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おとり作戦

 ーよし、完璧だ、それでいこう。


 わたしは、自分の考えたおとり作戦を早速実行に移‥‥‥そうとした。

 ‥‥‥やっぱり、いざ囮になると思うと怖いな。

 やばい、急がないとあの女の人がもう危ない。

 覚悟を決めろ紺野咲久!

 ーいやでも、やっぱりこの作戦は無理があるような‥‥‥ん?


 手の甲に変な感触を覚えて、恐る恐る確認する。

 虫だった。

 どうやら、身を隠している木にくっついていたようだ。

 ナメクジによく似たそれは、ぬちゃ、ぬちゃ、と音を立てながら手の甲から手首へと進んでいた。


「うおあああああ!!」


 あまりの恐怖に叫び声をあげて、手をぶんぶんと振り回す。

 何度か振り回すと、遠心力に負けてあいつは飛んでいった。


「はあっ‥‥‥はあ‥‥‥、あっ」


 気がついた時には手遅れだった。

 案の定、わたしの叫び声で獣の群れの視線は完全にわたしに向いていた。

 あのお姉さんからもこちらを見ている。

 急に叫び声をあげたので、絶対に変人だと思われた気がする。


ーああ、それにしても綺麗な人だなあ。

 自分が危機的状況にいると確信した時こそ、そういう今考えるべきことじゃない思考が浮かぶんだ。


「何してるのあなた!はやく逃げなさい!」


 女の人がわたしに向かって怒鳴った。

 その瞬間、獣の群れが一斉に私の方へと駆け出してきた。

 もうこうなったらしょうがない、囮作戦実行だ。

 最悪なことに、群れの一部を引きつけるつもりだったのに、群全体がわたしにロックオンしてしまった。

 わたしは筋肉痛でボロボロの体を強引に動かす。


ー捕まったら死ぬ、捕まったら死ぬ、捕まったらー‥‥‥


「ーっ!!」


 足首から嫌な音がした。

 絶対に、よくない音。

 踏み込んだ足に激痛が走り、ガクンと体が崩れ落ちる。


「何これ、足が‥‥‥ちょっ、タンマー!!」


 もちろん獣たちは止まってくれない。

 どうにかして片足だけ使って逃げようと試みるが、無駄だった。

 どんどん距離を詰められてゆく。


「り、律‥‥‥助けー」


 ピューーー!!


 笛の音がした。

 獣たちの視線とわたしの視線が、同時に音のした方へ向きを変える。

 見ると、女の人が笛を咥えていた。


「お前らの相手は私のはずよ!」


 彼女がそう言うと、群れは再び彼女の方へと牙を向けた。


「そこのあなた!早く遠くへ逃げなさい!」

「えっ、でも‥‥‥」

「あたしなら平気よ?結構強いんだから」


 わたしを放っておけば逃げられたはずなのに、逃げずに助けてくれたなんて絶対に相当な良い人だ。

 この人に、この世界のことを色々聞きたい。

 彼女とは長い付き合いになると、なんとなく直感がそう言っている。

 そのためには、まずこの状況をどうにかしないと。

 でも、わたしにできることは本当に何もない。

 この足では走れないので、律に助けを求めに戻ることもできない。

 何かないか‥‥‥何か。


「ちょっとあなた後ろ!!」


 彼女が、わたしに向かって青ざめた表情で言った。

 嫌な予感しかしないが、恐る恐る振り返る。

 

「ーっ!!」


 群れの中の一匹が、わたしに向かって牙を剥き出しにして飛びかかってきていた。

 逃げようにももう遅い。

 既に目の前に、あもりにも鋭い牙があった。


 なんだかデジャブだ。

 蛍光灯が落ちてきた時もこんなふうに、気がついた時には手遅れで、周りの人たちの青ざめてる顔が見えた。

 それで、律がわたしを助けようと、必死に手を伸ばしてくれてたんだ。


「律ーっ!!」


わたしは、気がついたら全力でそう叫んでいた。

 

 


お読みいただきありがとうございます。


作者の設定の中で、咲久は若干、結構かなり、不幸体質っていうかトラブルメーカー的な気質を持っているということにしています。


ここまで応援してくれている方々、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 咲久ちゃんは間違いなく不幸体質ですよね。 主人公にありがちな。すごくわかります。。 すごい危機的なのにきれいな人だなぁってなるのもわかります。けっこうひとってそうですよね。→一瞬の現実逃避…
[良い点] 虫でおとり作戦実行された!w次の話律凄い勢いで飛んできそう!wwwお姉さんの名前は次かな??楽しみにしてます!!
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