晩餐会2
「さてと、とりあえず自己紹介からかしらね」
それそれが、ひと通り食べたいものを自分の皿にのせ終えたのを見計らって、アンリーヌがパンッと手を叩いて言った。
ここで仕切ってくれるのは本当にありがたい。
「そうだな!じゃーまず俺から。俺はゴルド、24だ。魔力は弱いが大剣なら自信がある。武器屋で働きながらこのパーティーで冒険者をやっている」
‥‥‥24歳?!
てっきり30代かと思っていた。
ゴルドは「よろしくな!」とニカっと歯を剥き出しにして笑った。
筋肉で着ているシャツはパツパツだし、動きは大げさで、座り方の態度もでかい。
この外見だけだと絶対に近づきたくないタイプの男だけど、話すとかなり良い人そうだ。
「よ、よろしくお願いします」
「貫禄ありますね」
「律!だからもう‥‥‥そういう失礼なこと言うなってば!」
「失礼っていう方が失礼だけどね。私は褒めたんだよ」
「あっ‥‥‥いや、違っ‥‥‥」
やらかした。
怖くてゴルドの顔を見られない。
「あっははは!君たち最高すぎる!ゴルド老けてるよな〜!わかるわかる!」
「おいサック。あとで覚えとけよ」
「ひっ‥‥‥」
「ねえ、だるいからはやく進めてくれない?」
女の子が冷たい声で言い放つと、爆笑していた男の子が「はいはーい、じゃあ次僕!」と手を挙げた。
「サック、18だよ。普段は魔術具を作ったり使ったりたまに売ったり‥‥‥まあそんなことして気ままにやってる!ゴルドみたいに大剣振り回したりはできないけど、魔術や、それこそ魔術具使って戦うことが多いかな」
どうやら彼が、アンリーヌが言っていた闇市に伝手があるというサックらしい。
人は見かけによらないというけれど、本当にその通りだ。
親しみやすそうな明るい雰囲気の男の子で、顔面もなかなか整っていて、クラスにいたら絶対に一軍モテモテポジションに立っていそうな陽の空気を纏っている。
「そしたら最後は‥‥‥」
全員の視線が、例の女の子に向けられた。
ずーっと無表情でスープを口に運んでいた彼女は、視線に気がつくと「はあっ‥‥‥」とため息をついてから、「ヨナ。17」とだけ応え、再びスプーンをくわえた。
「おいおいヨナ、それだけかよ!」
「別に良いんじゃーん?ヨナは人付き合い苦手だしね」
「ごめんなさいねえ、こんなだけど、根は良い子だから」
3人が慌てて彼女を庇う。
こちらは見かけどうりで、なかなか難しい子みたいだ。
「ってか、なんでヨナ達が先に名乗ってるわけ?こっちは訳もわからず、急に協力して欲しいって呼び出された身なんですけど。フードも取らないで、何様のつもり?」
「こら、ヨナ!」
アンリーヌに怒られても、全く動じる様子もなく、何事もなかったかのように再びスープを啜り始めた。
「まあまあ、平和に行こうよ!けど、2人のことが知りたいのは僕も同じだよ」
「だな。アンからは、訳あり美少女を手助けするのを手伝って欲しい、としかまだ聞いてないんだよ、俺たち」
アンリーヌ、この人たちにもその伝え方したのか。
フードを取りにくくなるから、お願いだから美少女はやめて欲しい。
けど、確かにヨナのいう通りだ。
ずっとフードを被って身元も明かさず食事をもらって、相手のことだけ聞くなんて失礼すぎる。
わたしは隣の律の袖をくいっと引っ張って、小声で耳打ちする。
「ねえ、律。フード外して、私たちのことも話そう。協力してもらうってことは、もうさっき決心したんだし」
「‥‥‥そうだね。正直、もうちょっとまともなメンツを期待してたんだけど」
「それ、絶対本人達に言わないでよ?!」
「はいはい。咲久は相手の顔色伺いすぎなんだよなー」
「最低限の礼儀!発言注意!」
「わかったわかった」
……絶対わかってない。
わたしと律がひそひそ話していたら、サックがわざとらしく耳に手を当てて顔を近ずけてきた。
はやく言え、という圧を感じる。
「じゃあ、えっと……とります」
「取りまーす」
わたしと律はゆっくりフードを取った。
「黒髪だ!!すごい!!」
「ど、どう…はじめてみたな…」
「…」
サックは興味深々で近ずいてきて、ゴルドは少し警戒している様子だった。
ヨナは無反応だが、無言でわたしと律をガン見して、スープを飲む手が止まっている。
「じゃあ2人とも、今までの経緯を3人に話してもらえるかしら?」
アンリーヌに促され、わたしたちは転移者であること、転移してからの出来事を3人に話し始めたのだった。
お読み下さりありがとうございます。
悩みに悩んだ3人の名前、結局みんなありがちな感じに収まりました。全員イメージに合った名前になったので、満足です。ゴルドとかもういかにもな感じになりました。
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