希望の1本道
ーまぶしい。
まだ寝ていたいのに、朝日が瞼を貫いてくる。
「もおおお‥‥‥ちゃんとカーテンー」
「あ、咲久おはよう。そろそろ起こそうと思ってたとこ」
「うわっ!えっあ、律。おはよ‥‥‥」
完全に家の、自分の部屋で目覚めた気でいた。
律の声で一気に脳が跳ね起きた。
「いっ〜!!!」
起きあがろうとして、体に電流がピシャーっと流れたかのようなあまりの痛みに硬直する。
尋常じゃないくらいの筋肉痛だった。
そりゃあそうか。
部活もやめて運動不足だった体で、昨日は歩きずらい草原をあれだけ歩いたんだから。
しかもそんなヘトヘトな体を休めた場所もこんな硬い地面。
どこも痛くない方がおかしい。
わたしは悲鳴をあげる体を無理矢理起こして、律を目で追ってみた。
ーあの軽快な動きを見るに、どこも痛くないんだろうなあ。‥‥‥本当にどうなってるんだよ、不公平すぎるだろ!!
「咲久?どうかした?」
「いや、別に何も」
激痛と闘いながら、もそもそと湖に近づく。
水を飲んで顔を洗うと、完全に目が覚めた。
体はご臨終しているけど、律に伝えたら面倒臭いことになりそうなので隠しておくことにしよう。
「よし、どうせ朝ごはんもないし、さっさと出発しようか」
「うん。今日中には絶対に、人間とご飯と、部屋とふかふかの布団付きの宿を見つけないと!」
寝起き5分、わたしと律は早速、例の人の手で切り開かれたであろう希望の一本道へと踏み込んだ。
「そういえば、律って何時に起きたの?時計ないから時間わからないんだけど、今って結構早朝だよね」
「あー、私は昨日寝てないから」
「ーはい?」
わたしは思わず足を止める。
昨日、律はあの獣との戦いでわたし以上に動いていたはずだ。
それなのに一睡もしていないなんて流石の律でも負担が大きすぎる。
「何してんの咲久、早くいくよ」
「何してんのはこっちの台詞なんだけど?!なんでちゃんと休まなかったの、倒れたりしたらどうするんだよ!」
「だってほら、あんな獣がいるってわかった以上、二人とも無防備に爆睡してるわけのはいかないし」
「それは‥‥‥そうだけど、それなら二人で見張り交代しながら休むとか!」
「咲久じゃ弱すぎて見張りにもならないでしょ」
「ーうっ‥‥‥」
ごもっともすぎて言葉が出ない。
「それに、私のチート能力?のおかげか知らないけど、本当に元気なんだよね。体も軽いし、数日くらい寝なくても大丈夫そう」
本当なのか、わたしに罪悪感や心配をかけさせないための嘘なのか、全くわからない。
とにかく、一刻も早く安全な宿を見つけないと、少なくとも野宿している限りはこの先も律は絶対に休まない気だろう。
もっとペースを上げていかないと。
わたしはボロボロの足に脳内で鞭を打つと、ズカズカと進んでいった。
時折見たことない植物や昆虫に驚かされながらも、3時間ほど歩いてきたが人の気配はない。
とはいえ、明らかに人間が切り拓いたとわかる道を進んでいるので、「この道であっている」と確証があるだけ、草原をあてずっぽうに歩いていた昨日と比べると精神的にはかなり楽だ。
「咲久、ストップ」
「えっ、なに?」
律が足を止めて、警戒するように辺りを見渡し始めた。
「な、何かあった‥‥‥?」
「今、音がした気がしたんだよね。昆虫とかじゃなく、結構でかいものが動いたような音」
全く気が付かなかった。
けど、咲久が言うならきっとそうなんだ。
昨日の獣を思い出して、緊張が走る。
「咲久はここで待ってて。ちょっとみてくる」
「うええ?!わたしも一緒に行くよ!」
「だめ。もしまたヤバいやつがいたら、咲久と一緒だと戦いにくい。また人質にされるの嫌でしょ?」
「うっ、それは‥‥‥」
わたしは足手纏いというわけだ。
悔しいけど言い返せない。
「わかったよお‥‥‥」
「物音立てず、そこから動いちゃダメだからね」
「わかったてばっ」
わたしがむすっとしながらそう言うと律は、音がしたと言う、道から逸れた茂みの方へと入っていった。
律の姿が見えなくなると、一気に不安が押し寄せてきた。
今何か来たらどうしよう‥‥‥。
いや、でもきっと、絶体絶命のピンチとかになったら、わたしにも律みたいなチート能力が発動したりするのでは?
律が物理攻撃なら、私は魔法がいい。
何か唱えるだけで火や水なんて出せたりしたら、もう最強だ。
期待に胸を躍らせて、一人で「ムフフフ」とうすら笑う。
「ー‥‥‥んでよ、ちょ‥‥‥」
「え?」
茂みの方から、今確かに人間の声がした。
律ではない、女の人の声だった。
お読みくださりありがとうございます。
寝なくても疲れない身体、、めっちゃいいですよね‥‥‥。
作者は睡眠が6時間未満になるとすぐ病みます、、。
改めて、読んでくれている方々、ブックマークや感想で応援してくださっている方々、ありがとうございます!
この先もお付き合いいただけたら幸いです。




