勝負服
「いや、だから、こんなフリフリだと動きづらいってさっき言ったのに、なんでまた同じようなの持ってくる?!」
「え〜、咲久ちゃんの持つ小動物系の可愛さを際立たせるには、やっぱりこういうのじゃなっくっちゃ‥‥‥ダメかしら?」
「だめです!あと、胸元もなんか開きすぎだし、スカート短いし、際どいのばっかり持ってこないで真面目に選んでください!」
「あら、大真面目よ?」
「‥‥‥おふざけであって欲しかった‥‥‥」
アンリーヌとの洋服選びは、大苦戦中である。
とにかくアンリーヌが持ってくる服は、コンカフェ嬢が着ていそうなラブリーで露出の多いものばかりで、街中で着れたものではない。
なんだこの胸元の生地が無駄にくり抜かれたワンピースは。
くり抜く必要ないだろ!
「ロンTとズボンでいいから‥‥‥ほら、これとか。あ、それかパーカーとかないかなあ」
パーカーは楽だし、締め付けもなくゆるく着れるし、大きめのフードが首回りを囲ってくれている感じが安心できて特に好きだ。
自宅のクローゼットの半分くらいはパーカーだったくらいだ。
「何言ってるの、女の子でズボンなんて履くのは馬に乗る貴族の女性騎士様くらいよ?あなたみたいな子がズボン履いてちゃ目立っちゃうわ」
「えっ、いや女の子がズボンは普通じゃ‥‥‥」
いや、そういえば、街を15分くらい歩いてここまで来たけど、1度もズボンを履いている女性を見かけていなかった気がする。
あんな獣と戦っていたアンリーヌもスカートだし、嘘は言っていないみたいだ。
ーでもだからと言って、別にふりふりミニ丈でないといけないわけではない!
「ほら咲久ちゃん、これなんてどうかしら?」
「短いってば!せめて膝下にしてください!あと、胸元もう少し締めてー」
「あら何言ってるの?!若くて可愛い女の子は、足を出すものよ?!」
「そっちが何言ってるんだよ!」
そんなこんなで、ささっと決めるはずだった洋服選びは、想定の5倍ほど続いたのだった。
***
ようやくコーデが完成した頃には、日が暮れ始めていた。
「もう、遅いわよ〜、アンも咲久ちゃんも」
「流石に時間かかりすぎ、咲久」
ーえ、わたし?
これだけは言わせてほしい、わたしは悪くない。
「待たせてしまってごめんなさいね。それじゃあ2人とも、早速新しい洋服に着替えてらっしゃい」
「そうね!更衣室はちょうど2つあるし、着替えてせーので出てくるのはどう?」
なんだか、サランナとアンリーヌで盛り上がっている。
一方で、着せ替え人形にされていたわたしと律は‥‥‥特にわたしはヘトヘトのフラフラだ。
面倒くさくなって、アンリーヌの選んだ服に「もうそれでいいよ」と言いそうになったけれど、この先長く着ることになるであろうこの世界での勝負服だ。
最後までアンリーヌに押し負けることなく、納得のいくものを選んだ。
「どうー?2人とも。着替え終わったかしらー?」
「あっ、はい!」
「私も終わってまーす」
サランナの、「せーの」の合図でカーテンを開けた。
「まあ!アンのことだからどんな服になるかと思っていたけれどかなり良いじゃない、咲久ちゃん!」
「律ちゃんのも最高ね、さすがサラのセンスだわあ」
わたしは、膝上までのワンピースの上にフード付きの腰まであるローブを羽織り、足元は黒タイツにふくらはぎまで隠れるブーツで完成した。
ワンピースは、胸下までは襟付きブラウスで、腰からは淡い赤色を基調とした生地だ。
腰が少しキュッと絞まっていて、腰から下は、動くとふわりと控えめに揺れる。
ガッチガチのコルセットや、ひっらひらのスカートを全力で拒んだ甲斐があり、快適だ。
ローブはワンピースに合わせた赤いラインの入った、紺色のものを選んだ。
髪色を隠すためにフードは必要だったし、パーカーはなかったもののこれはかなり気に入っている。
やたらと足を出させようとしてくるアンリーヌに、タイツを履かせてもらえるよう交渉するのは本当に大変だった。
「よく似合ってるわ、咲久ちゃん!もっとよく見せて!」
棒立ちのわたしの周りを、サランナがぐるぐると回りながらコーデをチェックしている。
それよりも、私なんかよりも、注目すべきは律だ。
白いブラウスの上に、腰下まであるサイドウェイカラーの黒いベストを羽織っていて、腰はベルトでキュッと絞まっている。
さらにミニ丈の黒いショートパンツと、太ももまであるロングブーツ。
グレーのラインの入った、くるぶし辺りまであるロング丈のローブは動くとひらりと揺れて、ローブの下の体のラインが出るピタッとした服装を、うまい具合に隠しつつチラ見えする感じが絶妙だ。
控えめに言って似合いすぎている。
カッコ良すぎる。
こんなのの隣歩けない。
本当に勘弁してほしい。
「咲久、見過ぎ。変だった?」
「へっあ、いや、まあ良いんじゃない?」
しまった、ついガン見してしまっていた。
「結構着こなせてると思ったんだけどな」
「それ自分で言うか普通‥‥‥」
「ほら、2人ともー!時間押してるんだから、早く次の用事に行くわよ〜!」
「あっ、はい!」
アンリーヌとサランナに呼ばれて、返事をする。
「あ、そーだ、咲久ちょっと待って」
2人の元へ行こうとすると、律がわたしの腕を掴んで言った。
「めっちゃ似合ってる、可愛い」
「なっ‥‥‥」
顔がどんどん熱くなっていく。
文句を言おうにも、律は言うだけ言っていつの間にか既に2人のところまで行っていた。
律が視線だけちらっとこちらに向けて、にやにや笑った。
完全にからかわれた。
照れて暑いのか、怒りで暑いのか、もうわからない。
ーとにかく、絶対あとでやり返してやる。
そんなこんなで、長く着ることになるであろうこの世界のわたしたちの衣装が決定したのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ようやく2人の服装を書くことが出来ました。
めちゃめちゃ考えに考えた、作者好みを詰め込んだだけの衣装です。
大満足でございます。
改めて、ここまでブックマークやいいね、感想や評価で応援してくださっている方々、ありがとうございます。この先もマイペースに作者の好みを詰め込んで行きますが、もしよろしければお付き合いいただけたら嬉しいです。




