晩餐会3
「とまあ、そういう経緯で今に至るわけなんだよ」
今まで起こったことを、律が一通り話し終えた。
私はというと、初対面の人たち、大人数の食事、感じる視線と、苦手要素が揃いすぎてほとんど発言できず、とりあえず笑顔を貼り付けて律の話にうんうんと頷いていた。
サックは大げさにリアクションをとりながら、ゴルドはまっすぐと目を見て時折頷きながら、律の話を聞いてくれていた。
ヨナも転移者という都市伝説的な存在には興味があったようで、無反応ながらもしっかりと耳を傾けてくれていたように感じる。
「信じがたいけど、その髪色を見たら信じざるを得ないな」
「そうだね。僕は商売をしている身だからさ、発言で文脈がおかしなところや矛盾しているところがないかとか表情の動きとかをつい探りながら話を聞いちゃうんだけど、嘘をついているようには思えなかった」
「‥‥‥」
ゴルドとサックは、ひとまず信じてはくれたようだ。
ヨナは無反応だけど、難癖をつけてこないということは多分問題ないんだろう。
「咲久ちゃん律ちゃん、話してくれてありがとう。さて、わかっていると思うけれど、3人はこの話はくれぐれも内密にお願いね」
アンリーヌは3人の顔の前に、順番に人差し指を持っていくと、それぞれの唇にツン、ツン、ツン、と指を当てた。
いちいち行動がセクシーだ。
「ああ、わかっている」
「任せといてよ、こう見えて口は硬いんだ」
「‥‥‥別に、興味もないし、話したりしないわよ」
すべて話終えている以上、3人を信用するしかない。
「それでね、絶賛追われている最中であろう2人のことを、このまま放っておくわけにはいかないでしょう?この2人、一瞬で捕まっちゃうもの。だから、しばらくは2人を仲間として私たちで面倒を見てあげたいと思っているの。協力してもらえないかしら?3人の力が必要なの」
アンリーヌが、そう言って、深く頭を下げた。
律も、アンリーヌの動きに続いた。
わたしもそれを見て、「あっ、えと‥‥‥」と右往左往した後、風を切るくらいの速さで慌てて頭を下げる。
「おう、わかった。乗りかかった船だ!話は聞いちまったし、アンリーヌの命の恩人なんだろう?俺にできることなら手を貸してやる」
「僕もだよ。顔は広い方だと思うから、助けになれるれることは結構多いと思う。なんでも言ってよ」
ゴルドもサックも、良い人たちだ‥‥‥。
いや、アンリーヌさんが2人の信頼を得ているから、彼女の頼みならということで2人ともすんなり協力してくれるのだろう。
やっぱり、アンリーヌさんはただものではない。
最後は、ヨナだ。
全員の視線がヨナに向く。
「‥‥‥迷惑はかけないでよね」
「えっとそれは、つまり‥‥‥」
「好きにすればって言ってんの」
投げやりな言い方ではあるけれど、仲間になる許可はもらえたみたいだ。
愛想は最悪だけど、みんなが言う通り根はとて絵も良い子なんだろうなあと思う。
「そう言ってくれると思ったわ。本当にありがとうね、3人とも」
「放っておいたら、アンが1人でなんとかしようとするだろうからな」
「まー僕としては、可愛い女の子の役に立てるなら本望だよ」
「‥‥‥サック、キモい」
4人の間に流れる空気は、暖かくて穏やかだ。
お互いがお互いのことをよくわかっていて、信頼し合っているのがよくわかる。
今までは、友達とかクラスメイトとかならわかるけど、「仲間」がどういうものなのかしっくりきていなかったけど、この4人を見ていると、ああこれが仲間なんだなと感じる。
でも、そんな4人の中に入って馴染めるだろうか。
律はすぐみんなと仲良くなれるだろうけど、わたしは‥‥‥。
ああ、中学生の頃仲良しグループが遊びに行ってて、わたしだけ誘われてなかった苦い記憶がフラッシュバックしてくる。
いやいや、落ち着け、思い出すな、中学生なんてきっとみんなそんなものだ。
「咲久ちゃん咲久ちゃん、大丈夫?ぼーっとしてるけど」
「へあっ、はいいえ、全然!」
急にサックに話しかけられて、思考がぶったぎられた。
「咲久はコミュ力皆無なんで、大人数になると硬直するんですよ」
フォローになってないフォローをしてくる律を、静かに睨む。
「なるほど、ヨナとはまた違うタイプの、人付き合いが苦手なタイプってことだな!」
「‥‥‥は?」
「あーあ、またゴルドがヨナ怒らせてる」
「うふふ、まあともあれ改めて、2人ともよろしくね」
アンリーヌがジョッキを持ち上げて言った。
「よろしく!」「よろしくな!」「‥‥‥やればいいんでしょ」と、3人もジュースや酒を中心に掲げる。
「よろしくです」
「よ、よろしくお願いします‥‥‥!」
わたしと律もそれに続く。
「咲久ちゃんと律ちゃんの仲間入りに、かんぱーい!」
ゴルドがどデカいよく響く声を張り上げた。
その声に合わせて勢いよく接触したジョッキから、ジュースやお酒が四方八方に飛び散る。
こういう場は苦手なはずなのに、わたしは不思議と居心地の悪さを感じなかった。
お読みいただきありがとうございます。
サブタイトル、考えるのサボっててすみません。次回も6人の夕食の場面が続くのですが、さすがにこれ以上晩餐会使い回すのはどうかと思うので次話はちゃんと考えます。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価や感想で」応援してくださっている方々ありがとうございます。今後もスローペースですが投稿を続けていくので、よかったら時々覗いてみてくれたら嬉しいです。




