ルームツアー
無事鍵をゲットすると、早速アンリーヌたちがアパート内を案内してくれることのなった。
玄関の正面がさっきのお姉さんが顔を出したフロントと思われる窓ガラスの部屋で、そこを境に左右に廊下が続いている。
どちらの廊下も突き当たりがコの字型に奥へと進む曲がり角になっているので何があるのかわからないけど、右側がやけに騒がしい。
「2人の部屋は左側‥‥‥っていうか、住人の部屋は全部左側にあるんだけど、右側が共同スペースになってるんだ。ほら、ついてきてよ!」
ノリノリで案内しようとしてくれているサックとは裏腹に、ヨナは右側へ進まず立ち止まっている。
「おい、ヨナ。何してるんだ?」
「こんな狭苦しいアパートで、そんなに案内いても仕方ないでしょ。ヨナは自分の部屋に戻っとくから」
そんな気はした。
相変わらず、ヨナはブレない。
「もう、ヨナってば‥‥‥。でもまあ、ここまで付き合ってくれただけでも、ヨナにしてはすごいわ。食事会の途中で帰っちゃうかと思ったもの」
「うーんまあそれもそうか。それじゃあルームツアーは僕たちに任せといてよ」
「はいはい、楽しんで」
ヨナはそう言ってわたしたちに背を向けた。
「あっ、ヨナ‥‥‥!」
「‥‥‥なに」
思わず引き止めてしまった。
何で引き止めたんだ、何が言いたかったんだっけ‥‥‥今日話せて、彼女なりにわたしのこと励ましてくれて嬉しかったのと、呼び捨てでいいって言ってくれたことと、それからえっと‥‥‥。
やばい、引き止めたからには早く何か言わないと。
「きっ、今日はありがと!また話したい‥‥‥な」
ーいやもう恥ずかしすぎる何言ってるんだ。
普通に「おやすみ」でよかっただろ。
好きな人と一緒に下校して、分かれ道で別れる時の恋する中学生乙女かわたしは。
めちゃくちゃみんなの視線を感じる。
お願いだから聞かなかったとにしてほしい。
「まあ、うん。別にいいけど。おやすみ。‥‥‥また明日」
「おっ、おやすみ!また明日っ」
ーヨナ、やっぱり絶対めっちゃ対良い子。確信。
ヨナの姿が見えなくなると、アンリーヌたちが面白そうにジリジリ近づいてきた。
「なあに〜?あなたたちいつの間に友達になったのよ?」
「まさかあのヨナがなあ‥‥‥あんな感じの奴だし、2人との距離もなかなか縮まらないと思っていたが」
「なんというか、ヨナのキツめの性格に、咲久ちゃんの控えめで共感力の高い性格がバランス取れてて合ってたのかもね」
「‥‥‥咲久は別に控えめな性格なんてしてないけどね。今は人見知り発動してるからおとなしいだけで本当はー」
「あああもう、律は黙って!皆さんも、もう案内お願いします!」
いじられるのには慣れてないので、勘弁してほしい。
わたしは嫌な流れを全力で止めに入る。
「うふふ、そうね。気を取り直して、共同スペースを案内するわね!」
そう言って廊下を進み始めたアンリーヌの後にそそくさとついて行く。
奥に進むにつれ、賑やかな声が近づいてきた。
「気になるわよねえ、この騒がしい声」
「あっ、うん‥‥‥かなり」
「それなら、リビングから案内しちゃうわね。ほら、あの突き当たりの、入り口が大きい明るい部屋よ」
アンリーヌの後に続いて、リビングだという部屋に入る。
中はもう、なんというか、ぐちゃぐちゃのどんちゃん騒ぎだった。
ソファーが1つと、4人用のダイニングテーブルが2つ置かれたシンプルな部屋なのだが2人がけのソファーには肘置きや背もたれにもひとが座っていて、計6人がぎゅうぎゅうに座っていて、テーブルも完全に定員オーバーしている。
そこにいるほとんどが酒を片手に騒いでいて、テーブルの上に座っている者、酔いつぶれて床で寝ている者、何やら喧嘩してる者と、好き放題だ。
なんというか、治安が悪い。
この人たちが、これから住むアパートの住人だなんて信じたくない。
「共同のリビングは、パーティー同士の交流の場でもあるからな、いつもこんな感じで騒がしいんだ!」
「ああ‥‥‥その、交流はした方がいい感じですか‥‥‥?」
「そうねえ、何かあったとき手を貸してくれたり、情報共有もできるから、しておくに越したことはないわね」
「うわああ‥‥‥」
「咲久、心の声思いっきり出てるよ」
律に言われて、慌てて自分の口を手で塞いだ後、笑って誤魔化す。
「あははっ、咲久ちゃんはこういう雰囲気苦手そうだもんね」
「その髪色じゃあ流石に交流したら大変な騒ぎになっちゃうから、みんなに2人を紹介するのは明日以降かしらね。奥まで入っていちゃうと気づかれるから、もう出ましょうか」
アンリーヌに続いて、私たちはリビングからそっと退散した。
お読みいただきありがとうございます。
次回はその他の共同スペースのルームツアーから入るのですが、絶対にこんなアパートには住みたくないなって思いながら書いてます。
改めて、スローペースな投稿にも関わらずここまでブックマークやいいね、評価や感想で応援してくださっている方々、本当にありがとうございます。




