ほら、ハロウィンなんで
十月末日のことだ。あるプロ野球球団のオフィシャルショップの前に、一人の女の子がやって来た。
その子は魔女のコスプレをしている。それっぽい服装をしていて、手には黒猫の「ぬいぐるみ」だ。
店長が声をかけると、女の子が言う。
「トリック・オア・トリート(おかしをください。でないと、イタズラしちゃうよ)」
ああ、ハロウィンのやつか。店長は思った。
そういうことならと、店の中から「おかし」を取ってくる。球団のロゴマークが入ったキャンディーだ。この一袋に二十個入っている。
店の前に戻ってくると、子どもの数が増えていた。
子どもたちが一斉に、
「トリック・オア・トリート(おかしをください。でないと、イタズラしちゃうぞ)」
店長は笑いながら、十人以上いる子どもたちに、キャンディーを一個ずつ配っていく。
「ありがとうございます♪」
子どもたちが明るい笑顔で去っていった。
で、翌年になる。またしても十月の末日だ。
あるプロ野球球団のオフィシャルショップの前に、
「トリック・オア・トリート(おかし、よこせや。イタズラされたいんか)」
野太い声が響き渡る。
大勢のおっさんたちが集合していた。昨年と違って、子どもの姿は皆無だ。
おっさんたち全員がレプリカユニフォームを着ているのだが、どれも他球団のものばかり。この球団のユニフォームは見当たらないようだ。
店長は少し悩んでから、店の前にいるおっさんたちに「おかし」を配ることにした。球団のロゴマークが入ったキャンディーだ。
キャンディーを受け取ると、おっさんたちの多くは回れ右をして去っていく。
ところが、
「ちょっと待ってください!」
店長が止めるのを聞かずに、一部のおっさんたちがオフィシャルショップの中に入っていく。
他のスタッフたちも動揺した。緊張感に包まれる店内。なにせ、おっさんたちはライバル球団のレプリカユニフォームを着ているのだ。「おかし」をあげたのに、まさかイタズラする気では・・・・・・。
(キャンディーだけでは足りなかった?)
と、冷や冷やする店長。
そこに、おっさんの一人が頭をかきながら話しかけてくる。
「いやあ、冗談のつもりだったのに、このキャンディー、なんかすいませんね。あ、これ買います。球団のロゴマーク入りの羊羹」
「いいんですか? そちらから見て、ライバル球団の商品になりますけど」
「いいの、いいの。親戚の子が、ここの球団のファンだから。せっかくだし、ちょっと顔でも見てこようかな。ほら、今日はハロウィンだし。手ぶらだとね、イタズラされちゃうかも」
そんな感じで、店内のおっさんたちが次々と商品を買っていく。「おかし」はすぐに売り切れた。すると今度は、他の商品も買っていく。
ほくほく顔の店長。
この日の売上は悪くなかった。トリック・オア・トリート♪
次回は「映画」のお話です。