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お怒りモード

ー噛みつかれる!!


 そう思って目を瞑った瞬間、体がふわりと地面から浮いた。


「うおっ?!」

 

 そのまますごい速さで狼の群れから遠ざかってゆく。


「律‥‥‥!」

「咲久、大丈夫?」


 獣に噛みつかれる直前に、律がわたわたしを抱えて逃げてくれたのだ。

 それにしても、まるで丸太でも持っているかのように、小脇に抱えて軽々と片手だけでわたしのお腹に手を回し、異常な速さで全力疾走している律の力の底が知れない。

 あっという間に茂みから出て、元いた道に戻ってきた。


「律ありがと助けてくれて!もうダメかとー」

「何してたの?」

「そうだった!あの場所にわたし以外にも人間がいて、その人も助けて欲しくて、だからその‥‥‥とりあえず早く戻らないと!」


 事情を話している暇はない。

 すぐに律をあのお姉さんのところに連れて行かなければ。


「ーは?」


 律が、冷たく低い声を出した。

 その後すぐに、律の周りを黒いもやが囲む。


ーやばい、めっちゃ怒ってる。


「律‥‥‥さん。あの、一旦おろして欲しいかなあ、なんて‥‥‥」


 わたしが悪いし、反省だってまあ‥‥‥しているけど、抱えられた状態のままでの律のお怒りモードは怖すぎる。

 できる限り距離を取りたい。

 というかこの黒いモヤはなんなんだ?

 当たっても大丈夫なやつなのか?

 

 律は無言でわたしを木の下に降ろすと、そのまま逃げ道を塞ぐかのようにわたしを挟む形で両腕を木にダンッと叩きつけた。

 そのあまりの威力に全身に鳥肌がたった。

 木屑がパラパラと落ちる。


「私、あの場所から動くなって言ったよね?」

「あ、そ、それはその‥‥‥だからえっとー」


 どうしよう‥‥‥。

 正直に、人の声がしたから勝手に追いかけて、その人が襲われていたからこれまた勝手に助けようとして、挙句盛大にミスったなんて言ったら絶対に怒られる。

 どうにかして、わたしが怒られることもなく、律自ら「その女の人を助けに行こう」と言ってくれるように誘導したい。

 律はいつだって冷静だけど極端で頑固だから、わたしが勝手にやったことだと伝えても、その人のせいでわたしが危険な目にあったんだから助けなくても良い、他人のためにわざわざ獣の元に戻る必要はない、なんてことを言い出して、助けに行くのを渋るかも知れない。

 わたしだって律のことをわかってきているのだ。


「あの獣の群れに襲われて、逃げてたところを女の人に助けてもらったの!」


 ーうん。

 話をぶっ飛ばしたけど嘘は言っていない。


「女の人?」

「そ、そうそう。その人がいてくれなかったら、今頃わたしとっくに獣の餌になってた‥‥‥かも?い、命の恩人!」

「‥‥‥そうなのか」


 律の体を囲む黒いもやが薄くなってゆく。

 この調子であの女の人のことを褒めまくっていけば、きっと「助けに行こう」と律から言うはずだ。


「本当に良い人だった!めっちゃスタイル良くて、こう、ボンキュッボンってセクシーなお姉さんって感じで、美人で強そうでー」

「良い人とか言ってるけど、外見のことしか言ってないよね」


 あっ。

 いや、だって、会話という会話はしてないし‥‥‥。


「そんなことは‥‥‥あとは、えっとー」

「はあ、もうわかった。助けに行こう」

「えっ、いいの?!」

「わざわざこっちから獣の群れに戻るのは嫌だけど、咲久の命の恩人なら仕方ない。その人がどんな人かは置いといて」


 そんなことを言っているけど、わたしがその人に助けてもらったということを伝えなかったとしても、「獣の群れに襲われている人がいる」と言ったら、律は渋りながらも結局助けに行っていたと思う。

 律は他人に興味こそないが、ちゃんと他人に優しいから。


「どんな人かは置いといて、は余計だってば。良い人そうだった」

「あのさあ、咲久。そうやって簡単に人を信用するから、いつも騙されたり傷つけられたりするんじゃないの?もうちょっと警戒心持たないと。こんな訳のわからない世界では特に」

「〜っ、はい‥‥‥」


 なんか律、黒いもやは消えたのにずっと機嫌悪いな。

 まあ完全にわたしのせいっていうのはわかってるんだけど、今回の騒動とは別の件で不満に思っていることがありそうな空気を感じるっていうか‥‥‥。

 けどそれが何かわからない。

 一体何に怒ってるんだ。


「ほら、乗って咲久」


 律がわたしの前にしゃがみ込んで背中を向けた。


「えっ、な、なんで」

「足怪我してるんでしょ。あとで看るからね」

「うっ‥‥‥」


 なんでもお見通しというわけだ。

 わたしはまだ律のこと全然わからないのに、なんか悔しい。

 けど今はそんなことを言っている場合じゃない、一刻も早く助けに行かないと。


「ありがと」


 わたしがもそもそと律の背中に乗ると、律はまたあり得ないスピードで茂みに飛び込んでいった。

お読みくださりありがとうございます。


咲久は律を怒らせる天才なので、これからも律のお怒りモードはどんどんグレードアップしていくかと思います。ちなみに、咲久は全く反省してないです。


ここまで読んでくださっている方々、ほんっっとうにありがとうございます。

スローペースな投稿ですが、この先もお付き合いしていただけたら、作者踊り狂います!、、心の中で。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そりゃあ 律ちゃんは咲久ちゃんが大好きだから、そうなりますよね。 黒いのは嫉妬なのかなーってなんとなくニヤニヤしながら読んでました。 あと、やっぱり咲久ちゃんみたいにごまかしはダメだよね。…
[良い点] 律助けに来た!思ったよりも凄く怒ってたwお姉さんの事褒めまくって律、嫉妬してる?律のモヤは咲久だけにしか見えないのかな?次も楽しみにしてます!
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