表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/96

都市伝説

「一体何者なのか」


 アンリーヌの表情と声のトーンは、先ほどまでとは打って変わって、少し警戒しているような、真剣な空気にガラリと変わった。

 心臓がキュッとなる。

 律の強さにアンリーヌは驚いていたから、律に対してだけ「何者?」と聞くのはわかる。

 でも、彼女は「あなたたち」と言った。

 なんで私も‥‥‥?


「えっと‥‥‥何か変でしたか?」

「違うのよ、良くない意味で聞いたわけじゃないの。ただ、黒髪なんて貴族か王族の直近の護衛騎士でしか見たことがなかったものだから。洗礼の祭でその髪色が出たら、そんな貴重な人材こんなふうに野放しに野放しにされるはずないと思ったの」


 わたしが恐る恐る聞くと、アンリーヌは表情を柔らかくし、慌てたように言った。

 要するに、この世界では黒髪が珍しいと言うことだろうか。

 それにしても、洗礼の祭で髪色が出るとか、貴族や騎士とか、この世界の仕組みについて全くわからないので話に追いつけない。


「あー、私たち、本当は全然別の世界にいたんですけど、なんか急にこの世界に飛ばされたんですよね」

「ちょっ、律!そんな正直に言っても信じてもらえなくて、余計警戒されー」

「あなたたち、転移者だっていうのの?!」


 アンリーヌは、興奮した様子で、興味深そうにわたしたちの体を上から下まで観察しながら、「まさか本当に‥‥‥」と声を漏らしている。

 アンリーヌのその様子だと、珍しくはあるようだけどわたしたち以外にもこの世界には「転移者」と言う存在がいるみたいだ。

 そう思うと少し心強い。


「あの、アンリーヌさん。わたしたち、これからどこに向かえばいいんでしょうか‥‥‥?他の転移者の子達ってどこにいるかとか‥‥‥」


 わたしが希望を込めて言うと、アンリーヌは申し訳なさそうに首を横に振った。


「ごめんなさいね。転移者の所在は私には全くわからないの。それどころか、あなたたちに会うまで見たことすらなかったわ。‥‥‥というより、私のような一般庶民は、見たくても見れないのよね。住む世界が違う、という言葉がしっくりくるわ。そもそも、実在しているのかもわかっていなかったの。転移者と言ったら、庶民の間では都市伝説みたいな存在なのよ」

「‥‥‥咲久、咲久。私たち都市伝説だってさ」


 律はなんでちょっと嬉しそうなんだよ!

 一般庶民って言うけど、アンリーヌは見たところ豪華かつ動きやすそうな服装をしていて、立ち振る舞いも「庶民」なんて言葉は全く似合わない。

 アンリーヌこそ何者なんだろう。


「私が知っているのは都市伝説で、信憑性はないのだけれど、それでもいいのなら私の知っている転移者についての情報を教えることはできるわ。いいかしら?」


 信憑性がないにしても、右も左もわからない状態に立たされているわたしたちにとってはどんな情報もありがたい。

 律とわたしは大きく頷いた。


「都市伝説の1つに、転移魔法というものがあるわ。その魔法は莫大な魔力と精密な技術を要すると言われていて、庶民の私たちには使えるものではないのはもちろん、発動の仕方だって誰も知らない。ただ、貴族や王族の間ではそんな魔法が存在していて、実際に発動しているとかいないとか‥‥‥この世界の人であれば誰もが一度は聞いたことのある都市伝説よ。私は魔法を使う身として、転移なんて高度で無謀なことできるはずがないと思って正直全くの作り話だと思っていたわ」


 アンリーヌはそこで話を一度止めると、わたしたちを見ながら「都市伝説も侮れないわね‥‥‥」と呟いた。

 それにしても、わたしの想像通りこの世界には魔法が存在したらしい。

 絶対に、何がなんでも、是非是非使いたい。

 やっぱりわたしはきっと、律みたいな物理攻撃じゃなくて魔法が強いんだ‥‥‥そう、きっと!


「咲久。今咲久が考えてること当ててあげようか?」

「へ?!あ、いや、別にいい」


 律ににやにやしながら言われて、わたしは慌てて律に背を向けた。

 ちょっとワクワクはしたけど、わたしってそんなにわかりやすいのか‥‥‥?


「あのえっと、それでその‥‥‥転移者についてはどんなふうに言われているんですか?」


 わたしは誤魔化すように話を戻し、アンリーヌに問いかけた。

 なんでわたしたち転移者は転移させられたのか、転移させることでその貴族や王族とやらたちになんのメリットがあるのか、その後転移者はどう過ごしているのか。

 まだまだ謎が多すぎる。

 ーついでに魔法の使い方も教えていただきたい。


「え、ええ‥‥‥そうね」


 わたしの問いかけに、アンリーヌは言いづらそうに言葉を濁らせた。

 嫌な予感しかしない。


「あまり良い話ではないから、覚悟して聞いてほしいのだけれど‥‥‥」


 アンリーヌはそう言って、わたしたちそれぞれに目線を配る。

 わたしと律がお互いに顔を見合わせて頷いた後、アンリーヌの方に真っ直ぐ向き直すと、アンリーヌは転移者の都市伝説を語り始めた。


お読みいただきありがとうございます。


次話で、この世界で「転移者」としての2人の本来の立場を書こうと思います。


投稿ペース低くて申し訳ないです、、。どうでも良いのですが、作者ただ今絶賛自動車合宿中で、やらかして延泊が確定したところです。逃げたいです。


改めて、ここまでブックマークや評価やいいねで応援してくれている方々、本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] まだアンリーヌさんが味方になるか敵になるかわからないけど、思わぬ方向に動きだした感。 なんか律ちゃんは自分の強さからか楽観的だけど、あんまりよくない状況な感じ。咲久ちゃんたち髪色変えてたら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ