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調査報告書5:復讐完了

ネメシスに行くとマスターから直ぐに道路で起きた銃撃戦は何だと聞かれた。


「飛天と私を狙おうとした奴に襲われて迎撃しただけよ」


私が答えるとマスターは命知らずな奴だと言ったが、飛天の様子を見て言葉を噤んだ。


「・・・伯爵様の知り合いだったので?」


「知り合いと言う程ではないが、同じ戦場を駆け巡った戦友を殺すのは忍びない」


「ベトナム戦争の兵士でしたか」


「あぁ。敵に操られていた」


「何とも卑劣な」


マスターも苦虫を噛み潰した顔だった。


「餓鬼はどうした?」


「はい。エリナが寝かしつけています」


「様子は?」


「やはり未だに悪夢に魘されていて・・・・・・・・」


「そうか。・・・・・早い所、決着を着けないとな」


あいつの為にも、と言う飛天。


「・・・・・この仕事が終わったらの話なのですが、あの子供を引き取らせてもらえないでしょうか?」


「あんたが?やけに世話を焼くのね」


「アバズレは黙ってろ。お願いです。伯爵様」


マスターの発言に飛天はセブンスターを銜えてジッポ・ライターで火を点けて天井を見上げた。


「・・・あの餓鬼に身寄りは姉だけだったな」


「えぇ。天涯孤独です」


「あの餓鬼が了承すれば良い」


マスターは額を地面に擦る勢いで礼を言ってきた。


飛天の携帯が鳴った。


「ネルガルか」


どうやらネルガルから連絡が来た様子だった。


「そうか。それで?あぁ。分かった」


短い会話を済ませると携帯を閉じてコートの中に仕舞う。


「どうだったの?」


「星の特定が分かった」


「誰なの?」


「座天使だ」


「座天使?随分と位が高い天使が馬鹿な事をやってるわね」


座天使となれば3隊に別けられる中でも上位3隊に位置しているクラスだ。


しかも頭はラファエルだ。


「・・・・身内の不祥事を隠すとは天下のラファエルも落ちたものね」


私はラファエルの情けなさに怒りが込み上げてきた。


「で、奴の居場所は?」


「殺した兵士が通っていた教会だ」


飛天はフィルターまで吸い尽くしたセブンスターを灰皿に捨てると立ち上がった。


「1時間ほど出掛ける。餓鬼が起きたら、もう悪夢に悩まされる事はないと伝えておいてくれ」


了解しましたとマスターは頷く。


飛天と私はネメシスを後にしてディムラーに乗り込んだ。


「これから行くの?」


「腐った芽は早めに落とす」


武器は後ろに積んであると言う飛天に私は微笑んだ。


「久し振りに暴れようかしら」


「教会ごと破壊しても良い」


冷静を通り越して冷徹な口調で喋る飛天。


私はこれから起きる戦いにスリルを感じた。


教会はマルセイユの外れで、それなりに金が掛った造りとなっていた。


「好きな物を選べ」


飛天はディムラーの後ろにあるドアを開けると山のような銃器が置いてあった。


「相手が座天使となればアサルトライフル位が良いわね」


私はストナーM63Aを取り出した。


ユージン・ストナーが開発した凡庸銃器で重火器からアサルトライフルまでカスタムが可能な銃器だ。


私はカービン・ライフルにした。


飛天の方もアサルトライフルでAKMアサルトライフルを取り出した。


「・・・行くぞ」


「えぇ」


飛天と一緒に教会の中に入った。


教会の中は暗く誰も居ないように思えたが、私たちが入ると蝋燭に火が点いた。


「貴様らか。私の正義を邪魔する者は?」


イエス・キリストが磔にされた像から一人の見た目麗しい美少年が姿を現した。


年齢は15歳ほどで金色の髪にグリーンの瞳を持っていたが、とても殺気に満ちていて私と飛天を睨んでいた。


「お前だな。ベトナム帰還兵に8人の女を殺させて俺らを襲わせたのは」


「そうだ。まったく役に立たない奴らだったがな」


「天使のくせに人間に悪さをさせるとは呆れ果てた奴だな」


「貴様には解るまい。私がどれだけ崇拝な目的のためにしているか」


「お前みたいな下衆の目的なんて知りたくもない。俺が許せねぇのは罪もない女を悪夢に苦しむ男を使って殺させた事だ」


「あの女どもは妊娠を中絶した所か離婚までした。十分に罰を与える理由がある」


「産みたくもない子供を孕まされた女の気持ちがあんたみたいな餓鬼に解るの?」


私は座天使に訊いた。


「貴様も天使なら解る筈だ。妊娠中絶はイエス・キリストが禁じていると」


「あんな“坊や”の事なんて関係ないわね。女って生き物は愛した男の子供を産みたいものなのよ。それを何で好きでもない男の子供を産まなきゃならないのよ」


「子を宿し育てるのは女の義務だ。誰であろうと産んで育てるのが女としての宿命だ」


「・・・・どうやら貴様とは永久に解り合えそうにないな。もっとも解り合いたくもないしこれから殺すから良いがな」


飛天は話を打ち切るように言い切るとAKMアサルトライフルを構えた。


「そのような武器で私に傷が付けられると思っているのか?」


「試してみないと分からん」


「ふん。下賤な悪魔如きが生意気にも座天使の私に刃を向けるか」


下賤な悪魔と座天使は言ったが、飛天はあんたより格上の熾天使と渡り合った悪魔だと知らないのか?と私は言いたかった。


「二人して聖なる炎で燃えるが良い!!」


座天使は白い翼を出して一気に飛び上ると炎を出して襲い掛かった。


木製の椅子は直ぐに蒸発して消えた。


私と飛天は左右に避けると座天使目掛けて引き金を引いた。


水銀製のライフル弾が炎を擦り抜けて座天使の右肩と左足を掠めた。


「銀の弾とは生意気な」


座天使は血が流れ出ても鼻で笑った。


炎は私と飛天を追うようにして消えない。


「さぁ、その炎で焼かれるが良い」


「こんな火、煙草を点けるライター代わりにしかならねぇよ」


飛天はセブンスターを吸うと炎を纏めて煙草に集中させた。


火が点いたセブンスターを深々と吸い座天使に煙を吐きかけてやる飛天。


「この程度の実力で座天使とは情けないな」


口端を上げて嘲笑うと飛天はAKMを乱射して座天使へと飛び掛かった。


座天使が対抗手段を講じる前に私はストナーM63Aカービン・ライフルで動きを封じた。


距離を縮めた飛天は座天使の心臓目掛けてモーゼルM712をフルオートで撃った。


結界も張れない座天使は銀の7.62モーゼル弾を10発も撃ち込まれて地面へと落下した。


「がはっ!!」


口から血を吐き悶える座天使を飛天は氷のように冷たい金色の瞳で見下ろした。


「銀の弾を10発も撃ち込まれて死なないとは悪運の強い奴だ」


私も座天使に近づいて見下ろす。


「き、貴様、私をどうする積りだ?!」


「お前に大切な姉を殺された餓鬼の願いを叶えるだけだ」


「あ、悪魔、ごときが、この崇拝なる座天使の私を、裁くと言うのか・・・・・・・・!!」


「裁くんじゃない。殺すだけだ」


飛天は空になったマガジンを捨てて新たに10発が入ったマガジンを弾倉に装填した。


撃鉄を起こして座天使の額に狙いを定める。


「じゃあな。天使様」


引き金を引こうとした時だった。


「待ちなさい!飛天!?」


ラファエルが現われて座天使の前に立ちはだかった。


「ら、ラファエル様!!」


座天使はラファエルの登場に眼を輝かせて形勢逆転とばかりに小さく笑った。


「・・・またお前か。この前といい随分とタイミングよく現れるな」


飛天は冷たい眼差しでラファエルを睨んだ。


私もラファエルの登場にはうんざりしていた。


「この者は、天使。悪魔である貴方が裁く者じゃないわ」


「勘違いをするな。俺は裁くんじゃない。餓鬼の為に復讐をするだけだ」


「復讐なんて無意味よ。殺された被害者も望んでいないわ」


「お前みたいな偽善者に大切な者を奪われた者の気持ちが解るのか?」


ラファエルは言葉に詰まった。


飛天の言葉の裏には『俺の大切な者を奪った売女が偉そうに言うな』と言っていると解ったからだ。


「ラファエル。貴方は身内の馬鹿げた行動を黙認していたの」


「違うわ。私は知らなかった!!」


「どうかしらね?貴方の事だから逐一報告させてたんじゃないの」


「違うわ!私は知らなかったわ!?」


飛天の手前もあってかラファエルは取りつく様に否定し続けた。


「だったら証明として今この場で、その座天使を殺しなさい。部下の不祥事を処理するのも上司の立派な務めでしょ?」


「私に・・・・・・・復讐の片棒を担げと言うの」


「いいえ。部下の不祥事を上司自ら処理しろと言っているのよ」


「ラファエル様・・・・・・・」


座天使はラファエルを呼んだ。


その声は不安そうだった。


「・・・・出来ない。私には出来ない」


ラファエルは目を瞑り苦しそうな声で私の出した意見を退けた。


「相変わらず甘い女ね」


私は吐き捨てる口調で言うとラファエルを横に弾き飛ばして座天使に銀の弾丸を盛大に撃ち込んだ。


座天使は見るも無残な死体へと変貌した。


肉は飛び散り羽根もバラバラになって血を吸い赤くなった。


「復讐は完了ね」


私はセブンスターを地面に落として足で揉み消す飛天に言った。


「・・・・あぁ」


飛天はモーゼルをバックサイド・ホルスターに入れると背を向けて歩き出した。


私も後を追う。


「待って・・・・・・待って!飛天!?」


ラファエルの呼び声に飛天は立ち止まった。


「私は知らなかったの。本当よ!!」


どうやら私が言った言葉に飛天が嫌悪するのではないかと思い否定しているようだ。


「別にお前が知らなくても構わねぇよ」


飛天の返答にラファエルは幾分か救われた顔になったが、次の瞬間には奈落の底へと落とされた。


「お前が知っていようと知らなかったにしろ、俺がお前を嫌いな事に変わりはないからな」


「!!」


崩れ落ちてすすり泣くラファエルとミンチになった座天使を置いて私と飛天は教会を後にした。


「貴方も随分と冷酷な男ね。ラファエルを安堵させてから奈落に叩き落とすなんて」


「あんな売女は地獄の獣にレイプでもされて奴隷になった方が良い」


飛天は怒りを押し殺した口調で言うとディムラーのエンジンを掛けて発進させた。


ディムラーのエンジンが何処か悲しげに聞こえたのは私の気のせいだろうか?


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