足で通り過ぎていく。

 ー‥‥‥随分と嫌われたものだ、誰かさんのせいで。

 まあ、絡まれないのはありがたいけど。

 例によって汚っいお手洗いにしかめっつらって入る。


「っていうか、律って寝なくても大丈夫なんじゃなかったっけ」


 垢がつきすぎてほとんど見えない鏡を見て前髪についたアホみたいな寝癖を直しながら、隣で溺れる勢いでばっしゃんばっしゃん顔を洗っている律に言った。

 律は蛇口を閉じて、びしゃびしゃの顔に当たらないように髪の毛をかきあげると「ああ。それね」と言って続ける。

 どうでもいいけどいちいちかっこいいのやめてほしい。


「何日か寝なくても平気なのは本当なんだけど、体力がありすぎるだけで睡眠が必要ないわけではなさそうなんだよ。実際寝て今めっちゃ身体軽いし、この三日間で1割くらい減ってた体力ゲージが、またフル充電されたイメージ」

「この3日間で体力ゲージ1割しか減ってなかったことに驚愕なんだけど‥‥‥」


 こちとら毎日午前中でほとんど体力ゲージ空っぽで、午後からは残りゲージ1パーセントの状態で無理やり体と脳を動かしているような三日間だったのに。


「あら、咲久ちゃん律ちゃん、ちゃんと起きてるわねえ」

「ー!アンお姉さん、おはよう」

「あー、アン姉、おはよ」

「うふふ、おはよう2人とも」


 なんか律がぎこちない。

 こりゃ昨日相当叱られたんだな。

 ニヤニヤしていたら、律に静かに睨まれた。


「支度ができたらすぐ2人の部屋に迎えにいくわ。すぐ出れるようにして待っていてちょうだい」


 今日は、冒険者登録をしにいく日だ。

 

 


お読みいただきありがとうございます。

今回は2人の朝の様子を、作者好みでゆるく書かせていただきました。

改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをしてくださっている方々、ありがとうございます。スローペースですが、この先も投稿続けていきますので、時々覗いてみていただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほんとにふたりは仲がいいなってわたしがニヤニヤしながら読んでました。ふたりとも相思相愛。だけど種類はちがうかなぁ 咲久ちゃんの守ってもらいたいきもちがつよい好きと律ちゃんのもう誰にも手を触…
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