隠し事
「レミだ…」
わたしが思わず声を漏らした声を、律が聞き逃さなかった。
「レミ?誰?心当たりあるの?」
前のめりになりながら、わたしの目を真っ直ぐみて律がきいてくる。
ーうああどうしよう
ギルドでレミに絡まれた時に、少なくとも彼女にはわたしたちが転移者だってことがバレてることが分かっている。
彼女が何者なのかは分からないけど、第三者に報告する的なことをあの時言っていた。
その事を、本当はそれが分かった時点で言わないといけなかったのに、あの時は色々混乱がありすぎて、ただえさえ律の警戒心が敏感になっていたのもあって、今じゃなくてもいいかとわたしはそれを律に伝えるのを先送りにしていた。
それがまさかこんな形で伝えることになるなんて……絶対怒られる……。
「咲久?答えて?言えないことなの?」
「い、いや言えないというか…その、決して隠してた訳ではなくて、色々落ち着いたら言おうと思ってて」
「話がみえない。結論だけ言って、怒らないから」
律の顔がどんどん近づいて来て、圧もどんどん強くなっていく。
いつの間にか、皆んなの視線もわたしに集まっている。
わたしは観念して、おずおずと口を開いた。
「えっと……ギルドで、パーティーが無事結成した日、律が冒険者たちに囲まれてた時あったじゃん。あの時、レミっていう女の子に声をかけられた……というより絡まれたって言った方が正しいな……。それで、レミに言われたんだよ、あんたたち転移者でしょ?って」
少しの沈黙があり、数秒後律以外の全員が口を揃えて声を上げた。
『なんでその時に言わないの!(言わないのよ!)(言わないんだ!)(言わねえんだよ!)』
ビクッと身体が上下に跳ね上がる。
律はというと、何も言わず、表情筋をぴくりとも動かさなくなってしまった。
ー怖い怖い怖いせめて何か反応してくれ。
「だ、だって、その時律めっちゃ荒れてたし、伝えたらレミに何するかわかんないから……とりあえずアン姉とかに言おうかと思ってたけど、それからもずーっと絶え間なく色々起こりすぎて、タイミング逃して……」
わたしは身体を縮こませながらなんとか言い訳する。
皆んながため息をついたり、何かを考える素振りをみせたりしている中、律だけはフリーズ状態のまま動かない。
しばらくして、じわじわとく黒いモヤが律の身体から溢れてきた。
ー怒っている。めちゃくちゃ怒っている。
脂汗が吹き出てくる。
やばい、せっかくさっき仲直り?できたところだったのに。
「あの、律さん……怒っ……てる?」
「…………」
「で、でも、隠してるつもりはなくて、ちゃんと言おうとしてて、ただその、こんな形で伝えることになるとはわたしも想定外だったというか……。すぐ言っとけばよかったなってわたしも今反省してるというか……」
律はぐいっとジョッキの中の物を飲み干し、ドンッと音を立ててそれを置いた。
「おっ…おおっ怒らないって言ったじゃんか……!」
激おこモードの律に、声を震わせながら何とか反抗すると、よくやく口を開いた律は、ピクリとも動かさなかったその口角を、気持ち悪いくらいに上げて、笑顔で言った。
「怒ってないよ」
笑ってない。
目と雰囲気と声が笑ってない。
黒いモヤを放ちながら作られたその不気味な笑顔の威力は凄まじく、全員が数秒、何も言わなくなってしまった。
ごくり、と誰かが唾を飲む音がした。
「ま、まああれだ、今更どうしようもねぇし、咲久ちゃんの言う通り、色々タイミングが悪かったしな。そう怒るなって、な?」
「そうよ律ちゃん!さて!せっかくの祝いの席なんだから、これからのことは明日ゆっくり考えるとして、今日は暗い話は一旦これで終わりにしましょ!」
ありがとうゴルド!
ありがとうアン姉!
わたしは2人に涙目で感謝の気持ちを訴える。
その矢先、律に肩をトン、と叩かれた。
「咲久、後で部屋に2人になった時、話しあるからね」
「あぅっ、はいっ!!」
律の顔をみれないまま、わたしは高速で頷いた。
お読み頂きありがとうございます!!
遂に100話目です!
これからもよろしくお願いいたします!
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々本当に本当にありがとうございます。この先も作者好みの咲久と律のこじらせ百合ファンタジーが、更新はスローペースですがまだまだ続いていくので、たまに覗いてみてくれたら嬉しいです!




