今後のこと
「さて、それじゃあそろそろ今後のことについて話しましょうか」
食事が終わり皿がさげられ、お茶か運ばれてきたところでアンリーヌがパン、と手を鳴らして言った。
「そうだな!違法な方法ではあるが魔力定着は完了したわけだし、もうギルドに行って登録すれば正式に俺らのパーティーに入れるわけだ。明日早速手続きに行くか!」
この世界では、6歳の時に参加しなければならないという「洗礼の儀」と呼ばれる儀式での魔力定着以外は違法らしい。
その儀式で魔力定着をすることで国民と認められるらしいけど、一般的に洗礼の儀以外で魔力定着をすることなんて不可能だと思われているので、本当に洗礼の儀で魔力定着をしたのか、なんて疑われることはまずないそうだ。
まあ要は、ばれなければいいんだ、ばれなければ。
「咲久ちゃんはいいとして、律ちゃんの黒髪は目立つわね…どうしましょう。私たちのパーティーに入る前に、冒険者登録もしないといけないのだけれど、その時は身分証明登録カードを作るためにフードをとって顔写真をとらないのいけないし」
「髪色を隠し通しての登録はまず不可能だな。髪を染めて行ったとしても魔力測定でバレちまう」
やっぱり、律の黒髪は相当厄介らしい。
アンリーヌたちがどうにかならないか、と抜け道を絞り出そうとしているが、なかなか良い案がでてこない。
「あのさ、もう正々堂々と、隠さずに行ってもいいかな」
「え、いやだから、それが目立ってやばいって話なのに、何言ってるの律!」
「でも、別にもう目立っても問題なくない?昨日までは、魔力定着をしてない異世界人だったからバレたらやばかったわけで、今は魔力定着を完了している国民なんだよ。転移者ってばれなければ、問題ないはずでしょ。すごい冒険者がいるぞ、ってちょっと注目されるくらいだよ」
そうか、転移者であるわたしたちを血眼で探しているであろう貴族から隠れるために目立つことを避けていたけど、彼らはわたしたちが魔力定着をしたなんて思わないだろう。
黒髪がいる、と噂になれば貴族の耳にも入るかもしれないけど、魔力定着をしている国民だとわかった時点で転移者候補から外れるはずだ。
「まあ、そうね…しばらくは騒がれるかもしれないけれど、律ちゃんが気にしないのなら隠さずに行ってもいいと思うわ」
「私なら気にしないよ、目立つことにはなれてるし、注目されるのも嫌いじゃないから」
ー……さいですか。
学校でも人気者で美人で目立ってましたもんね。
注目の的になるのは慣れてますもんね。
「何、咲久。そのじとっとした目は」
「別に。なんでもない」
「そうと決まれば何の問題もなく登録できるな!明日の魔力測定が楽しみだ」
「そうだね、一体律ちゃんにどんな数値がでるのか……。あ、もちろん咲久ちゃんも、ね!」
ーわたしのおまけ感、すごい。
「それじゃあ明日のことも決まったことだし、そろそろ帰りましょうか。そうそう、帰ったらアパートのみんなにも挨拶しないといけないわね」
あの、飲めや歌えや騒いでた物騒な住人たちのことか……。
なるべく関わりたくないけど、同じ屋根の下にくらして、トイレやお風呂も共有するとなったら仕方ない。
ちゃんと挨拶しないと、いつ殺されるかわかんないし……。
相変わらずアンリーヌの奢りで居酒屋を出たわたしたちは、アパートへと急いだ。
足取りが重いのはわたしだけだった。
お読み下さりありがとうございます。
大勢がいる場面になったらなかなか話がすすまないので、場をまとめるアンリーヌが書いててめちゃめちゃ重宝します。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをしてくださっている方々、本当にありがとうございます。




