隠し通路
闇市の入り口だという壁にあいた正方形の穴の奥は、サックが暖簾を持ち上げても中は暗くて先が全く見えない。
市場どころか、道があるのかすら怪しいほど狭くて怪しい入り口だった。
隠し通路という表現の方が合っている気がする。
怖くなって律の腕を掴もうと近づくと、目を輝かせて早く中に入りたそうにソワソワしていることに気がついて、わたしは横目でジトッと律を睨んで掴もうと伸ばしていたそっと手を下ろした。
そうだった、律は「立ち入り禁止」とか書いてある先に立ち入りたくなっちゃって、そこで迷わず本当に立ち入るタイプの奴だった。
「それじゃあ、早速入ろうか!闇市への入り口はこの街にはここしかないし、立ち止まってたら誰か来るかも」
そう言ってサックは暖簾をくぐると、膝をついて狭い入り口から壁の中へ入った。
真っ暗の壁の穴からひょっこり顔を出したサックが、「みんなも早くー!」と手招きしている。
「おーし、じゃあ次は俺がいくぞ」
「なんでヨナがこんなこと‥‥‥」
「それじゃあ、次私ね。いつまでも突っ立ってないで、咲久もいくんだよ」
次々と、みんなが壁の中に消えていく。
わかってる。
行かないと始まらないことはわかってるけど、こんな先が全く見えない得体の知れない真っ暗闇の穴の中に入るなんてー。
「咲久ちゃん」
「あっ、は、はいっ!今行くから」
わたしの様子を見て、中に入らずに待っていてくれていたアンリーヌが、そっとわたしの手を握って言った。
「大丈夫よ。前にはみんなが、後ろには私がいるわ」
きっと誰もが安心するであろうアンリーヌの優しさと包容力に泣きそうになる。
「あの‥‥‥手、握っててほしい‥‥‥です。あっ、絶対馬鹿にされるから、律には内緒で!」
「うふふ、いいわよ。さあ、行きましょうか」
アンリーヌに促されて、わたしもようやく闇市へと続くという通路に足を踏み入れた。
前の見えない、真っ暗闇の閉鎖的な通路を、ゴールがわからないままひたすら進む。
天井が低くてしゃがんで歩かなければならなくて、わたしよりもかなり身長が高いアンリーヌは相当進みづらいだろう。
それなのに、絶対にわたしの手を離さず握ってくれている。
「ね、ねえ、アンお姉さん」
「何かしら?」
「さっきサック‥‥‥さんが、このまちで闇市に続く道はここだけって言ってたけど、このまち以外にも、この街の闇市に入れる入り口があるの?」
あまりの静けさに耐えかねて、後で場が落ち着いてから質問しようと思っていた、引っかかるサックのいいまわしについてきいてみる。
「うーん、少し違うわね。私たちがむかっている闇市は、別にこの街の闇市っていうわけじゃないの。この世界に、闇市は1つしかなくて、この世界にある全ての闇市への入口が、これから行く1つの場所に繋がっているのよ」
「えっ、それって不可能じゃ……あっ!」
「そう、この世界には魔術があるのよ。きっと入口に、転移魔法陣が使われているんでしょうね。いったいこんな高度な技術、誰がどう作ったのか……その仕組みは、今だ誰にも解析できていないのだけれど」
今こうして歩いてる間に、わたしは転移魔術にかけられて、街からまったく離れた場所に移動させられているというわけだ。
そう思うと、結構かなり恐ろしい。
「ほら、出口が見えてきたわよ」
そう言われて前を見ると、明かりが見えた。
わたしはスピードをあげて、出口へと急いだ。
「うっ、まぶし……」
「咲久、遅いよ。こないかと思った」
闇市を探索するのが待ち遠しいといわんばかりにうずうずしている律に、到着するなり嫌味を言われた。
「うるさいな、ちゃんと来たじゃんか」
「あっはは、咲久ちゃん怖いの無理そうなのに、よく頑張ったね!」
「偉いぞ〜、咲久!立派立派!」
「あ、うわっ…?!」
サック頭をポンポンされて、ゴルドに肩をトントンされた。
完全に子供扱いされている気がする。
「ヨナも、ずっと咲久のこと気にしてて落ち着きなかったんだからな!」
ゴルドに言われてヨナの方をみると、目が合ったヨナは顔を赤くして慌てて目を逸らし、「次適当言ったら殺すから」とゴルドを睨みつけていた。
「ほらほら、ここからが本番なのよ〜?」
アンリーヌがそう言って、パンパンと手を叩く。
そうだった、今はまだ、ようやく今日のミッションのスタートラインに立ったところだ。
「よーし、気を引き締めていくよーみんな!」
「おー!頼んだぞサック!」
「気合いいれていこう」
サック、ゴルド、律。
この3人、めちゃめちゃ楽しんでないか。
「なんでそんなテンションでいられるんだよ!」
「なんでそんなテンションでいられるのよ」
わたしとヨナのツッコミが綺麗にハモったところで、わたしたち6人は目的の物が売られている場所を目指して歩き出したのだった。
お読みいただきありがとうございます。
よくやく闇市の中に入らせることができました。
パーティーの雰囲気は、こんなパーティーあったらいいなぁ最高だなぁって作者が勝手に思う感じで書いてます。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価や感想で応援して下さっている方々、本当にありがとうございます。これからも、スローペースですが、書き進めていくので、時々のぞいてみてくれたら嬉しいです。




