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アパートの住人たち

 アパートに着くと、わたしたちは真っ先にあの共同のリビングへ向かった。

 どんちゃん騒ぎしている声がリビングに近づくにつれ大きくなっていき、それに比例するようにわたしの心臓の音も爆音化していく。

ーあああ怖い。関わりたくない。ああいうタイプの人たちは、だいたいコミュ強でウザ絡みしてくるし。

 特にわたしみたいな大人しそうな、緊張してそうな子に対しては、獲物でも見つけたかのように飛びつてきて、大して思ってもないくせに「いやーんかわいい〜!」とか言ってくるんだ。

 学んだぞわたしは、この17年間で。


「咲久、流石に緊張しすぎじゃない?」

「‥‥‥はいはい。律は得意だもんね、こういう場」


 律にコミュ障陰キャ気質のわたしの気持ちを理解してもらうのは、もうとっくに諦めている。

 それにどうせ、注目されるのは黒髪の律の方だろう。

 わたしは律の後ろにひっそりと立って軽く挨拶して、律が騒がれているうちにさっさと先に部屋にも戻っておこう。


「得意なわけじゃないけど、まあうまいこと流せると思う」

「‥‥‥わたしも一度でいいからそんな台詞言ってみたいよ」

「とにかく、咲久は何も心配しなくて大丈夫だよ。咲久が悪絡みされないように、手は打ってあるから」

「はいはい。ー‥‥‥え?」

「2人とも、入るわよー!」


 律が何か最後に引っ掛かる発言をしたような気がしたけど‥‥‥もうそれどころじゃない。


「みんな〜!ちょっといいかしら」

 アンリーヌが、既に全開になっているドアをコンコンコン、と強めにノックして言った。

 視線が一斉にこちらに集まり、しばらくして、どんちゃん騒ぎ状態から、学校の休み時間状態くらいまで場が落ち着いていく。


「なんだアンリーヌたちか。お前らがリビングに来るなんて珍しい」

「普段は付き合い悪くてごめんなさいね、あれこれ忙しくって」

「なんだあ?俺らが暇みたいに言ってくるじゃねえか」

「実際毎日遅くまで騒いで飲んでしてんだから、暇人だろ」

「そうだね、僕もゴルドに同感」

「言ってくれるじゃねえかお前ら」

「今夜は朝まで付き合ってもらうからな、ほら飲め!」


 ー‥‥‥なんかもう無理かも。

 ノリが想像通りすぎる。


「しょーがねえな、今日だけだぜ!」

「ゴルド!違うだろ、今日は」

「そうよ、2人をみんなに紹介するために来たんだから、一緒になって騒ぎたいなら後にしなさい」


 手渡された酒瓶を掴もうとしたゴルドの手をサックが引っ叩き、アンリーヌが瓶を没収する。

 この様子だと、ゴルドはよくリビングに来ているみたいだ。


「ああすまん、そうだったそうだった!今日はな、俺らの新しいパーティーメンバー兼、ここの住人になる2人を紹介したいんだ」

「へえ、お前らのパーティー人増やす気も必要もないって言って、結成当初からメンバー変わってなかったのに急に2人も増えたのか」

「なになにー?ちょっと面白そうじゃない」「どんな子なんだよ」「女?男?可愛い子なら大歓迎だぜ」


 ーああ‥‥‥どんどん嫌なノリになっていく。

 もういい、何も考えるな、どうせ逃げられない。


「2人とも、入ってきてちょうだい」


 アンリーヌに呼ばれて、わたしと律はリビングに入った。


「律です。アン姉たちのパーティーメンバーで、冒険者‥‥‥に、明日なる予定。よろしく」

「あ、咲久です。同じく、です。よろっ、よろしくお願いします」


 ーあれ?

 突然、リビングの空気が変わった。

 シン、と静かになったかと思えば、ヒソヒソコソコソと耳打ちをし始めたり、目線を送り合ったりしている。

 予想では、めちゃめちゃ騒がれるかと思ってたのに、この反応はこれはこれで気味が悪くて怖い。

 やっぱり律の黒髪が相当珍しくて衝撃なんだろうか。

 ーいや、違う‥‥‥わたしのことも見てる?


「顎下ボブ、小柄、可愛い、アンリーヌに連れられてくる、女の子‥‥‥」


 1人の住人がつぶやくと、徐々にざわざわが大きくなっていく。


「そうだよな、絶対」

「ってか、もう1人の黒髪って、背丈とか声とかからして、昨日の‥‥‥」

「ドア凹まして、あいつのことぶっ飛ばした‥‥‥」

「うわああああっ!」


 律が入るなり尋常じゃないくらいに震え上がっていた包帯を巻いた男が、叫びながら部屋から飛び出していった。

 一体何が起こってるんだろう。

 みんなの視線の先を見ると、不自然に凹んだドアがあった。

 そういえば、このドア昨日も凹んでたっけ‥‥‥?


「あの、アンリーヌお姉さん‥‥‥?みんな、どうしたの?」

「わからないわ。驚かれるとは思っていたけど、明らかに反応がおかしいわね‥‥‥」

「そういえば律、さっき手を回しておいた、みたいなこと言ってたけど、それってー」

「あー、うん、私昨日咲久が寝た後ちょっとね」


 わたしが律に、「何したの?」と聞く前に、アンリーヌが律に問い詰めた。


「律ちゃん、あなた昨晩何したの?正直に全部話しなさい」







お読みいただきありがとうございます。

アパートの住人たちに律が何をしたのかは32話「脅し」で書いています。

改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをしてくださっている方々、本当にありがとうございます。この先もほぼ週1のスローペースですが続いていくので、たまに覗きにきていただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 予定通りではあるけれど いろんな争いが勃発するかもですね なんとなく律ちゃんの答え方はわかるんでそのあと それぞれがどんなうけかたをするかドキドキものです (かわさんごさんがどんなさばき方…
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