見返り
「見返りか。そうくると思ってたよ、ザースなら」
「さすがサックだな、話が早くて助かる。それなら当然見返りの内容まで考えてきてるんだろうな」
ザースはサックを試しているように見えるし、サックも試されていることに気がついているように感じる。
なんだか2人ともめちゃめちゃ活き活きしている。
魔道具で商売しているライバルとして、こんなふうに商談をしているのかもしれない。
それにしても、一文無しでこの世界について完全無知なわたしたちがザースに与えられる見返りなんて、一体何があるんだ。
律のチート能力は使えそうだけど、わたしに至ってはあまりにも無能だと思う。
‥‥‥自分で思ってて悲しくなってきた。
「正直、あんな金額がつけられないほど貴重な魔術具を借りるのに、金はいくら積んでも積みきれないと思うからさ‥‥‥身体で返そうと思うんだ」
ーは?
いや、流石に冗談だ。
冗談か聞き間違えか、それか何か別の意図があって‥‥‥。
「その言葉を待ってたぜ。お前のこと、俺の好き放題わがまま放題にしていいってことでいいな?」
ザースが気味の悪い笑みを浮かべてサックにそう聞くと、「お手柔らかに頼むよ」とサックが諦めたような表情で答えた。
「え、咲久咲久、あの2人ってそういうこと?」
「しーっ!ちょっと黙って律!だいたいわたしが知るわけないだろ!」
「私たちのためにサックが我が身捧げちゃったけどどうする?」
「それはなんか‥‥‥ごめんだけど!けどそんなこと聞いてなかったし、わたしたちが口出しできる状況じゃないし!」
アンリーヌとゴルドが、わたしたちの会話を聞いて爆笑していた。
なにがそんなにおかしいんだ、絶対笑えないだろこの状況。
「あーでもな。サックだけじゃあの魔術具を貸すにはまだ足りないな」
‥‥‥?!え、今とんでもない問題発言したような‥‥‥。
「ーっ!やっぱりそうくるよね、わかってたよ」
わかってたの?!
サックはそれでいいの?!
「1夫多夫制か」
「律黙って。殴るよ?」
状況の把握も理解も追いつかない。
一旦この場を一時停止させてほしい。
「そうくると思って、ちゃんと考えてきてるんだよ」
「へえ、聞こうじゃねえか」
サックは自信満々にザースに笑いかけると、わたしと律の腕を持ち、ザースの前まで引っ張っていって、わたしたちの肩にぽすんと手を置いて言った。
「この2人も使っていいよって言ったら?」
一は??
「ーほお?なるほどな」
「ー?!えっ、あえっ‥‥‥え‥‥‥??」
あまりにも理解できない、理解したくもない状況に呂律が完全に壊れた。
「その2人もプラスとなると、この交渉、条件によってはありだな」
「でしょでしょ?ザースもこう言ってることだし、どうかな、咲久ちゃん律ちゃん!」
サックに、ものすごく純粋な笑顔で問いかけられた。
あり得ない、この人本当にあり得ない。
「うふっ、あっはははは、ごめんなさい‥‥‥もう我慢できないわ」
「うははははっ、サック最高だよお前」
わたしが軽蔑の目をサックに向けかけ律の身体から黒いもやが出かけたその時、アンリーヌとゴルドの笑い声が響いた。
アンリーヌは必死に笑いを堪え、息を整えると言った。
「サック、多分律ちゃんと咲久ちゃん、とんでもない勘違いをしてるわ。大前提として、2人はザースのことを何も知らないのよ?そのことを踏まえた上で、今までの自分の発言を思い返してごらんなさい」
「え?あー‥‥‥ああ!いや、違う!違うよ?!」
しばらく考える様子を見せたサックは、ハッとして大慌てでわたしと律に向き合って言った。
「身体で払うっていうのは、僕の技術を見返りにするってことだよ。魔術具作りで、僕にしかできないような技術とかもあるし、やっぱり同じ魔術具売りとしての商売上のライバルとして、隠してる技術もあるからね」
「あ、そ、そうですよね!そんなことだろうなって思ってました、あはは‥‥‥」
「いや完全に2人が親密な関係だって勘違いしてたでしょ咲久」
「ちょっ、違‥‥‥ばか律!てかそれは律もだろ!」
「やめてよ2人とも。僕は可愛い女の子しか歓迎しないんだから。だから、咲久ちゃんや律ちゃんなら大歓迎だよ!」
最後の発言にも問題はあるが、とにかく解釈違いだったみたいだ。
アンリーヌさんたちも、わかってたなら笑ってないでもっと早く教えてくれたらよかったのに。
「あの、でもそしたら、わたしたちがザースさんに与えられる見返りってなんですか?」
わたしがそう聞くと、今までわたしたちとサックの会話を心底どうでも良さそうに聞き流していたザースが、ギラリと目を光らせて立ち上がった。
「俺は、お前たち2人の生体を調べ上げたい!隅々まで、俺の気が済むまで、検査させろ」
ードン引きだ。
そんなの本当の意味で身体で払っているのと同じことだ。
律が、ザースから守るようにわたしの前に立ち、「この男に近づくな」とでもいうかのように腕を横に伸ばしてわたしの前方への動きを封じた。
そして、律はあの黒いもやを纏いながら、サックをとんでもない形相で睨みつけて言った。
「説明してくれるんだよね、サック」
お読みいただきありがとうございます。
後味の悪いところで途切れてしまって申し訳ないです。ザースは研究のためならなんでもするやばいやつですが、実はそんなに嫌なやつではない‥‥‥という方向に持っていきたいなあ‥‥‥です。
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