理性
ー眠れない。
元々チート能力みたいな何かのおかげで、数日眠らなくても問題ない体質になっているのに、今日はザースのところでめちゃめちゃ長いこと眠った‥‥‥というか魔力を抜かれすぎて気を失っていたので、完全回復して目がバッキバキだ。
それに何より、咲久とキスをしてしまって、その咲久が今隣で眠っているというこの状況。
眠れるわけがなかった。
いや、違う、本当はする気なんてなくて、冗談のつもりで顔を近づけたのだ。
いつもみたいに咲久が、「近い!」とか、「わかったから離れろ!」とか言って、逃げるか押しのけるかしてくると思って。
でも、もう唇がついてしまいそうだと思った時に、咲久の反応がない、おかしいなと思って目を開けたら、淡いピンク色の柔らかそうな唇がすぐそこにあって、強がってることが丸わかりの可愛いすぎる表情の咲久がそこにいて、そんなのそこで止まれるわけがなかった。
ー柔らかかったな、あんなふわふわなものなのか。
私は、猫のように丸まって眠っている咲久の唇に、指でそっと触れてみる。
呼吸を止めて微かに震えながらも、抵抗しないでされるがままの咲久が、可愛くて可愛くて可愛くて‥‥‥。
ーもういっかい‥‥‥起こさないようにそっとなら‥‥‥。
私はハッとして、慌てて唇から指を離す。
ダメだ、頑張れ私の理性!
だいたいあの時咲久に呼吸の限界がきて、彼女が後ろに倒れ唇が離れたから良かったものの、あと数秒あのまま続いていたら私は咲久を押し倒していただろう。
あの状況で理性を保つのがどれだけ大変だったか。
咲久は、私がどれだけ咲久のことを好きかわかってない。
そもそも、唐突にキスしてきたような奴が隣にいるのに、なんでそんなに未防備に眠れるんだ。
私に対しての安心してくれているのは、理性と戦っている身からすると複雑ではあるけれど、信頼してくれているという面ではまあ嬉しいから百歩譲って良いとする。
だけど、他の関わる相手に警戒心を持つって約束したはずなのにみてると咲久の警戒心はガバガバだし、無茶をしないていう約束も守れていない。
聖女であるかもしれないこと、その聖女の力を使っているところを貴族と繋がっている者にみれらた可能性があることが判明した今、今私以上に狙われているのは咲久なはず。
絶対に、私が彼女を守り抜かなければ。
そのためにも、私がもっと強くなる。
明日からの訓練で、物理攻撃だけじゃなくて魔術も使えるようになって、今度こそ私が咲久を守る。
私は明日に備えて、重くない瞼を無理やり閉じた。
ー貴族街、転移者管理棟、管理官室。
5人は再び、早朝に呼び出されていた。
タカノの目の下のクマは日に日に濃くなり、唇の血色もないに等しい。
というのも、転移者召喚に失敗したことも、こっそり5人を下町へ行かせていることも、貴族に隠し通すのに限界が近づいていた。
「どうだ、何かわかったか?」
やつれたタカノの問いかけに、申し訳なさそうに4人が首を振る。
タカノは分かりやすく絶望した表情を見せると、肩を落とした。
「そうか、引き続き転移者の捜索を続けてくれ‥‥‥と言いたいところだが、今日で限界かもな。召喚儀式予定日を過ぎているのに召喚者の報告がないとかなり怪しまれていて、儀式が失敗したのではと噂になっている。5人を下町へ出していることがバレるのも時間の問題だしな」
こんなふうに隠れて捜索しなくても、貴族に失敗したことを報告すればすぐに下町に何人もの人が送られ、魔術も駆使した大捜索により、下町のどこかにいるであろう転移者はあっという間にみつけられ、保護されるだろう。
しかし、貴族のやり方は基本的に強引で一方的だ。
保護というよりも、捕らえられ、貴族街へ連行されるといった言い方の方がしっくりくる。
ー貴族は転移者のことを、あくまで「兵器」として見ているのだから。
こう何日も目立った情報もないとなると、転移者はこの世界に馴染み、下町でうまく生活しているのだろう。
だとすると、もうそこに人間関係も構築されているだろうし、この先のこともその者なりに考えているはずだ。
そんな中、貴族は唐突にその子を連行して、おそらく抵抗するであろうその子に、「もう下町の者とは会えない諦めろ」「お前のいるべき場所はここではない」と言い放つだろう。
儀式に失敗したことがバレると俺の首が物理的に飛ぶ可能性も怖いが、それ以上に、この世界で必死に生きているであろうその転移者に、なるべく嫌な思いをさせたくないのだ。
あくまで穏便に、1から事情を説明して、納得してもらって、親しくなった下町の者たちとのお別れの時間も作ってから、こちらへ来させたい。
ーそう、思っていたのに‥‥‥。
「はいはーい!ご報告ー!それもでっっかいやつね!」
タカノは頭を抱え机に突っ伏していると、重い空気を切り裂く高い声が、部屋に響いた。
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