表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/97

サランナ

「やっと着いたー!!」


 街に着くなり、なんだか泣きそうになってきた。

 普段は人混みなんて大嫌いだったのに、今は人々の賑わいが心からありがたいと思う。

 街は、全体的に煉瓦造りの建物が多く、地面はまばらな石畳。

 至る所にテントやら出店やらが道を塞いでいて、なんだかごちゃついている。

 髪色を隠すため、服屋までの一時的な処置としてアンリーヌが街の入り口で1番安かった歪な形の帽子を買ってくれた。


「なかなかすごいね」

「なかなかどころじゃないよ律。わたしはこの景色を待ってたの!普通転移したらこういうところが始まりの街なんだよ」

「転移してる時点で普通じゃないけどね」

「ちょっとー?何をしているの、律ちゃん咲久ちゃん。ちゃんと着いてきなさい。あなたたち目立つんだから、早く行くわよ」


 律のノリの悪い全くわかっていないツッコミに呆れていたら、アンリーヌに怒られてしまった。

 ご飯がお預けと聞いた時は絶望したけど、この街の景色をみるとこの世界の洋服にも興味が湧いてきた。


「ねえ、アン姉。これから服屋に向かうんだよね?」

「ええそうよ。良い服を売ってくれる、私の行きつけがあるの」

「服を選んでる間もこの帽子をずっと被っているわけにはいかないと思うんだけど、それはどうするの?試着もなしにパパッと選んで出る感じ?」


 確かに、呑気に試着なんてするために帽子をとって服を選んでいたら、店員や他の客にこの髪の毛が見られてしまう。

 そうなってしまうと、こんな賑やかな街なら噂が広がるのも一瞬だ。


「安心して、完全貸切のお店だから、他の客はいないわ。それに、店で接客を担当するのは店長のサランナ1人だけ。彼女は私の親友で、信頼できるから」


 なんだか今の話を聞くに、とんでもなくこだわりの強い、お高い服屋なような気がするんだけど‥‥‥。


「そのサランナって人、本当に信用していいの?」

「ー!ちょっと律?!」

「あら、相変わらず律ちゃんはズバッと言ってくるわねえ」

「まあ、私たちからしたら他人だから」

「すみませんすみません!律が失礼ですみません!」


 高速で頭を下げまくるわたしを横目に、アンリーヌは「良いのよ」と微笑んで言った。


「そうねえ‥‥‥私からは、信用してほしいとしか言えないわ。どのみち逃げるためにはその服でいたら自分から目立ちに行っているようなものだし、サラのことを信用できないからって、他の誰もが入れるその辺の服屋で買う方がまずいんじゃないかしら?」


 全くもってその通りだ。

 わたしはアンリーヌの言葉に大きく頷く。


「あー、確かにそうだね。ごめん、アン姉」

「まあ、素直」


 自分に非があったと気がついた時は、律はすぐにしっかり謝る。

 そういうところがこの「律」という陽キャ人たらしを作り上げているのだ。

 むきになって、「でも」「だって」を繰り返すわたしとは大違いだ。

 ‥‥‥じゃなくて、今はそんなことはどうでもよくて。


「アンお姉さん、服屋まではあとどのくらい?」

「うふふ、もう着いたわよ。ほら、あそこ」


 アンリーヌが指差した先には、横目に見ながら通り過ぎていた入り口が開放的で店内のゴチャつきが見えた他の服屋とは明らかに違った、小綺麗でこじんまりとした服屋があった。

 外装も、扉の前に飾ってある花も、センスの塊だ。


「さあ、入りましょうか。サランナには通信魔法で2人がくることを事前に伝えておいたから、緊張しなくて大丈夫よ。流石に勝手に転移者のことを話すのはいけないと思ったから、サランナには訳あり美少女2人を来店させるからよろしくね、とだけ言ってあるわ。」

「びしょ‥‥‥う、じょ‥‥‥?」


 お願いだからさらに入るハードルを上げるようなこと言わないでほしい。

 アンリーヌはドアを3回ノックすると「私よ〜!」とドアの向こうへ声をあげた。

 すると、3秒もしないうちに扉が開いた。


「いらっしゃい、アンヌ!」


 明るい声に品のある笑顔。

 ゆるいカーブのかかったふわふわの髪の毛と、ウエストまでピタッとしていて、腰の下から裾の広がったフリフリの洋服が、高めの身長によく似合っている。

 控えめに言って可愛すぎる。

 アンヌはアンリーヌのあだ名だろう。

 わたしは別に全く疑っていなかったけど、2人が親友ということに間違いはないらしい。


「この2人が例の美少女たちよね!」

「ええ、そうよ。2人にあった服を買いたいの。本当は作ってほしいところだけれど、そんな悠長にもしていられないから、完成品の中から選ばせてちょうだい」

「任せなさい!うちはサイズも種類も豊富なんだから。それじゃあ、顔を見せてもらえる?」


 アンリーヌに視線で促されて、わたしと律は帽子を外した。

 

「律です。こっちは咲久」

「あっ、咲久です。よろしくお願いします‥‥‥」


 サランナは、驚きを隠す様子もなく、わたしと律のことを上から下まで観察してから、アンリーヌに向き直して言った。


「アンヌ!この子達、一体どこで拾ってきたの?!」


 


 

 



 

お読みいただきありがとうございます。


この回では、着せ替え人形になるところまで行けませんでした。次話はこそは、ずーっと思い描いている、完全に作者好みの2人の服装を表現したいと思います。

キーワードに「ほのぼの」と入れているのに、今まで全然その要素がなかったのですが、次話はようやく平和な世界が書けそうです。


改めて、こんなスローペースな投稿にも関わらず、ここまでブックマークやいいね、感想や評価で応援してくださっている方々、本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 新しい子がでてきましたね。 これで2対2 なんかユリな予感‥ そして、ついに着せ替え人形寸前。 次回はほのぼの?なのかな。閑話休題な感じかもしれないけど、それも楽しみです。 そして次の食事…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ