交渉再開
「とりあえず、サックが言い出した私たちのことも見返りにするっていう考えについて、詳しくきかせてほしいんだけど」
律が、絶対にサックとザースに近づくなとでもいうようにわたしの腕をがっしり掴んだ状態で、サックを睨みつけた。
睨まれているのはわたしじゃないのにめちゃめちゃ怖い。
サックは分かりやすく「誤解なんだよう」と焦っていて、ザースも若干怯んでいるようみえる。
「僕は、2人の魔力をザースの研究に提供できないかなって思ったんだよ。魔術具を作るのには魔力を注がないといけないけど、1日で使える体内の魔力量には限界があるからさ。特に転移者は魔力量が桁違いってきいたことがー」
「転移者!!転移者なのか?!」
「うるさい、その反応はもうしつこい」
サックの話を遮ったザースに律は冷ややかな目線を送る。
許してあげてよ、わたしたちからしたらしつこいけど、ザースにとっては初耳なんだから……。
「そう、2人は転移者。より興味湧いてきただろ?魔力量が多いのはもちろんだけど、転移者の魔力は僕たちの魔力とかどこか違う可能性もある。質が良いかもしれないし、特殊な性質をもっているかもだよ」
「確かに……そうだな。……調べたい。使いたい」
「調べることも使うことも、魔力定着をしないことには始まらないけどね」
ザースの気持ちが大きく揺れているのがわかる。
このままサックが押せばー
「ちょっと待って。私と咲久はその話初耳だし、同意もしてないんだけど」
終始苛立った様子で話をきいていた律が、サックとザースの間に入って言った。
ー折角交渉成立しかけてたのに、この人は……!
「何言ってるの律、めっちゃいい話じゃん!魔力を提供?するだけで、魔力定着させてもらえるんだよ。そしたら外に堂々と出歩けるようになって、魔術も使えるようになってー」
「咲久、ほんと考え無し」
「なっ…、は?!だいたい律はさっきからー」
言い返そうと律に向き直して、わたしは思わず口を噤んだ。
律があまりにも真剣な目でわたしをみていたから。
「な、なん……なに」
「何、じゃないでしょ。魔力提供って、具体的にどうやるのか聞いた?魔力って体内にあるものでしょ。それを外に提供するんだよ。体力もってかれたりするんじゃないの?それって本当に安全なの?そこらへんのこと考えてないでしょ、咲久」
「ーあっ……」
確かに、まったく考えていなかった。
いや、でも、流石にそんな危険なことを提案してくるなんてことはサックはしないだろうし……。
「あんまり簡単に人を信用しすぎるなって言ったよね。警戒心を持てって」
「でも、わたしたちのためにサックは交渉してくれてるんだよ!ここにいるみんな、わたしたちのために付き合ってくれてる。それなのに、信用しない理由がないっていうか……信用しないとどうにもならないだろ!」
確かに律の言うことも正しいのかもしれないけど、だとしても律は逆に警戒しすぎて皆に失礼なレベルだ。
サックはわたしたちのために自分のことも見返りにしてくれたっていうのに。
「ほらもう、今2人で喧嘩してどうするの。全く2人とも極端なんだから。あとサック。確かに律ちゃんの言う通り、事前に説明すべき内容だと思うわよ」
「うっ…、ご、ごめん。できれば見返りは僕だけで……と思ってて、2人を使うのは最終手段のつもりだったからさ。魔力提供についてちゃんと説明するよ」
「だそうよ、律ちゃん。サックの話をきいてあげてくれる?」
そう言って、アンリーヌが律を優しく諭した。
「……きくよ」
律が頷く。
なんていうかもう本当に、アンリーヌ様様だ。
「僕の考えをいうから、ザースもよく聞いてほしい。魔力提供の条件は、それぞれ2人とも体内の魔力の3分の1が上限。理由は単純で、一般的に、体内の魔力を3分の1以上使ったあたりから体調に異変が起こると言われているからだね」
「体調に異変って、どんなことが起こるんですか‥‥‥?」
「3分の1を少し超えたくらいなら、体のだるさや疲労を感じるくらいかな。半分以上体内の魔力が失われると、吐き気や頭痛、立っているだけで辛いよ。3分の2までいったら、吐血ものだね。とても立ち上がることすらできない。全部なくなったら‥‥‥死ぬよ」
ー!!
魔力というものが、この世界の人たちにとってどれほど大きなものなのか理解できた気がする。
魔力は、生命力であり、命そのものなんだ。
お読みくださりありがとうございます。
アンリーヌというキャラがいなかったら全く話を進めることができないので、作者の中でもこの小説の中でも今一番重宝しているキャラがアンリーヌな気がします。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価や感想で応援してくださっている方々、本当にありがとうございます。




