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他人に戻りたい  作者: かわさんご
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お説教2

 律がアンリーヌに連行されていって、ゴルドとサックはあのリビングに残り、わたしとヨナは自室に撤収した。

 1人で部屋に帰ってくると、電気のつかない暗い部屋が昨日の何倍も怖く感じた。

 別れ際、ヨナが水の魔術で体を洗浄してくれた。

 こっちの世界に来てからまともにお風呂に入れていないので、かなりありがたい。

 本当は、今日ヨナとアンリーヌと4人でお風呂に行こうって話していたのに、律のせいで見送りだ。


「ほんと律のばか、考えなし」


 静かで暗い、馴染みのない小さな部屋で、わたしは1人ふてくされる。


「いっぱい説教されてこい、ばーか」


 吐き捨てるように呟いて、わたしはベッドにダイブして布団を被った。


***


「すみませんでした。やりすぎた自覚はあります」


 半ば強引にアンリーヌの部屋に連れてこられた私は、ベットに腰をかけて足と腕を組んでいる彼女の前で、床に正座して脂汗を流している。

 私は転移前後に関わらず基本何でもうまくやれる方だし、ミスしても誤魔化したりノリで乗り切れてきたので、こんなふうにしっかりと「お叱りモード」みたいな空気は初めてだ。


「やりすぎた自覚はありますって言い方も引っかかるわね。そもそも私はね、昨晩のリビングでの行動がどうのこうのというよりも、私の言いつけを破って勝手な判断で行動したことに怒ってるの。なんでかわかるかしら?」

「あ、危ないからだよね」

「うーんまあ間違ってはないわね。この先、みんなでパーティーとして活動していく中で、危険な場面はたくさんあるはずよ。冒険者ですもの。それなのに、たとえば敵の特徴もフィールドの環境も何も知らないあなたが、後先考えず自分だけの判断で飛び出して行ったらどうかしら?」

「それは‥‥‥」

「危ないわよね。あなただけじゃない、パーティーのみんなが危ないわ。それに信頼関係も損なわれる。パーティーは互いに信頼しあっていないと成り立たないの。律ちゃんは、私のことを信頼していなかったのかしら?私はちゃんと今日紹介の時に、咲久ちゃんはもちろん律ちゃんにも絶対にちょっかい出さないように、危害を与えないようにってみんなに言うつもりでいたし、それでも何かしてくる者がいたら対処しようと考えていたのよ」


 何も言い返せない。

 確かに今思えば、アンリーヌが私たちのためにもしもの時の対処やみんなへの注意をちゃんと考えてくれていたことぐらいわかるのに。

 私は昨晩、私が咲久を守らなきゃ、私だけしか守れないんだと思って、その気持ちばかりが暴走して余計なことをしてしまった。

 結果的に、咲久にも引かれ、アンリーヌのことも傷つけてしまった。

ーやらかしたなあ、これは‥‥‥。


「律ちゃんはきっと、強いが故に自信があるのよね。だから今までも未知の世界で何にも臆さず、思い立ったらすぐ行動に移して‥‥‥その勇敢さで咲久ちゃんを守ってきたんでしょう。けどこの先は、強引な強さだけじゃどうにもならないことがたくさんあるわ。知識を学んで、作戦を立てて挑まないと手も足も出ない相手に出会っていいくの。過度な自信で暴走されたら‥‥‥わかるわよね」

「ーっ‥‥‥おしゃる通りです」

「わかればいいのよ。今までは律ちゃん1人で咲久ちゃんを守ってきたかもしれないけど、もうこれからは私たちもいるの。みんなのことを信頼して、頼ってほしいわ」


 最後にアンリーヌは優しく笑って言った。

 

「はい、お説教おしまい。ほらもう立って、いつまで正座して俯いてるの。咲久ちゃん部屋に1人にしてるんだから、行ってあげなさいな」


 私は、立ってアンリーヌの目を見て「ありがと、アン姉。あとごめん、本当に」と言って頭を下げた。


「もういいのよ。ほんとにこの子は、憎めないわねえ」


 そう言って困ったように柔らかく微笑んだアンリーヌに見送られ、私は彼女の部屋を出た。

 思い返すと、今までの自分の咲久を守るための行動は、自己満足なところもあったと思う。

 特にみんなと出会ってから、私以外に頼ったり、私以外の人に笑顔にさせられたりしている咲久を見ると、モヤモヤが抑えられなかった。

 私に頼ってほしい。

 私がいないとダメだと思ってほしい。

 私がいるんだから、私以外の人を頼りにしないでほしい。

 みんなと出会うまでは、咲久が頼れる相手は私だけだったのに。

 咲久が徐々にみんなに心を開いていって、確実に笑顔を増やしていることが、良いことなはずなのにどこか寂しかった。

 特にヨナと気が合うようで、2人で話していることが増えて、嫉妬心を抑えて平然を装うのも一苦労だ。

 咲久と2人だけでどこかへ行ってしまいたいなんて無謀なことまで考えた。

 でも私だけじゃ、この先咲久を守りきれないんだ。

 

「ただいま、咲久。ー!」


 咲久が、私の方のベッドで、私の枕を抱えて座った状態で寝ていた。

 帰りを待っていて、寝落ちしたんだろう。

 何この可愛いい生き物、ずるい、あざとい、愛おしい。

 私は咲をちゃんと横向きに寝かせ、同じ布団に入って眠った。

 この先沢山新しい仲間と出会うだろうし、誰からも愛される咲久だから、きっと彼女の味方もどんどん増えていくんだろうな。

 それでもどうかこの先も、咲久にとっての特別は私だけであってほしい。

 絶対に、咲久のことを一番好きで大事にしているのは、誰がなんと言おうと私なんだから。


 




 

 

お読みいただきありがとうございます。


今回は律の回でした。

律の咲久への愛をこれでもかと詰め込みました。


改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをしてくださっている方々、本当にありがとうございます。スローペースですがこの先も投稿続くので、時々覗きにきてくれたら嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回もいい回です わたし自身は咲久ちゃん側のひとだけど 律ちゃんのきもちすごく同感だし、咲久ちゃんには自分だけが特別ってそうだよねって思いました。 それとやっぱり律ちゃんは素直でいい子(暴…
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