世界で最も飛んだホームランボール
大英ベースボール博物館には、ベースボールにまつわるお宝が色々と展示されている。
その一つが、これだ。『世界で最も飛んだホームランボール』である。最長飛距離の記録は未だに破られていない。
ところが、このボールを盗もうとする不届き者が現れた。
世界的な大怪盗で、博物館に犯行予告状を送ってきたのだ。
これに対して、警察は厳重な警備を敷いた。
しかし、さすが大怪盗。まんまと盗み出すことに成功する。警察が気づいた時には、『世界で最も飛んだホームランボール』は展示室から消えていた。
残念ながらボールは盗まれてしまったが、警察はあきらめない。大怪盗を捕まえようと、懸命の捜査を続ける。
けれども、大怪盗の逮捕はおろか、その足取りさえつかめなかった。『世界で最も飛んだホームランボール』は行方不明のままだ。闇市場に流れた様子もない。
世間では、こんな噂が流れていた。
――大怪盗の正体は、「あのホームランを打たれたピッチャー」では?
面白い推理だが、それはあり得なかった。そのピッチャーは何十年も前に現役を引退している。かなりの高齢だ。事件当日の警備をかいくぐれるとは思えない。
また、事件当日のアリバイもある。さらに、そのピッチャーの周囲に怪しい人物は見当たらなかった。
警察が捜査を続ける中、世間では次のような声も上がっていた。
――「世界で二番目に飛んだホームランボール」を繰り上げて、『世界で最も飛んだホームランボール』にしてはどうか?
――ひょっとしたら、「こっちが一番!」だと大怪盗が、何かメッセージを発してくるかもしれない。
しかし、博物館がアンケートをとったところ、反対の声が多かった。
――もともと「世界で二番目に飛んだホームランボール」を、今さら『世界で最も飛んだホームランボール』だと言われても・・・・・・注釈でもつける?
そのあとも警察の捜査は続いた。
だが、大怪盗の手がかりは一向につかめない。
半年後に一人の男が、ある決断を下した。
大英プロベースボール界のコミッショナー、ワトソン氏だ。
彼は宣言する。
「大英プロベースボール界では次のシーズンから、『ものすごく飛ばせるバット』を使用しても、良いことにする!」
これによって翌シーズン、ホームランの本数とホームランの飛距離が大きくはね上がった。
シーズン終了後に、ワトソン氏は語る。
「記録は抜かれるためにあるのだ」
このあと大英ベースボール博物館に、あの大怪盗から再び犯行予告状が届くのだが、その話はまた別の機会にでも・・・・・・。
次回、「天国代表」対「地獄代表」。




