ボールとリンゴ
空から落ちてきた野球のボールは、大きな木に引っかかってしまった。
これは困ったなと、ボールはすぐさま、自分の体を左右に揺すってみる。
しかし、幹と枝との間に、かなりしっかりと挟まっているみたいで、全然はずれそうになかった。
ボールは不安になってくる。このままずっと、自分は木の上から下りられないのだろうか。
そんな時だ。すぐ近くから、誰かが声をかけてきた。
この木に実っている、赤いリンゴだ。手助けしてくれるという。
リンゴがさっそく、自らの体ごと木の枝を揺すり始めた。
それに合わせて、ボールも自分の体を揺すってみる。
よいしょ、よいしょ。一緒に力を合わせれば、ここから脱出できるかも。
そうやっていると、
「あ!」
いきなりリンゴが叫んだ。
「あ!」
少し遅れて、ボールも叫ぶ。
なんと、リンゴの方がボールよりも先に、木から落ちてしまったのだ。ボールの方は、未だ木の上に取り残されている。
その直後だ。さらにもう一つ、木の下から別の声がした。
「あ!」
そこにいたのは、人間の男性だった。
地面に落ちたばかりのリンゴに近づいて、しばらく凝視している。
彼の名前はニュートン。このリンゴの落下をきっかけに、偉大な発見をする人物だ。
――そうだ! 今日のおやつは「アップルパイ」にしよう!
ではなく、
――なぜ、このリンゴは、「上」や「横」にではなく、「下」に落ちたのか?
この疑問が、「万有引力の法則」へとつながっていくことになる。
そして、のちの時代の人々は考えた。
もしも、この時に落ちていたのが、「リンゴ」ではなく、「野球のボール」だったなら・・・・・・。
その場合もたぶん、ニュートンは同様の発見をしていただろう。
で、彼の伝記には、こんな感じに書かれていたはずだ。
――ニュートンは「野球のボール」が木から落下するのを見て、「万有引力の法則」につながるヒントを得た。
一六六五年の出来事である。
リンゴが先に木から落ちたために、野球のボールは科学の歴史に、その名を残し損ねた。
やがて、ニュートンが木の下から立ち去った。
そのあとに、子どもたちがやって来る。
子どもたちは野球のボールを探していた。さっきの特大ホームラン、こっちの方向に飛んでいったと思うけど、なかなか見つからないなあ。
そこにちょうど、強い風が吹いてきた。
リンゴの木が大きく揺れて、ボールは子どもたちの前へと落ちていく。
「あ! あった、あった!」
野球のボールを拾う子どもたち。
すぐ近くに落ちていたリンゴにも気づくと、そっちも拾っていく。今日のおやつはアップルパイだ♪
次回は「世界で最も飛んだホームランボール」のお話です。