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調査報告書4:奇襲

店を出て家に帰ったのは8時になる手前だった。


「ただいま」


家のドアを開けて中に入ると飛天は一階のリビングで酒を煽っていた。


酒はウィスキーでワイルド・ターキーだった。


「私が会いたくもない相手と会っていたのに、貴方は一人で酒を飲むなんて優雅なものね」


何だか胸糞が悪くなり嫌味に言ってやった。


「・・・・俺が一緒に行けば満足だったか?」


金色の左眼で私を見る飛天。


「そうね。それなら満足したかもね」


飛天が一緒なら幾分かはマシだったと思いながらリビングに行きソファーに座る。


「お前も飲むか?」


「そうね。スコッチのロックを頂戴」


分かったと言って飛天はホーム・バーの酒棚に置いてあったスコッチの瓶を取り出してロック・グラスに氷を入れてから注いだ。


「オンザ・ロックで良いんだろ?」


「えぇ。レストランでワインを飲んだけど、私にはウィスキーが良いわ」


ワインは嫌いではないが、どちらかと言えばウィスキーの方がやっぱり好きだ。


「ほら」


ソファーに座る私にスコッチと氷を入れたロック・グラスを渡すと元いた場所に座りグラスを傾け始めた。


「で、どうだった?まぁ、聞かなくても分かり切った事だが・・・・・・・・」


「駄目だったわ。天が罰を与えるまで待てと」


「ふんっ。天が罰を与えるなんて待ってられるか」


飛天は舌打ちをしながらグラスを煽って私もスコッチを口にした。


「それで、貴方の方はどうなの?予想していたんだから手は打ってあるんでしょ?」


「まぁな。秘密警察に頼んで来た」


「秘密警察というとネルガルね」


飛天が言った秘密警察とはスパイや対テロ対策として設立された情報機関の事で天界の方にも情報員が入り込んでいる。


「あぁ。1日ほど待ってくれだと」


「それまではどうするの?」


「あの餓鬼が気になるからネメシスに行く」


「心配なの?」


「あの歳で家族を殺されたんだ。精神的にも影響は強い。それに俺に依頼をしたからと言って自分が何もしないとは思えない」


「まぁ、確かにあり得なくはないけど」


「お前はどうする?」


「私も行くわ」


「決まりだな」


飛天はグラスを扇いで酒を飲み干した。


それから深夜の2時くらいまで酒を飲んでから私と飛天は床に着いた。


一日が経ち午後の1時に私は目を覚ました。


既に飛天の姿はなく下から料理の音が聞こえてきたから直ぐに着替えて下に降りた。


リビングに行くと飛天は黒いエプロンを付けてサーロイン・ステーキを焼いている最中だった。


「起きたか」


「起こしてくれても良いじゃない」


恨めしそうに飛天を睨むが、彼は振り返らずに言い返してきた。


「お前が起きないのが悪い」


さっさと顔を洗って来いと言われて不承不承ながら顔を洗いに洗面所に行き適当に顔を洗ってリビングに戻った。


「何時に行くの?」


「夜の7時だ。それまでは射撃場で暇を潰す」


「前の所で?」


「あぁ。お前は」


「私も行くわ。ここに居ても煙草しか蒸かさないし」


私と飛天は朝食兼昼食を済ませると飛天が運転するグレーのディムラー・ダブルシックスに乗り込んで射撃場へと向かった。


射撃場へと向かうと何時も通りフリー・パスで行けた。


この前、会ったベトナム戦争の帰還兵がいたが、顔色が異常なほど真っ青になっていた。


「・・・・どうしたんだ?」


飛天は何かを感じ取ったのか元帰還兵の男に話しかけてみた。


男は真っ青な顔で飛天を見た。


「顔が真っ青だが、何か遭ったのか?」


「貴方でしたか。・・・・・・えぇ。まぁ」


「何か遭ったなら話してみろよ。話すだけでも気分が晴れるぞ」


飛天の言葉に男は頷くと話しだした。


「数ヶ月前から何ですが、妙な夢を見るんです」


「妙な夢?」


飛天が首を傾げるのを見ながら私はフィリップモリスを銜えた。


「20歳の女性をナイフでズタズタに切り裂く夢なんです」


私と飛天は切り裂きジャックの事を思い浮かべた。


「最初は何ともなかったのですが、ロンドンで起きている切り裂きジャックの事件が夢の内容と似ていまして・・・・・・今日などは血まみれでベッドの上に寝ていたんです」


男は頭を抱えて項垂れてしまった。


飛天は受付嬢にコーヒーを持ってくるように命令し私に近づいて囁いた。


「・・・どう思う」


「貴方と同じ意見だと思うけど、例の犯人が操っているんじゃないかしら」


天使が猟奇殺人を犯すのは流石に気が引ける。


だから、人間を陰で操っていると私と飛天は考えた。


「で、どうするの?」


「少し催眠術を掛けて質問をしてみる」


受付嬢が出したコーヒーを飛天は男に渡してベトナム戦争の悪い夢だと軽く催眠術を掛けて納得させて質問を浴びせた。


「あんたは悩み事があるのか?」


「・・・はい。ベトナム戦争での出来事が今でも」


「それで、どうしているんだ?」


「・・・教会に行って懺悔をしています」


「そこで変わった事は?」


「・・・数ヶ月前から天使が目の前に現われて罪を許されたければ、自分が言う事をやれと」


「どんな事をやれと?」


「・・・妊娠中絶と離婚を経験した女を殺して子宮と内臓を抉り出せと」


「あんたは今から家に帰り教会の事も全て忘れるんだ」


男は虚ろな眼差しで頷いた。


飛天は催眠術を解くと男に疲れているんだと言って帰るように促した。


「あんたは疲れているんだ。悪い夢だと思え」


「・・・そうですね。悪い夢です」


男は納得して射撃場を後にした。


「これで確定したな」


「えぇ。犯人は天使。実行犯は、あの男だけど殺さないんでしょ?」


「俺らは、この馬鹿げた劇を作り上げた主催者を殺すだけだ。実行犯は別でも、な」


「そうだったわね。自分の手を汚さず他人の手を汚させる最低のくそ野郎を殺すだけだったわね」


殺人を実行したのは、あの男だ。


しかし、それより許せないのは陰で操っている天使だと私は思った。


残った私と飛天は射撃を開始した。


人型の的を顔も知らない天使と思い浮かべて鉛の弾をぶち込んでやった。


2時間ほど時間を潰して射撃場を出てドライヴを楽しんでいた時だった。


後ろから猛スピードで来る黒いジープがバックミラー越しに見えた。


他の車を振り払うように左右に突き飛ばすジープを運転しているのはベトナム帰還兵の男と仲間たちで催眠術に掛った虚ろな瞳ではなく狂気で血走っていた。


「・・・・くそ天使に操られたな」


飛天は舌打ちを漏らす。


「という事は事件を嗅ぎ付けた私たちを殺そうとしているのね」


「だろうな」


「どうするの?あの様子だと殺すしか救えないわよ」


「・・・・後味が悪いが、仕方ない」


飛天は、またも舌打ちを漏らすとモーゼルM712を取り出して撃鉄を起こした。


私もコルト・パイソンを抜いた。


ジープではM16A2を構えた4人の男たちがディムラー・ダブルシックスに狙いを定めている最中だった。


「ガブリエル。奴らの銃を壊せ」


「OK」


私は窓ガラスから手を出してサイド・ミラーで確認してパイソンの引き金を引いた。


ドォン、ドォン、ドォン、ドォン


4発の38スペシャル弾はM16A2の銃口に当たり音を立てて壊れた。


しかし、男たちはジープの速度を上げて突っ込んできた。


「飛天。今度はカミカゼをする積りよ」


「・・・掴まってろ!!」


荒い声を出して飛天はスピードを最高速度まで上げて次々と車を抜いて行き他の車は為すがままのようにして退けて行き二車線にディムラーとジープだけが走る形になった。


ジープと距離を測ると急ブレーキを掛けて車体を一回転させるとモーゼルを窓から出してフルオートでエンジン部を撃った。


10発の7.62mmモーゼル弾はエンジン部に当たり爆発を起こして炎上した。


一回転した車体を素早く元に戻して再びディムラーを走らせる飛天の顔は苦虫を噛み潰した顔だった。


「・・・・後味が悪い」


私は飛天にフィリップモリスを銜えさせるとロンソン・コメットのライターで火を点けてやった。


追っ手を倒してから真っ直ぐにネメシスへと向かったが、飛天の機嫌は変わる事はなかった。


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