ルームツアー2
リビングでかなり衝撃を受けたつもりでいたのだが、その後のルームツアーも信じたくない案内ばかりだった。
トイレは男女分かれていて、1階にはそれぞれ2台ずつ、それ以外の階には、その階ごとに1台ずつ置いてあるらしい。
ーそう、自分の部屋にトイレはなく、共同トイレだった。
トイレが共同なのに部屋にお風呂があるわけがないのはいうまでもなく、もちろんこちらも共同。
大屋上のようなお風呂かと思いきや、シャワー2台、浴槽は一般の家にあるような大きさの、アルミ製のものが1つだけ。
洗面台は男女共同で3つ、それぞれの階の廊下に並んでいる。
そこに歯ブラシやら洗顔やら置きっぱなしにしている人がいるせいで、ただえさえ狭い洗面台はぐちゃぐちゃだった。
ーわたし、本当にここでやっていけるんだろうか。
なんかもう野宿の方がマシな気がしてきた。
不潔なことも嫌だけど、トイレ行ったりお風呂行くたびにここの住人の誰かしらと絶対に鉢合わせるだろうし、その時の住人との絡みも面倒くさい。
さっきのリビングの人たちを見た感じ、絶対挨拶だけで終わらせてもらえなさそうな気がする。
「ひと通り案内し終わったけど、どうかしら?何聞いておきたいこととかある?」
「‥‥‥えっとあの、アンおねえさんは、きたな‥‥‥あんまり綺麗じゃないあのお風呂を毎日使ってるの?できればちょっと、使用を避けたいなって」
「私も気になったけど、まあすぐ慣れるんじゃない?」
「律は環境の受け入れの早さが異常だから1回黙ってて!」
百歩譲って、トイレは汚くても我慢する。
でもお願いだから、お風呂だけはどうしても清潔に入りたい。
「実は私もここのお風呂は滅多に入らないの。その‥‥‥掃除はしたい人がするってシステムだから、誰も掃除なんてしていなくて、流石に入る気になれないのよね。綺麗好きな人はそもそもここのお風呂には入らないから自分達が入らないお風呂をわざわざ掃除する必要ないし、気にせず入ってる人は汚くてもなにも思わない人たちだから掃除するはずもなく‥‥‥」
つまり何ヶ月も‥‥‥下手したら何年も掃除されていないお風呂だということだ。
恐ろしすぎる、嫌すぎる。
「ーねえ律、これでもまだ慣れるとか言える?」
「‥‥‥いや、ごめん。私が間違ってた」
「うふふ、そうよねえ。だからね、私とヨナはこの近くにお風呂屋さんに行ってるの。お金はかかるけど、清潔なお風呂に入れるわ。たまにちょっと奮発して美肌効果とか疲労回復もできるお風呂屋へ行ったりもするわね」
なるほど、銭湯と温泉のようなものがあるみたいだ。
「毎日?」
「流石に毎日はお金がもったいないから、あんまり汗かいていない日は体を拭くだけが多いわね。あとは魔術で水を出して洗い流したりかしら」
「な、なるほど‥‥‥」
「うふふ、咲久ちゃんは綺麗好きなのね。いいわ、明日お風呂屋さんに連れて行ってあげる。こっちに転移してきてからお風呂、全然入れてないんでしょう?」
「別に特別綺麗好きってわけではー」
けど確かに、川の水で体を拭いたりはしたけど、まともに体を洗えていない。
正直かなりお風呂が恋しい。
「うん、行きたい、お風呂屋さん」
「アン姉、ほんと感謝だよ」
「いいのよ、みんなで行きましょう。ヨナも誘ってね」
「ー‥‥‥きてくれるかな、ヨナ」
「咲久ちゃんが誘えば、きっときてくれるわ」
アンリーヌがそう言って優しく微笑んでくれた。
自然と私の表情筋も緩む。
「ちょっと〜、和やかな空気のとこ悪いけど、僕たち蚊帳の外なんだけど!」
「俺たちも混ぜて欲しいものだな」
「うわゴルド、今の発言キモッ」
「あ?!冗談に決まってるだろうが!!」
廊下に笑い声が響く。
まあ、住めば都っていうし、この人たちが一緒ならこのアパートでも頑張れる気がしてきた。
ー‥‥‥っていうか、わたしたちに選択の余地なんてないのだから、ポジティブに考えないとやっていけない。
ここに住むんだ、覚悟を決めよう。
「それじゃあ、そろそろ解散しましょうか。玄関で待ち合わせするのも目立つし、明日は8時頃に2人の部屋に迎えに行くわね。それから闇市に向かいましょう」
「よーし、明日は頑張らないとな!」
「主に僕がね」
「そうだね、サックよろしく。頼りにしてる」
「よ、よろしくお願いします!」
こうしてわたしたちは解散し、それぞれの部屋がある階へと散らばったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ボロアパートっぷりを伝えようと頑張っていたら、ルームツアーだけで2話分とってしまいました。
はやく話を進めたいのに、一向に進みません。
もう4ヶ月も書いているのに、まだ物語の中で2日しか経っていないことに気がついて作者は1人で衝撃を受けています。
改めて、ここまでブックマークやいいね、感想や評価で応援してくださっている方々、本当にありがとうございます。スローペースではありますがこれからも投稿を続けていくので、よろしければ時々覗きにきてくれたら嬉しいです。




