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交渉

 そのテントには、見たことのない何に使うのかも想像できない道具がごちゃごちゃと並べられていた。

 多分これが「魔術具」というやつなのだろう。

 テントの奥に、店主であろう男性が背中を向けて座っていて、わたしたちがテントの目の前に立っても気が付いていないほど作業に集中しているようだった。


「どれが魔力定着ができるっていう魔術具?」


 律が並べられている商品をいくつか手に取りながらサックに聞く。


「ちょっと律!売り物をむやみに触ったらだめだってば!ボタン押しちゃってなんか爆発とかしたらどうするのばか!」

「あっはは、咲久ちゃんのいう通りだね。特に闇市で売っているものは危険なものが多いし、魔術具は起動させた人によっても威力が変わったりするから、律ちゃんが相当強いって言ってた話が本当なら、尚のこと律ちゃんは触らない方がいいよ」


 サックにそう注意されると、「そうなのか、ごめん」と言って律は素直に手を引っ込めた。

 それにしても、店の目の前でこんなに騒いでるのに、全く気づく様子のない店主が怖い。


「ああそれと、魔力定着の儀式のための魔術具は、昨日も言った通り相当貴重なものだからさ、流石に店頭には置いてるはずないよ。店主に直接交渉だね」

「お、サックの出番ってわけだな!」

「頼りにしてるわよ」


 ゴルドとアンリーヌにおだてられて、サックは「任せといてよ!」と得意げに胸を張ると、一向にこちらを向かない店主の背中をトントンと叩いた。


「ザース、ねえザースってば。いい加減気づいてよ」


 思った以上に親しげな雰囲気で店主に話しかけた様子を見て、緊張がほぐれる。

 ーなんだ、サックと店主は友達なのか。

 それならこの交渉もすんなりいきそうだ。


「ああ?」


 いや、前言撤回。

 サックが一方的に仲良さげな雰囲気を出しているだけだ。

 ようやく振り向いたザースという名の店主の男は、尋常じゃないくらい眉間に皺を寄せていた。

 長い前髪からチラつく目つきは、刃物のように鋭い。

 サックもしかしてめちゃめちゃ嫌われてるのでは‥‥‥この交渉、絶望的なんじゃー。


「うわー、相変わらず顔怖いねえザース。寝不足なのはわかるけど、今日は可愛い女の子がいるんだからさ、控えめに頼むよ」


 ‥‥‥顔怖いは完全に悪口だろ。

 律といいサックといい、なんでみんなそんなに無神経な発言ができるんだ。


「‥‥‥なんだ、サックか。何しに来た、見ての通り忙し‥‥‥今なんて言った?女?」

「うん、新しくパーティーに入った女の子。多分ザースも相当興味持つと思うね。ほら、この2人だよ」

「はっ、俺が女に興味なんてーあ?な、なん‥‥‥だこいつら」


 サックに促され、わたしと律はフードをとってザースの目の前に立った。

 正面から見ると、確かにザースの顔‥‥‥相当怖い。

 死んでも口には出さないから、心の中で思うことは許してほしい。

 ガリガリで撫で肩な体型と、コケた頬。

 さらに目の下にはくっきりと隈が刻まれていて、身体中に負のオーラを身に纏っている。

 この人ほど闇市が似合う人は他にいないんじゃないだろうか。


「咲久、今絶対失礼なこと思ってたでしょ」

 

 律の耳打ちが図星すぎて、体が跳ね上がった。


「ー!お、思ってないし!律の方こそ、お願いだから変なこと口走らないでよ?!ほんとに殺されちゃうかもしれないんだから」

「わかってるわかってる」


 ー絶対わかってないなこいつ。

 ザースはというと、わたしと律のことを上から下まで何度も何度も舐め回すように見てきている。

 流石にその鋭い目つきでそこまで見られると鳥肌がたってきた。


「あーえっと、律です。こっちが咲久」

「あっ、えっとどうも咲久です初めましてすみません‥‥‥!」

「あははっ、なんで謝ってるの咲久ちゃん」

「いや、その……お忙しいところを邪魔してしまって怒らせちゃってるようなので……」


わたしがそう言うと、サックは「怖がられてるよー?」と、大爆笑しながらザースの背中をバシバシ叩いた。

ザースの眉間の皺と負のオーラがさらに深まっていく。


「あっ、いやあのわたしそんなつもりはー」

「サック、その辺にしときなさい」


空気を感じとって、アンリーヌが止めに入ってくれた。

アンリーヌに叱られ、わたしを困らせ、ゴルドに呆れ顔をされ、ヨナに睨まれていることに気がついたサックは、「ご、ごめんって」と言うとようやくふざけるのをやめた。


「もういい、さっさと本題を言え。その女たちはなんだ、俺になにをしてほしい」

「うん、それなんだけどさ……」


サックは1度言葉を止め、わたしと律を交互にみると、頷きあって確認をとってから言った。


「この2人に、魔力定着をさせたい。だから、洗礼具を貸してほしいんだ」

「……へぇ」


ザースが、わずかに口角を上げたように見えた。

そして、意地の悪い表情でわたしたちとサックをみると、低い声で言った。


「さぞ魅力的な見返りをくれるんだろうな?」

お読み下さりありがとうございます。

新キャラがでてきました。「とにかく闇市にいそうなキャラ」をイメージに完成したのがザースです。

外見も中身も闇市に染まったキャラに仕上がりました。

改めて、ここまでブックマークやいいね、評価や感想で応援して下さっている方々、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
色々あって読む時間取れてませんでした…!1話1話とても読みやすく面白い!キャラの名前、個性もそれぞれで文章に表れていてイメージしやすい!!まだ読めてない話もかなりあるのでちょくちょく読んで感想書きます…
[良い点] ほんとにいかにもな感じ おそらくサックみたいな立ち居振る舞いがザースにはいいんでしょうね 見返り…展開次第では律ちゃんがここで大暴れしそうですが…ここでは現代からもってきたなにかが活躍する…
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