別室行き
今日の試合に勝ち、リーグ優勝が決まった。
となると、お次は優勝した時に恒例の「ビールかけ」だ。
その段取りをマネージャーが、選手たちやコーチ陣に告げていく。
そんな中、数人の選手たちが名前を呼ばれた。彼らは全員、二十歳未満だ。
会場の一角に「ノンアルコール飲料だけの場所」を用意したので、
「そこから一歩も外に出ないように」
さらにマネージャーは続けて、
「また、他の人たちは彼らにお酒をかけないように」
お酒は二十歳になってから。ビールかけの様子はテレビ各局で生中継される。二十歳未満の選手がお酒をかけたり、かけられたりするのは、色々とまずいのだ。
「注意事項は以上ですが、名前を呼ばれた選手とコーチは、この場に残ってください」
数人の名前を、マネージャーが告げていく。それ以外の者たちは解散だ。
残った者たちは互いに顔を見合わせる。この顔ぶれって、もしかして・・・・・・。
「えー、申しわけありませんが、ビールかけが始まってすぐに、みなさんには会場から別室の方へと移動してもらいます」
マネージャーの言葉を聞いて、嫌そうな顔をする彼ら。
「変な勘違いをしないでください。実は、大手酒造メーカーさんから緊急の依頼がありまして・・・・・・」
お酒の味のわかる者が、数人必要だという。優勝記念Tシャツを着た状態でのCM撮影、及び、販促用のポスターをつくりたいらしい。
それで納得した。ここにいるのは全員、お酒に強い者たちだ。
「各種日本酒のCMになります。実際にお酒を飲んでもらいますので、そのつもりで」
なるほど。ビールを少し飲んだだけで酔っ払うような者には、この依頼はこなせない。よりによって優勝直後にとは思うものの、「優勝記念Tシャツ姿で」となると、このタイミングしかないだろう。
「マネージャー、どんなお酒を飲むのか、銘柄とかわかる?」
「えーとですね・・・・・・」
マネージャーが手帳を見ながら、いくつかの名前を上げていく。
その場にいる者たちはそれを聞いて、にんまりした。なかなか良いラインナップだ。高級なお酒ばかりがそろっている。
「そういうわけでお願いします。他の選手やコーチには、適当にウソをついて誤魔化してください」
そりゃそうだろう。自分たちだけ別室で、美味しい日本酒を飲むのだ。CM出演料も悪くない金額だし、うらやましがられるのは間違いない。
そんなことがあって三〇分後、いよいよビールかけが始まった。
「優勝おめでとー!」
一分を過ぎたあたりで、マネージャーが合図してくる。打ち合わせどおり、すぐに別室へと移動した。
そこで、秘密のCM撮影を行う。
なお、このCM撮影自体は本物だが、これは酒造メーカー側から頼んだものではなかった。球団の方からお願いしたものである。
というのも、別室行きになった者たち全員が「酒乱」なのだ。ビールかけの様子はテレビ各局で生中継されるので、見苦しい行動をされてはたまらない。
かといって、優勝を決めた試合の直後に、問題を起こしそうな者たち全員を、「二軍行き」にするわけにもいかなかった。たぶん暴動を起こされる。
それで、「別室」という隔離場所を用意したのだ。
おかげで、ビールかけは何のトラブルもなく、大成功で幕を閉じた。
そして、数年後。
アメリカで行われた野球の世界大会で、日本代表が優勝した。
試合直後に現地のテレビ局から、こんな打診があった。
日本の「ビールかけ」に興味があるので、実際にやって欲しい、と言ってきたのだ。すでにビールと会場は手配済みで、全米に生中継するらしい。
日本代表は快諾した。
そのあとすぐに代表監督は、選手たちの所属球団に国際電話で確認していく。代表チームの中で誰が「酒乱」なのか。
で、「お酒の味のわかる方々」には、特別なCM撮影のために、別室へ行ってもらうことに・・・・・・。
次回は『ちょっと風呂に入ってくる』というお話です。




