街まで
「街はもうすぐよ、頑張って」
ーようやく食にありつける‥‥‥!!
アンリーヌにしばらくの間お世話になることが決まってから、わたしと律は彼女の案内のもと街へ向かって歩いていた。
考えないといけないことは沢山あるけど、とにかく今はこの世界のご飯のことしか考えられない。
約2日ぶりのご飯‥‥‥この世界で食べる記念すべき最初の食事。
絶対に美味しくあってくれ!
異世界といったらパンとか、シチューとか、はたまたサンドイッチかー
「あっ、そうだわ!着いたら、食事の前に洋服を買いに行きましょうか」
「ー?!」
アンリーヌの言葉に、わたしのなかで繰り広げられていた様々なご飯の想像図がバラバラと崩れる。
確かに歩き回って汗もかいているし服を変えたい気持ちもなくはないけど、それより今はご飯を食べたい。
けど、お世話になる身なんだし、そんなことより飯を食わせろなんて言うわけにもいかない。
洋服だってありがたいし、ご飯はお預けでここはおとなしく従ってー
「えっ、服ですか?私たち、もしかして臭ってました‥‥‥?」
「ちょっ!律!!バカ何言ってー‥‥‥あ、いやそっか、あり得るか‥‥‥えっ、そーゆうこと‥‥‥?」
わたしはハッとして自分の匂いを嗅いでみる。
自分ではわからないけど、なんかそう言われると臭い気がしてきた。
「違うわよ?!ただ、あなたたちの服装は目立つから、飲食店に入る前にこの世界に馴染む服に着替えるべきだと思ったの」
自分の身体をクンカクンカ嗅ぎ回しているわたしの様子を見て、アンリーヌが笑いながらそう補足した。
「なるほど。それにしても咲久、流石に自分の匂い嗅ぎすぎ」
「それは律が臭ってるとかいうから!!」
最悪だ、見事に律の言葉に踊らされてしまった。
「そうよ、大丈夫よ。ていうか咲久ちゃん、ずっと抱きついていたくなるようなとっても良い香りよ」
ーそれもどうなんだ‥‥‥。
もういい、アンリーヌの言葉も律の言葉も、まともに聞いたら負けだ。
「あなたたち、隠れて逃げている身なのだから、目立つことが一番良くないでしょう?街は人も多いし、何よりも先に着替えたほうがいいわ」
そういうアンリーヌは、キラキラが散りばめられた紫を基調とした綺麗なロングワンピースに、際どく開いている胸元を隠すようにローブのような物を羽織って、底の厚いブーツを履いている。
確かに、アンリーヌの服装がこの世界の普通なのだとしたら、Tシャツに黒パンのわたしと律が街に行って浮くのは必然だろう。
っていうか、そういえばわたしたちのこの服装バイトの制服だった。
さすがはファミレスの制服だけあって、なかなかの動きやすさだった。
もしも学校の制服姿の時に転移されていて、素脚剥き出しのスカートと歩きづらいローファーでこの世界の草原や山道を歩いていたかと思うとゾッとする。
「お揃いもすごく可愛いとは思うのだけれど、やっぱりこの世界の服を買いに行った方がいいと思うのよ」
「い、いやあのこれは、決して故意的にお揃いにしてるんじゃなくてですね‥‥‥」
「週5でお揃いの服着てたけど、それもついにおしまいみたいだね、咲久」
「学校の制服な?!」
なんで変に誤解を生むような言い方ばっかりするんだこの人は!
「でも服って高いんじゃないんですか?私たち、この世界のお金はもちろん、前の世界のお金や持ち物もない状態で転移させられたので一銭も出せなくて」
「あら、気にしないで。面倒見てあげるって言ったでしょう?女に2言はないわ、ちゃんと私が2人に合った洋服を選んであげるわよ。お金ならまあまあ余っているから大丈夫よ」
お金なら余ってるから大丈夫だなんて言葉、人生に一度くらいは言ってみたいことだ。
本当にアンリーヌって何者なんだろうか。
「ほら2人とも、街が見えてきたわよ」
そう言ってアンリーヌが指差した先に、想像していたよりはるかに広く賑わっている街が見えた。
「すごい‥‥‥!律見て、街だ!」
「見てる見てる」
「うふふ、この街は王都に一番近い街だけあって、多くの人が行き交う1番綺麗で大きな、なんでも揃う街だって言われているのよ」
わたしたちの反応を見ると、アンリーヌが上品に笑っていう。
「早く行きましょう、アンリーヌさん!」
「咲久、はしゃぎすぎ」
「いいのよ。あ、でも1つだけお願いがあるわ」
‥‥‥お願い?
なんだろう、そんなふうに改まって言われると身構えてしまう。
「私のことは、アンお姉さんって呼んでほしいの」
「ーえっ」
「あ、わかりました。長いので、アン姉でも良いですか?」
「良いわよ。あと、敬語もやめて欲しいの。距離を感じちゃって悲しいわ」
「おっけー、アン姉。改めてこれからよろしく」
ちょっと待て、急に距離縮まりすぎじゃないか?!
だってわたし、誰かをあだ名呼びなんてしたことないし、今日会ったばかりの年上の人に急にタメ口で話すなんて、同級生ですら初対面だとつい敬語使っちゃうような人間なのに。
「ほら、咲久ちゃんも」
「あ、はい、じゃなくて、えっと、うん」
「呼んであげなよ、咲久」
「これからよろしく、アン、お、姉‥‥‥ちゃん」
2人に視線で圧をかけられて、なんとか途切れ途切れに言い切った。
「んもー!可愛すぎるわ!」と言いながらわたしに飛びついてきたアンリーヌの胸の中で、この2人との先が思いやられると、げんなりしながら思った。
お読みくださりありがとうございます。
今回で街に着いた後まで書くつもりが、3人のおふざけや雑談を書きすぎて街に到着すらさせられませんでした。
次話は咲久と律がアンリーヌに着せ替え人形にさせられると思います。
またまた全く関係ない話になりますが、アナログ人間の作者は最近ようやく慣れてきたところだったのに、メンテナンス後マイページの表示方法が変わって、ただいま大混乱中です。
改めて、ここまでブックマークや評価、いいねや感想で応援してくださっている方々、ありがとうございます!!




