着せ替え人形
「サラってば、驚きすぎよ。言ったでしょう、訳ありだって」
サランナの反応に、アンリーヌは満足げに笑っている。
しかもなぜか、どこか自慢げだ。
そういうアンリーヌだって、わたしたちを見た時に物珍しそうに上から下まで観察してきていたと思うんだけど‥‥‥。
「そうね、そうだった。えーっと、聞いてもいいのかしら?2人の事情とか‥‥‥」
「それは2人次第ねえ。どう?2人とも。私としては、サラに話したほうが、あなた達のこの先助けになってくれるだろうから良いと思うの。というのもね、サラはこのまちで唯一貴族や王族と関ったことのある、貴族街に立ち入ったことのある人だから」
「ちょっと、アンヌってば、褒めすぎ」
「‥‥‥それって、すごいんですか?」
アンリーヌに褒められてわかりやすく照れ照れしていたサランナに、律があまりにも率直に問いかけた。
わたしはつい、律の頭をべシンと引っ叩く。
こんな言い方、律だから許されるんだってこと、本人はわかってるんだろうか。
アンリーヌは、「相変わらずねえ」と言って続けた。
「この国にはいくつもの街があるけれど、貴族と接点のある庶民が住んでいる街は、ふたつだけなの。この場所と、王都と言われる貴族街と隣接している街だけ。王都に住めるのは庶民の中でもほんのひと握り‥‥‥1パーセントくらいかしらね。サラの場合は洋服が多くの貴族に認められて、ついこの間王都に店舗を移すよう招待を受けたのよ」
すごい‥‥‥普通の庶民が王都に住めないとか、招待制なこととか、色々とシステムについて深掘りしたいところが気になったけど、とにかくサランナがすごい女性なのだということは分かった。
「律、話しちゃおうよ。サランナさんを信用しないで誰を信用するんだってレベルですごい人だよ!」
「また咲久はそうやって‥‥‥」
律は呆れたような表情でわたしを見てから、少し考えた様子を見せると、「あ、じゃあさ」と言って何か思い立ったように顔をあげた。
「サランナさん、私の服選んでくれませんか?一番似合うコーディネート組んでください」
「あら、なるほど。お手並み拝見ってわけね。律ちゃんの納得がいくコーデを組めたら、私のことを信用してあなた達のことを教えてくれるかしら?」
律が頷くと、サランナは面白そうに「乗ったわ!」と笑い、ノリノリで店内の洋服をじっくりと物色し始めた。
気づいたら、数分で2人で何やら話しながら楽しそうに店内を回り鏡の前ではしゃいでいる。
律のコミュ力お化けの力か、サランナのカリスマ性か、それともそのどちらもなのか‥‥‥とりあえず、ついさっき出会った2人だとは信じられないくらい仲良くなっていた。
ーやっぱり、律はすごいな‥‥‥。
「もう、ずるいわねえ、あの2人」
「ヘあっ、はいっ」
ぼーっと2人を見ていたら、気付かないうちに隣に立っていたアンリーヌに話しかけられて、変な声を出してしまった。
「2人がああなってるんじゃあしょうがないわねえ、咲久ちゃんのコーディネート担当は私かしら!」
「あっ、いやわたしは自分で適当に選ぶから‥‥‥」
アンリーヌが、獲物を見つけかのような目をして、ジリジリと近づいてくる。
危険を察知して、背筋がゾクリと震え上がる。
これはダメだ、嫌な予感がする。
「あら、私に選ばれるのは嫌?」
「い、嫌なわけでは‥‥‥」
「じゃあいいじゃない、とびっきり可愛くしてみせるわよ。もちろんもう可愛いのだけれど、もっともっと可愛さを際立たせてあげる」
「いやあ‥‥‥わたし的には、可愛さよりも動きやすさの方が‥‥‥」
目をそらせ、後退りするわたしの両手を、アンリーヌはがっしりと掴んだ。
わたしは思わず「ひい!」っと声をあげる。
「お願いよ、咲久ちゃん」
「‥‥‥‥‥‥わ、分かったよお」
結局、押しに負けてしまった。
いやでも、アンリーヌの言動は確かに不審なところも多いけど、彼女がきている服はセンスが良いし、親友が一流服屋なのだからきっとコーディネートはわたしなんかより上手いはずー。
「やったわー!私、可愛い女の子を1から自分の好みにコーディネートするのが夢だったの!」
最悪だ。
「そんなのは着せ替え人形でやっとけよ!」というツッコミを私はごくんと飲み込む。
変な服を勧められても、絶対に、意地でも、着ないようにしよう。
自分のプライドを守り抜くために、私はそう決意した。
お読みいただきありがとうございます。
ここまで最初から最後まで平和だったのは、もしかして初めてだったでしょうか、、。
束の間ですが、ようやくほのぼのシーンが書けて満足しています。
次話で2人の服装をようやく決定させることができそうです。
改めて、ここまでブックマークやいいねや感想で応援してくださっている方々、本当にありがとうございます。




