成長
高校野球の全国大会では、ここ何年も猛暑日が続いている。炎天下で試合をする高校球児たちは、本当に大変だ。
どうにかできないものかと、高校野球ファンの中には、さまざまな改善案を考える人たちがいる。
この少年も、そんな一人だ。全国大会が行われる野球場のすぐそばに、この少年は住んでいる。
ある時、少年は思い立った。自分が考えた「暑さ対策」を試してみよう。
それは壮大な計画だった。
少年は庭に木を植えた。今は幼木だけど、これが大きくなればきっと・・・・・・。
少年が地面に目をやると、そこには木の影があった。木が大きくなれば当然、この影も大きくなる。やがて野球場まで届くだろう。日陰での試合なら、今よりもずっと「まし」なはず。
しかし、少年の考えは甘かった。夏の昼間に、木の影が野球場に届くためには、この木は最低でも五百メートルの高さが必要だった。理想は八百メートル以上。
そして、時は流れて三〇年後だ。
作業員の一人が、チェーンソーの電源を入れた。
チェーンソーの刃が木の幹に食い込んでいく。かつて少年が植えた、あの木だ。わずか数秒で、あっさり切り倒されてしまう。
この場所には、超高層ビルが建つのだ。ビルの高さは八百メートル以上。
切り倒された木には目もくれず、ビルのオーナーは笑顔で言う。
「このビルが完成したら、その影で野球場を日陰にできるぞ」
あの時の少年は今や、大金持ちに成長していた。
次回は「大きな木」のお話です。