天狗の話
北東の古寺で今宵、天狗たちが会合を開いていた。
いくつかの議題について話し合ったあと、お待ちかねの酒宴が始まる。
場が盛り上がる中、一人の天狗が満月を見上げて言う。
「人間たちが最近、『野球』というものを遊んでいるらしい」
この話に、他の天狗たちも興味を示した。
しばらく話題にしている内に、「自分たちもやってみようか」となる。
ただし、風を起こしたり、空を飛んだりするのは、反則にした。
さっそく試合が始まる。
酔っ払っていることもあり、かなり珍妙な展開になったものの、参加した者たちはおおむね満足した。
この夜のことがきっかけになって、天狗たちの間で野球ブームが起きる。日本のあちらこちらで毎日のように、天狗たちによる野球の試合が行われた。
ところが、次の満月の夜だ。
会合の場で、天狗たちは険しい顔をしていた。
「野球は危険すぎる。禁止にすべきだと思う」
「残念だが、そうするしかないな」
野球禁止令を全会一致で可決する。人間たちの野球を見るのはいいが、自分たちでやってはいけない。
なぜなら、鼻を骨折する天狗が相次いだのだ。
会合に参加している天狗たちのほとんどが、その長い長い鼻に包帯を巻いている。
フライを捕ろうとして骨折、自打球が当たって骨折、キャッチャーをしていて骨折・・・・・・。
次回は「試合時間を短縮しようとする」お話です。