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暴走

「すごい‥‥‥すごいぞ、なんだその黒いモヤは!調べたい、調べさせろ」


 お怒りモードでど迫力の律に全く怖気ずく様子もなく、ザースは興奮で鼻を膨らませながらジリジリとわたしたちに近づいてくる。


「おい、ザース!落ち着いてよ、2人のことも見返りにするには条件が‥‥‥聞けって!!」


 サックがザースの前に立ち塞がって止めようとするが、ザースの耳にその声は届いていないようだった。

 異常なまでに研究心に満ちた眼は、わたしと律しかうつしていない。


「邪魔だ、サック」


 ザースが、手に持っていた小さなスティック型の魔術具を、サックに向けた。

 サックが魔術具に気が付き顔色を変えた直後、反応する隙を与えず、魔術具の先端から電気のようなものがサック目掛けて一直線に走る。

 サックの体がビリビリ震えて、そのままバタンと床に崩れ落ちるように倒れた。


「えっ、え、サック‥‥‥!!大丈夫?!」

「咲久!近づいちゃだめ。あれが電気なのかなんなのかわかんないけど、もし感電したらどうするの」


 倒れたサックに咄嗟に駆け寄ろうとしたわたしの腕を律が掴む。


「で、でも、動かないし‥‥‥病院とか‥‥‥あ、でもそもそもここに病院なんてー」


 頭が真っ白だった。

 もしサックが死んでたら、交渉を頼んだわたしたちのせいだ。

 そもそも目の前で人が倒れて動かないって状況で、落ち着いていられるわけがない。

 その時、アンリーヌがわたしの肩にポン、と手を置いた。

 はっとして、縋るような目でアンリーヌを見る。

 「大丈夫よ」とわたしに優しく笑いかけたアンリーヌは、倒れているサックに近づき、慣れた手つきで彼の首や手を触って状態を確認する。


「思った通りね。気を失っているだけだわ。すぐに目覚めるはずよ」


 ーよかった‥‥‥。

 いやいやよくない、状況は何も変わってない。

 

「おいザースとかいう野郎、やってくれたなあ。お望みならば力ずくで魔術具を手に入れてもいいんだぜ?」

「やめなさいゴルド!私たちはあくまで交渉をしにきたのよ。魔術具の在処もわかっていないのに、この男を倒したところで目的は果たせないわ」

「‥‥‥ちっ。だが、サックがこの状態じゃあ交渉も何もねえだろう!ザースは完全に目がイっててきく耳も持ってねえしよ!」


ーパンッ。


 言い合うアンリーヌとゴルドの間で、何もできずにわたわたしていると、風船が割れたような音が響いた。

 音がした方を見ると、小型の魔術具のようなものを手に持った律と、その前で立ったまま硬直しているザースの姿があった。


「え、律‥‥‥?な、何、したの」

「いや、なんかサックが、これをザースに向けて発射しろっていうから」

「いやでもサックはー」


 倒れているサックに視線を移すと、彼はいつの間にか目を覚ましていた。

 身体はまだ痺れていて思い通り動かず声も出ないようで、横になったまま表情と手だけで「ほんとごめん」と訴えてくる。


ーパンッ。


 「ーっ!!」


 ようやく少しほっとしたその瞬間、ザースの硬直状態が解除された。


「サックの魔術具、効力無さすぎでしょ」


 文句を言いつつすぐさまわたしの前に立ち身構える律と、そんな律の前に立つアンリーヌとゴルド。

 とにかくサックが話せる状態まで回復するのを待つ間、このいかれたザースという男から逃げるすべを‥‥‥。


「あ、やべ。やっちまった」


 警戒心をむき出しにしていたそこにいる全員の集中が、ザースの気の抜けた声によって一気に解かれた。

 先ほどまでの、わたしと律しか見えていない変態じみた雰囲気がなくなっている。


「げ、サック倒れてんじゃん。悪い悪い」


 ザースは、先ほどとは別の魔術具を取り出すと、サックに向けて起動させた。


「え、ちょっ‥‥‥!」

「大丈夫よ咲久ちゃん、おそらくあれは回復の魔術具だわ」


 アンリーヌのいう通り、その魔術具から出た白い光に包まれたサックは、数秒すると何事もなかったかのように起き上がった。


「勘弁してよザース。ごめんね、咲久ちゃん律ちゃん、驚かせちゃって。こいつ、研究のことになると自我忘れることがたまにあってさ、我に返らせるザース専用の魔術具を僕がわざわざ作ってやったくらいなんだ。あ、それがさっき律ちゃんに使ってもらったやつなんだけど」

「‥‥‥もう、正気に戻ったってことでいいんですよね?」


 わたしが恐る恐る聞くと、ザースは頷いていった。


「ああ、そのなんだ‥‥‥怖がらせたのは悪かった」


 とても反省しているとは思えなほどの険しい表情だけど、話は通じる人みたいだ。


「だが、お前ら2人を調べたい気持ちは変わらねえ。交渉といこうじゃねえか、サック」

「ようやく、ちゃんと交渉に入れるみたいだね」


 なかなか進まない交渉は、まだ続きそうだ。






 



 


 



 


お読みいただきありがとうございます。


サックはザース以外にもたくさん友達がいますが、ザースの友達はサックだけです。2人の出会いも、いずれ書いてみたいです。


改めて、ここまでブックマークやいいね、評価や感想で応援してくださっている方々、本当にありがとうございます。ほぼ1週間に1回というスローペースな投稿になりますが、これからも続いていくのでたまに覗いていただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんかこの一件でものごとがうまく回りそうな気がしてきました。 たしかにどちらかというと味方になってくれそうな暴走ザースさんでしたね この先、この暴走が何かにきっと役立つと思います サックと…
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