表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/97

交渉終了

「まあ、戦闘中につい魔力を使いすぎちまうことはあるが、魔力を全部使い切る前に体が動かなくなるからな。魔力が空っぽになって死ぬってことはなかなかないぜ」

「戦闘中に体が動かなくなったら普通に殺されるけどね」


 ゴルドの補足に、ヨナがさらに恐ろしい付け足しをした。


「ちょっと2人とも、変に怖がらせないでよ!今は魔力提供の話で、ちゃんと量を調整できる。戦闘中みたいな危険なことは起こらないんだから」


サックが「ほんっとーに、危ないことさせようと思ってないからね?!」と慌てて言う。

律をみると、曲げた指を顎に当てて、険しい表情で考え込んでいる。


「わたしは、その見返りでいいよ……です」


サックがずっと不安げにわたしたちをの返答を待っているのに、律がいつまでたっても話し出しそうにないので、わたしから答えた。

わたしが答えてすぐ、サックとザースはもちろん、わたしも、他のみんなも律に視線を送る。

少しの間、沈黙が流れた。


「ー……わかった。じゃあ、その条件で」

「いいの?!」

「いいのか?!」

「いいんだね?!」


律の言葉に、わたしに続いてザースとサックも声を上げる。

アンリーヌたちも、やれやれという表情でこちらをみていた。


「でももし、魔力提供の影響で咲久や私の体調に異変が起きたりしたら、その時は許さない。さっきみたいに、ザースが研究に夢中になって正気を失って私たちに危害を加えることがあったら、その時点で魔力提供は金輪際しない。あと、もし万が一そうなった時の対策のために、魔力提供の時はパーティーメンバーの誰かに付き添ってもらう。これ、全部守ってくれるなら‥‥‥まあいいよ」

「わかった、約束する」


 ザースが全力で首を縦に振って、律の魔力提供の条件を呑んだ。

 わたしたちがザースに交渉してお願いする側だったはずなのに、これじゃあわたしたちが交渉を持ちかけられている側みたいだ。

 暴走した時は怖かったけど、ザースが魔術オタクで助かった。


「それじゃあ、交渉成立ってことでいいかな」

「うん、それでよろしく」

「よ、よろしくお願いします」

「よっしゃ‥‥‥よっしゃあ!これでだいぶ研究がスムーズに進むぞ‥‥‥魔力が足りなくてできていなかった実験も、未開発の魔術だってー」

「待て待てザース、とりあえず例の魔術具があるところまで連れて行ってよ。2人がその魔術具を使って無事魔力定着を完了しないと、2人がザースに魔力提供することはない‥‥‥っていうか、物理的にできないからさ」


 早速暴走しそうなザースが、あまりにも不安すぎる。

 律が新たに魔力提供に関する条件を追加したのは正解だったかもしれない。


「あ、ああ、そうだったな。そうと決まれば早速やるぞ。あっちのテントに入って待ってろ」


 ザースはそう言って、ものがごちゃごちゃと並んだ売り場のテントのすぐ隣に置かれた、入り口が閉められている真っ黒いテントを指差した。

 そして、質問する隙も与えず「俺は準備があるから」と言って売り場の方のテントの中で何やらガチャガチャと魔術具をいじり始めた。

 こうなると何を言っても彼には届かなさそうだ。


「‥‥‥えっと、とりあえず、あのテントに入ってればいいんだよね」

「そうみたいだね」


 恐る恐る真っ黒なテントの入り口をめくってみると、中も少しのムラもなく真っ黒でだった。

 光を通さないその中を、入り口からの光だけ頼りに目を凝らして見てみたけれど、中には何も置いていない。

 ただただ漆黒な空間だ。

 こんないかにも何か起こりそうな得体の知れない空間に入るなんて怖すぎる。


「よし、もうできるぞ」

「えっ、はや‥‥‥!あ、それが例の、ですか?」

「そうだ」


 ワクワクを隠しきれない様子で来たザースの手は、両手で抱えるくらいの大きさの魔術具を持っていた。

 それをテントの中央に置くと、また何やら弄り始める。

 しばらくすると魔術具が光り、魔術具を中心にして黒い床に青い光で模様が描かれた。

 これはあれだ‥‥‥魔法陣、みたいだ。


「準備できたぜ。どっちからやるんだ」

「あ、ええっとじゃあ、わたー」

「私からやる」


 律が、前に出ようとしたわたしを後ろから引っ張って、手をあげた。


「怖いんでしょ、咲久。震えすぎ」

「ーっ!!そ、そんなことは‥‥‥なくは、ないけど‥‥‥律だってー」


 「律だって怖いくせに」と言おうとして、律の表情を見て言葉を止めた。

 だめだこの人、めちゃくちゃウキウキしてる。


「お前からでいいんだな?じゃあ中にはいれ。あ、他のやつはテントの中には入れないからな」

「一緒に入れないの?!」

「周りに人がいたらそいつらのことも認識しちまってうまくいかない。魔術具を使った儀式じゃあ常識だろうが。なんのための認識遮断テントだと思っている」


 眉間に皺を寄せて心底不機嫌そうに言われたけど、そんなこと知ったこっちゃない。


「それじゃあ、行ってくるよ」

「あ、待っ‥‥‥、気をつけてよ?!」


 律が躊躇いなくテントの中に入って入り口を閉じた。

 するとすぐに、テントが目も開けていられないほど光り始めた。



 


 





お読みいただきありがとうございます。

ようやく交渉が終わりました。話の続きは無限に考えてるのに、書くペースが遅すぎて話がなかなか進みません。

改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントで応援してくださっている方々、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読むの遅くなっちゃった。ごめんなさい。 ザースはほんとにそのままな感じですね。 ま、裏がない分安心できそう。 というよりさすがの律ちゃん なにかあってもどうにでもできるって自信がすごいよ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ