晩餐会
わたし達は、食事をするためアンリーヌのパーティー仲間もいるという飲食店へ行くことになった。
サランナとはここで一度お別れだ。
「それじゃあ2人とも、健闘を祈るわ!私にできることがあったら、なんでも言ってね」
サランナはそう言って、笑顔で見送ってくれた。
外はもうすっかり夜だ。
でも、昨日の風と草木の音しかしない真っ暗闇とは違い、街の灯りが綺麗な賑やかな夜だった。
そしてようやく‥‥‥ようやくご飯にありつける!
ざっと計算して、まる2日水しか口に入れていないのだ。
「お腹すいたあ、流石に限界‥‥‥」
「咲久、しっかり歩いて。もう着くから」
律に手を引かれ、ふらふらと歩く。
律は、2日間何も食べていないとは思えないくらいしっかりとした足取りでシャキシャキ歩いている。
体力お化けだ。
「ほら、咲久ちゃん律ちゃん!ここよ」
アンリーヌが指差した先には、たくさんの客で賑わう居酒屋のような雰囲気の店があった。
店内は、詰められるだけ詰めました、というくらい狭い感覚でテーブルと椅子が置かれており、それがほとんど満席なものだから、店に入ると籠った空気と混沌している大きな話し声に目が回りそうになった。
「こっちよ」
アンリーヌが人と椅子と机のわずかな間をするすると抜けて店の奥へ進んでいく。
律と私もその後に続いた。
店の奥は、仕切りのない大空間に無造作机と椅子が並べられていた先ほどまでとは打って変わって、個室が何部屋も並んでいて、落ち着いた雰囲気になった。
「よかった‥‥‥あの場所で食事するとか言い出さなくて」
「あら、私たちだっていつもはあそこでするわよ?個室は結構な額の座席料がかかるし、予約だって必要で面倒だもの。今日は聞かれちゃまずい話をするから、特別にとっておいただけ」
‥‥‥今後食事は外の売店とかで適当に買って食べよう。
あんな空間で落ち着いて食事なんてできたものじゃない。
「いろんな人と交流できて、なかなか楽しいのよ」
「へえ、確かにそれはそれで面白そうだね」
「‥‥‥」
コミュ強たちの会話に、わたしは静かに耳を塞いだ。
「この部屋よ。この中に、私の仲間達がいるわ」
アンリーヌは、わたしたちに「いいわね?」と視線で確認する。
わたしと律は、大きく頷いた。
アンリーヌが部屋をノックすると、「おう、来たか」と、図太めの男性の声が返ってきた。
ドアが開く。
「待たせてしまってごめんなさいね、みんな」
部屋には、3人の男女が座っていた。
「遅いよ〜、アン。待ちくたびれちゃったよ、僕」
1人は、声に幼さの残る、陽気で軽そうな男の子。
わたしと律と同い年くらいにみえる。
「おう、来たか。座れ座れ!」
1人は、体格がよくて見た目は厳ついが、しゃべると気の良さそうなおじさん。
30代くらいだろうか。
「………遅い。座席料は払ってもらうから」
最後の1人は、近寄りがたい空気をまとう若い女の子。
長い前髪からチラっとみえた目はこちらを睨んでいて、わたしは慌てて視線を逸らした。
おじさんに促されて、わたしと律も空いていた席についた。
間も無くして、事前に頼んでいたであろう料理や酒やジュースがずらずらとテーブルを埋めていった。
骨付き肉や、魚をまるまる煮たものや、野菜がゴロリと入ったスープなど、なかなか大胆な料理が多い。
とにかく、全部かなり美味しそうだ。
「おっしゃー!まずは乾杯するか!」
おじさんが、ジョッキを掲げて言った。
アンリーヌと男の子がそれに続く。
「あっ、は、はい!」
「はーい」
わたしと律も、ジュースを持ち上げる。
そして最後に女の子が、「はぁ…ちっ」っと舌打ちとため息をついてからだるそうにコップを持ち上げた。
「乾杯!」
「かんぱーい!」「かーんぱい!」「か、乾杯…?」「かんぱい」「……」
ノリもテンションもばらばらすぎる6人の、ぎこちなすぎる乾杯。
「ほら、食え食え!」
「僕取り分けるよ〜!」
「あっ、ありがとうございー」
「ちょっと、なんでこいつらが先なのよ」
「ほらもう、やめなさい」
「肉一本もらいまーす」
場のまとまりがなさすぎる微妙な空気で、この世界ではじめての食事がはじまったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ようやく食事にありつけさせることができました。
新キャラ3人の名前は今必死に考え中です。
改めて、ここまでブックマークやいいね、感想や評価で応援して下さっている方々、本当にありがとうございます。5日に1回くらいのスローペース投稿ですが、これからものぞいてもらえたら嬉しいです。




