打ち上げ
「交渉成立と魔力定着成功を祝して!」
「「かんぱーい!!」」
サックの声に続いてそれぞれに持ち上げられたジョッキが、チーンと良い音を鳴らす。
成功後闇市を後にしたわたしたちは、昨日と同じ居酒屋に来ていた。
早速律の魔力を狙っていたザースが「今すぐ提供しろ、してから帰れ」とうるさかったが、魔力定着後すぐで体内の魔力が安定していない状態での魔力提供はリスクがあるらしく、アンリーヌに叱られたザースは渋々諦めてくれた。
念の為丸1日は魔力の提供はもちろん使用も控えた方が良いとのことで、2日後、ザースが魔力を貰いにくるそうだ。
そんなこんなで闇市を出てみたら、もう外は夕暮れだった。
闇市はダンジョンのような室内だったから気が付かなかったけど、そんなに時間が経っていたのか‥‥‥どうりでお腹が空くわけだ。
わたしは運ばれてきた料理を口いっぱいに頬張る。
「あのさ、私の髪色‥‥‥黒って、どう珍しいの?事例がないわけではないんだよね」
「そうね、でも黒髪の人は、この世界に知られている限りでは律ちゃんを除けば2人だけなのよ。2人とも貴族の中でも相当上位で、私たち平民からしたら遠い存在ね」
律、ただえさえ最初からチートだったのに、さらにすごい人になっちゃったてこと?
わたしだって一緒に転移したのに、なんかめちゃくちゃ不公平じゃないか‥‥‥。
腑に落ちない気分で、骨付き肉にかぶりつく。
「そもそも、色が出る仕組みは闇市で説明されただろ?ほら、炎の属性を持ってたら赤色が出て、魔力量が多かったら色が濃いって感じのあれだ。大前提としてその仕組みから考えてみてほしくてな‥‥‥」
ゴルドはそこで一度言葉を止めると、わたしの頭にぽんっと手を置いて、「たとえば咲久ちゃんで考えてみてくれ」と言って続ける。
「咲久ちゃんは淡い黄色。黄色の属性は回復魔法だ。金髪なんかじゃなくて薄くて淡い色合いだから、魔力量は少ないみたいだな。白と黄色が混ざったんじゃないかってくらいのクリーム色だよなあ‥‥‥髪色だけで言ったら咲久ちゃんも珍しい、みたことねえな」
「まあでも、白の属性なんてないから、本当にただただ魔力量が少なすぎて黄色になりきれずにクリーム色になったんだろうね!」
珍しい、とゴルドに言われて少し期待した矢先、サックにそれをぶった斬られた。
つまりわたしは激弱クソ雑魚というわけだ。
わかってたよ‥‥‥わかってた。
「じゃあ、黒はなんの属性なんですか?」
もうこれ以上自分の弱さを知りたくないので、話題を律に変える。
黒だったら、よくあるのは闇の魔力とかだろうか。
もしそうだったとしたら黒魔術とか使えるんじゃ‥‥‥ってことはあの律から出てた黒いモヤは闇のー。
「それがね、黒の属性も存在しないのよ」
ーことごとく期待と予想が裏切られていく‥‥‥。
骨だけになった肉が、カランと哀しげな音を立てる。
「色んな色が混ざりすぎると、最終的に黒になるだろ?つまりそーゆうことってわけだ」
「律ちゃんは色んな魔力属性を持ってて、しかも魔力量が多いからその1つ1つの色も濃いんだよ。それらが全部混ざって、黒くなっちゃったってわけだね」
ゴルドの雑すぎる説明に、サックが捕捉した。
ー理解した。理解したけど、それってやっぱり律最強ってことじゃないか。
やっぱりあまりにも不公平すぎる。
「なるほどね。まあ、咲久がめっちゃ弱くて、私がめっちゃ強いことはわかった」
「ねえ律、だいぶうざい」
「大丈夫だよ、咲久。なんかあったら私が守るし」
「そういうことじゃない!」
わたしだって、炎とか土とか操ったりしたかった。
てっきり魔力定着したら誰でも練習すれば使えるようになると思っていたのに、最初から魔力量も属性も決まってるなんて‥‥‥しかも回復って。
戦えないし、誰かが怪我しないと役に立てないのにこんな最強女が一緒にいたら敵なんて簡単に倒せちゃうだろうから、絶対わたしいらないじゃないか。
転移して、自分は少し特別な存在かもしれないなんて、どこかで期待していたのかもしれない。
転移する前からだったけど、律の隣にいると自分の平凡さが際立って時々辛くなる。
ー本当、どうしようもなく面倒くさい女だなあわたし。
律が、アンリーヌたちから自分が使える魔力の使い方についての話を真剣に聞いている。
「いいなあ‥‥‥」
つぶやいたら泣きたくなってきたので、情緒を安定させるためにもうやけ食いすることにした。
新たな骨付き肉に手を伸ばす。
「ちょっと」
「へ、あ、ヨナ、どうひはほ」
いつの間にか隣に来ていたヨナに気がついて、慌てて頬の中の肉を水で流しこむ。
「いや別に」
「‥‥‥?そ、そっか。あ、ヨナは綺麗な青色だよね、髪色。なんか夜空みたい」
「夜空‥‥‥はじめて言われたけど。青なのは、水属性だからってだけだし」
「水属性‥‥‥いいなー。あ、そうだヨナ、これあげる」
わたしはヨナの髪に、銀色のラメが散りばめられたピンをつけた。
お気に入りで、黒髪に映えたからよくつけていたけど、今のクリーム色にはあんまり合わないから、ちょうどいい。
「やっぱりすっごい良い!ラメが星みたいで、さらに夜空みたいになった!」
「本当だ、結構、ありかも‥‥‥もらっていいの?」
「うん!」
ヨナは、「あのさ」と言って、その後何も言葉を続けずに目を逸らして何か言いたげにピンをいじり始めた。
「あ、気に入らなかったら無理してつけなくてもー」
「違う!‥‥‥ヨナ、咲久の髪色結構まあまあ好きだから。回復も、ありがたいし。ヨナみんなと比べたら強い方じゃなくて、怪我もする時はするし。あんたの連れは確かにすごいけど、あれはもはや化け物だし」
ーそっか、慰めようとしてくれてるんだ。
わたしがひっそりとショックを受けていたことに気がついて。
「ヨナ、ありがとう。めーっちゃ嬉しい!」
わたしがそう言ってヨナに抱きつくと、ヨナは「おいやめろ!」と言いながらも全く逃げようとしなかった。
それどころか、ぎこちなく背中をポンポンと叩いてくれた。
ヨナに何かあったら絶対に真っ先に誰よりも早く回復しに行こう。
わたしはその時強くそう誓った。
お読みいただきありがとうございます。
ヨナと咲久の不器用同士の2人の絡みを書くのが楽しくて、今回はいつもより少し長めになりました。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをしてくださっている方々、本当にありがとうございます。




