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他人に戻りたい  作者: かわさんご
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お説教

「あー、えっと、何したっていうか‥‥‥昨日ちょっと、アン姉たちと別れた後リビング行って、みんなと少しだけ話したっていうか」


 常に笑顔で穏やかなアンリーヌが珍しくキツめの口調になったからか、律が少し焦っているように感じる。

 っていうか、わたし律が昨日リビングに行ってたなんて知らないし聞いてないんだけど。

 

「何が少しだけ話した、だ!突然フード被った知らない奴がきたと思ったら、ノックでドア破壊して、1人ぶん殴った挙句一方的に喋り出して脅して‥‥‥。アンリーヌ、こいつなんなんだよ?!詳しく説明してくれねえと、こんな物騒な奴このアパートに置いておけねえ!」


 ーちょっと待って、ほんとに何してるの?

 奇行すぎる、本当に理解できない。

 一体何がどうなったらそんな状況になるんだ。

 いや、律はぶっ飛んでるところはあるけど流石にそこまでやばくないはず。

 この男が嘘ついてるか大袈裟に話持ってるか‥‥‥そうだよ、この男みるからにやべえ奴感醸し出してるし。


「り、律、今の話、流石に嘘だよね」

「いや‥‥‥概ねそんな感じだったかも。結果的に、うん」


 ーやべえ奴は律だった‥‥‥。

 わたしはそっと律と距離をとる。


「待って咲久、誤解‥‥‥ではないけど、事情があってー」

「律ちゃん」


 あ。

 アンリーヌが、怒っている。

 口元は笑っているのに、目と声のトーンが笑っていない。

 黒いもやが出ている時の律とはまた別の怖さがある。

 アンリーヌがゆっくりと律に近づいていって、恐ろしい笑顔で笑うと、律の両手を握って律と至近距離で向き合った。

 わたしは冷や汗をかきながら、さらに律と距離をとる。


「私、言ったわよね?みんなとの挨拶は明日しましょうって。トイレでばったり会っちゃったとかならわかるわ。でも、自分からリビングに行って?ドア破壊して?殴って?脅して?一体あなたは何をしているの?」

「待って、色々説明させて。まず、意図して破壊したわけではなくて、ちょっと強めにノックしたらなんか凹んじゃったんだよ。あと、殴ったのも向こうが先に接触してきて、焦って抵抗したらなんか相手が思ったよりも弱くてさ。あと脅したんじゃなくてまあ‥‥‥注意喚起をしただけだから」


 だめだ、この人本当にやばい。

 なんでノックでドアが凹むんだよ。

 相手が弱いんじゃなくて律が怪物なんだよ。

 こんなにみんな怯えてるのに注意喚起をしただけなわけあるか!

 ツッコミどころが多すぎる。

 あと、サックとゴルドは笑いすぎ。

 見たことのない表情でドン引きしているヨナとの温度差がすごい。

 やっぱヨナとは気が合うな‥‥‥もう律とはまた距離をとって、ヨナといたくなってきた。


「‥‥‥言いたいことは山ほどあるけど、まあ要は力加減がうまくできなかったってわけね。そこはまあ、律ちゃんだものね‥‥‥納得するしかないわね」

「納得できるか!バケモンじゃねえか!人間じゃねえ!!」

「ー!人間じゃないは言い過ぎだろ‥‥‥です!言っていいことと悪いことがある‥‥‥りますよ!」


 カチンときて、つい口を挟んでしまった。

 わたしだってさっき脳内で律のこと怪物呼ばわりしたのに、どの口が言ってるんだ。


「咲久ちゃん、落ち着いて。この状況じゃあ律ちゃんがああ言われても仕方ないわ。今は冷静に、まず状況の整理をしたいの。私は律ちゃんと咲久ちゃんがこのアパートで心置きなく暮らせるようにしたいの。そのためには、敵対するんじゃなくてまずちゃんと誤解を解いて、ここにいるみんなに2人を認めてもらわないと」

「別に、律を庇ったわけでは‥‥‥ああもう!律!力加減できなかったってのは、黒髪でみんな納得してくれてるだろうから、とりあえずなんで昨晩リビングに行ったのか説明してよ」


 とりあえず、その奇行の意味がわからなければ、ここにいるみんなの律に対する恐怖心と不信感は永遠に拭えないだろう。

 それに、意味もなくそんなただただバカな真似をするような人じゃないことは、まあ知っている。


「いや、なんか物騒なアパートだったからこの先咲久にもしものことがある前に、咲久に手出さないようにあらかじめ住人脅しておけば手っ取り早いかなと思ったんだよね。でも力加減できないせいで思った以上にやりすぎちゃって。あと、脅しに来たのが私だってバレない予定だったんだけど、なんか声と背丈で普通にバレちゃって‥‥‥色々想定外が重なってしまったというか。まあでも、私強いし、みんな私のこと怖いかもしれないけど、咲久にさえちょっかい出さなければ私から何かすることはないから安心しー‥‥‥え、ちょっとアン姉痛い‥‥‥ね、ねえちょーえっ」

「咲久ちゃん、疲れたでしょう。もう自分の部屋で休みなさい。律ちゃんちょっと借りるわね」


 場が凍りつき始めたその時、長舌に話す律の髪の毛をわしっと掴んだアンリーヌが、律をアンリーヌの自室へと連行していった。

 




お読みいただきありがとうございます。

次話は、10話の「離れさせない」23話の「脅し」に続いて、3回目となる律の回にしようと思っています。

改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメント、誤字報告などをしてくださっている方々、本当にありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんかいはすごく予定通り そんななかでの咲久ちゃんの心の揺れ幅。 律ちゃんを遠ざけたり、信じてる部分だったり、ぐちゃぐちゃになった分ヨナちゃんによったり。 最後のところでは律ちゃんにもどっ…
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