闇市探索
サックの案内で、わたしたちは闇市を進んでいた。
目指すは、魔力定着を行うための儀式に使う魔術具を所有している商人の店だ。
闇市は薄暗くて、空は濃い紫色で覆われている。
そもそも、空なのかどうかもよくわからない。
風が全くないので、もしかしたら屋外ですらないのかも知れない。
道は入り組んでいて分かれ道が多く、薄暗さもあいまってダンジョンみたいだった。
床には石畳がまばらにガタガタに敷かれており、足元に集中していなければ簡単につまずいて転んでしまいそうな歩きずらさだ。
道の両端に商人たちがテントを張って、得体の知れないものを売っている。
右も左も初めて見るものばかりが並べられていて、気にならないわけではない‥‥‥というか、一体何が売られているのかかなり気になるけど、どの店も売っている商人がいかにも「悪いことをやって生きてきました」みたいな雰囲気の人ばかりで、怖すぎてテントの方に顔を向けることすらできたもんじゃない。
すれ違う人とも商人とも誰とも目が合うことのないように、ただひたすら足元だけをみて、サックの背中を追いかけている。
「咲久、みてあれ」
「な、なに‥‥‥わたし今歩くだけで精一杯なんだけど」
律が面白そうに近づいてきて、ある店を指差している。
ー嫌な予感しかしない。
「いいからほら」
「もう、なんなのーひっ!!」
律の指差していた先には、あの時草原で律が倒した怪獣の首があった。
いや、よくみたら首以外にも、腕や足、臓器‥‥‥その他もろもろバラバラに解体されて売られていた。
「うっ‥‥‥えっ、あれって、あの時の‥‥‥」
「なんだ?2人はブラッドビベアに遭遇したことがあるのか?!」
ゴルドが興奮気味で聞いてきた。
どうやらこの怪獣にはブラッドビベアという名前があったらしい。
「うん、まだアン姉に出会う前に遭遇したんだよね。水の場所と街までの道はこいつに教えてもらってー」
「は?!何言ってんだ、魔獣と会話したっていうのか?流石に冗談きついぜ」
「あははっ、ほんとだよ。しかもブラッドビベアなんて中級の中でも凶暴なバケモンだしね。魔力定着をしていない、魔法を使えない2人で遭遇して、今生きてるわけがない」
「いやまあ、私たち生きてるけど」
ゴルドとサックにあきれ混じりの苦笑いを向けられながら、律がすまし顔で返す。
「あのなあ、魔獣ってのはその辺の魔物とは強さ度合いが違ってだな‥‥‥」
「きっと本当の話なんでしょうね」
信じようとしないゴルドの言葉を遮って、アンリーヌが言った。
「あなたたちも律ちゃんの戦いを見たら、きっと信じざるを得なくなるはずよ」
「けどさ、どうやって魔術なしで戦うのさ」
「どうやってって言われてもな‥‥‥殴ったり、蹴ったりくらいしかしてないかな」
ゴルドとサックの頭上にはてなマークが浮かんでいるのが、わたしにははっきりとみえる。
2人が確認するようにわたしに視線を向けてきたが、事実なので頷く以外どうしようもない。
「相当、気持ち悪いね」
「こら、ヨナ!」
ずっと黙ってきいていたヨナが、強烈な一言を言い放った。
さすがの律も傷ついて……ないな……むしろ誇らしげに鼻をならしている。
絶対褒め言葉じゃないと思うんだけど、一体どう解釈したら「気持ち悪い」という言葉をポジティブ変換できるんだろう。
「もういいや、律ちゃんの強さはこのパーティーで一緒に仕事こなす時に知れるしね。とにかく今は先を急ごう」
「あー、そうだな」
サックとゴルドが諦めたように顔を見合せて歩きはじめた。
この2人から、律に対する不信感が漂っている。
「うふふ、ごめんなさいね。2人は努力して技術を磨いて強くなったから、そんな簡単に魔獣を倒したなんて話信じれないのよ。それに、魔術なしで魔獣を倒したなんて、前例もない話だもの」
「あ、大丈夫だよ。まったく気にしてないから」
ー少しは気にしろよ!
その鋼のメンタルを少しでいいから分けて欲しい。
アンリーヌと律の会話に脳内でつっこみをいれていると、ヨナがローブをくいっと引っ張ってきた。
「なんか、咲久は大変そうだよね。あの人といると、気苦労多そう」
「そう……そうなんだよ……!」
ヨナが哀れみの目で同情してくれた。
ーやっぱり良い子……!!
「ついた、あのテントだよ」
このままの流れでヨナに今までの律への不満をきいてもらおうと思っていたら、遂に目的の商人のテントに着いてしまった。
一気に緊張感が走る。
今日の本番は、ここからだ。
お読み下さりありがとうございます。
ちなみに魔獣の名前、「ブラッドビベア」の由来は、「黒いでっかい熊、ブラックでビックなベアー」です。…ネーミングセンスはこれから身につく予定です。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントで応援して下さっている方々、本当にありがとうございます。




