警戒と信用と
「それで、これからどこに行くの?」
「そうねえ、ずっとフードを被って過ごすわけにもいかないし、魔力定着が最優先かしら」
魔力定着‥‥‥?
また知らない単語が出てきた。
「あの‥‥‥」
「あ、そうね!魔力定着っていうのは、体の魔力を全身に定着させることで、自在に使えるようにする儀式のようなものよ。この国では6歳になったら全国民が行う通過儀礼なの。それによって、髪の色がそれぞれの体内の魔力の種類や量に応じて変化するのよ」
なるほど‥‥‥?
だからつまり、その儀式をしたらわたしと律の髪の色も変わるというわけだ。
でもそもそも、本当にわたしたちの中に魔力なんてあるんだろうか。
今の所、全く使えないし感じないんだけど‥‥‥律の場合めっちゃ物理攻撃だし。
「でもアン、どうするつもりなの?儀式が行われるのは年に1度、王都の神殿だけでしょう。それまで待っていられないし、待ったとしても6歳達の中に17歳が混ざっていたら流石にまずいわよ。貴族も見張っている儀式なのに」
「そうね、それにその儀式に参加したら正式に国民として登録されるから、何もかもばれちゃうわね」
‥‥‥いや、無理じゃないか、魔力定着。
わたしと律が無言で怪訝な目を向けると、アンリーヌは面白そうに「うふふ」と笑った。
どうやら何か策があるらしい。
っていうかないと困る。
「簡単なことよ、正式な場所で行わなければいいだけ。私のパーティーメンバーに、闇市の馬術具売りにつてがある人がいるわ。サックっていうんだけれど、彼に頼めばー」
「待って、アン姉。それって、サックって人にも、その闇市の人にも私たちの事情話すことになるってことだよね?」
確かに、そうなる。
アンリーヌのパーティーメンバーだというサックはまだいいとして、闇市なんて物騒な響きの場所で商売している人なんて、とてもじゃないけど信用できない。
「まあ、そうなるわよね。ひとまず、闇市の魔術具売りについてはサックから詳しく聞くとして、あなた達には私のパーティーメンバーと会ってほしいの」
「会うってことはイコール、転移者だってその人達に伝えるってこと?」
わたしが不安げに聞くと、アンリーヌは真っ直ぐと目を見て、「そうよ」と答えた。
「無理だよ。アン姉のことはある程度信用してきているし、感謝もしてる。でも、だからといって、アン姉の周りの人たちのことも全員信用できるかって、そんなわけないよね」
「ちょっ、律‥‥‥」
棘のある言い方に怒ろうとしたけど、律の言うことは最もだ。
「そうね、わかってるわ」
「それなら‥‥‥」
「でもね」
律の言葉を遮って、アンリーヌは続けた。
「私とサラだけでは、あなた達を追っ手から隠しきれない。本気で貴族や王族に見つかることなく2人でこの世界で生きていきたいと思うなら、私のパーティーとその伝手を頼るしかないのよ」
確かに、今までもこの先も、未知の場所でアンリーヌなしではわたしたちは何もできない。
仮にあの時アンリーヌに出会わずに、2人だけの力でこの街にたどり着けていたとしても、帽子なんて被らずうろついて、とっくに町中に黒髪の噂が広まり、今頃追っ手に連れて行かれていただろう。
「2人とも。アンは、最善で最速の策を提案してくれているはずよ」
サランナが優しい口調で言ってから、「アンは面倒見の鬼なんだから」と笑った。
「律、会ってみようよ」
「だから‥‥‥咲久は単純すぎるんだよ」
「でもだって!考えてみたらさ、アン姉さんを信用する以外に、わたしたちに選択肢ないじゃんか」
「そうだけどさ‥‥‥」
わたし達の様子を見ていたサランナは、突然「あははっ」と笑いだした。
「な、なんですか?」
「いやね、律ちゃんが慎重になるのは、きっと咲久ちゃんがいるからなんだろうなあって思うと、可愛くっておかしくって」
「確かに、咲久ちゃんはすぐに人に騙されそうだものねえ」
「ー!そんなことは‥‥‥」
「そうなんだよ、咲久っていっつもそうでー」
「律!」
嫌な流れになってきたので、慌てて律の口を塞いだ。
全く、油断も隙もない。
「わたしはただ、裏切られた経験があるからって次の人も信用しないで警戒して、その状態でもしその人にまで裏切られたりした時、ほらやっぱりね、警戒しといてよかったってなるのが‥‥‥なんか嫌なんだよ」
念の為警戒しておこう、と疑いをかけていた相手が悪い人だった時、「ああ、疑っておいてよかった」とはなりたくない。
そんなふうに人付き合いをしていたら、誰のことも信用できなくなってしまう。
だからって、人の本性を見抜けるだけの見る目はないので、極端だけど最初からとりあえず信じてみることにしているのだ。
「はあ‥‥‥もうわかったよ。アン姉のことと、その仲間のこと、信じてみる」
「本当?嬉しいわ!」
「律ちゃんは、咲久ちゃんには弱いのね」
サランナがニヤニヤしながらそういうと、律は「まあこの通り放っておけないんで」とサラッと流した。
お読みいただきありがとうございます。
次回は新しいキャラがたくさん登場する予定です。
名前をどうしようか、一生考えてる気がします。
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