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(98)カーセルへ

 『雷帝の鬣』であるレオン達がシプランを出てカーセルに向かったのは、それから2日後のことだった。魔力を使い切り、疲労困憊したレオンには休憩が必要だったし、ストリペアとペルーシャが石化症の薬について寝るのも忘れて話し合っていたため、出かけられる状況ではなかったと言うのもあった。

「ごめん、リーズ。代わりによろしく。」

 馬車に乗ったレオン達に続くリーズに、ペルーシャが申し訳そうに言う。

 二人の様子を見てこのままでは行けないと思ったのだろう。レオンから「お前は一緒にくるな。」と言われてしまったのだ。

 ただ、今回ペルーシャが案内する事になっていたのも理由がある。

 リーズは少し躊躇いがちに、幼い頃のトラウマで、大きな魔物を見るとすくんでしまうことがあると正直に話をした。ギルドの職員としても迷惑をかけるわけにいかないのだ。

 レオン達はその話を聞いてお互い顔を見合わせた後、リーズの方を向く。

「別にいいんじゃない?」

 と言ったのはクリシュナだ。

「いいんですか?」

 そう聞くリーズにレオンは事もなげに言う。

「洞窟の中はまだ誰も入っていないんだろう?そういうところを探索するのが俺たちの役割だからな。君はギルドの職員として、案内や準備をしてくれれば十分だ。」

「そうそう。むしろ探索の後にお礼を兼ねてデートでもしてくれれば……イッテェ!」

 リーズの手を握ろうとしたミカサの後頭部からいい音がする。ストリペアだ。

「それもギルド職員の仕事じゃないよね。」

「あ、ええと、宿は最高級の場所をご用意できていますので……」

 リーズは笑顔を引き攣らせながら答えた。カーセルの領主がいつでも使って構わないと言っている最高級宿『琥珀』へは既に連絡済みだ。

「それなら何も問題はない。むしろストリペアが他の事に気を取られてしまう方が危険だからな。」

 ペルーシャとの話で開発魂に火がついてしまったのか、ストリペアは何を見ても改良できるんじゃないかと上の空だ。

 ペルーシャと離れることで、少しは良くなってくれるといいのだが。

 リーズは大きく頷いた。

「分かりました。できることをします。」


 そもそもギルドは冒険者達が依頼を受けやすくするためにあるのだ。そのための仕事ならリーズはどこまでもすることができる。


 リーズが馬車に乗り込むと、馬車はカーセルへと進み始めた。

 今日は『雷帝の鬣』で馬車を貸し切っている。

「馬車にのんびりと乗って行くなんて何年振りかねえ。」

 クリシュナが物珍しそうに周りを見回す。

「え、王都からかなりありますけど、どうやって来たんですか?」

「走ってきたよ。その方が速いからね。」

 王都からシプランまでは馬車で7日はかかる。それを走り切るという意味が分からない。ぽかんと口を開けたリーズにレオンが苦笑する。

「俺たちが行く場所は魔物がいる未開の地ばかりだからな。道があるだけ楽なんだよ。4日で着いたから、それほど疲れちゃいない。ストリペアの疲労回復薬もあるし、スキルもあるからな。」

「ひょっとして今日も走った方が早かったんじゃ。」

「走っても良かったかい?」

 ミカサの言葉にリーズは慌てて首を振る。

「いえ。馬車に乗っていただけて助かります。」

 その速さで走られたら、リーズはついて行けない。

 カーセルへの道は今日も悪路で、馬車がガタガタと揺れる。

「道も悪いけど、馬車も改善できるんじゃないかな。ちょっと車輪が見てみたい。」

 ストリペアが、荷台の後ろから車輪をよく見ようと身を乗り出すので、リーズは慌てて止める。

「危ないですから、後ろから身を乗り出さないで下さい!」

「ギルド職員も大変だなあ。」

 レオンが楽しそうに言った。


 シプランは今日も人が多い。停車場で馬車から降りると、ストリペアは持っていた紙に書いていたものを御者に渡した。

「これ、馬車を作ってる工房に持って行って。馬車が揺れないようにする方法を書いておいたから。」

「いやいや、そんなもの受け取れません。ご自分で工房にお持ちいただければ。」

 ギョッとしたように御者は大きく首を振る。本当に馬車の揺れが減るのであれば、きっとあちこちで作られるようになるだろう。その時この紙の内容はお金と共にやり取りされる。御者にはこれが金貨の袋に見えているのかもしれない。


「それがめんどくさいからお願いしてる。それじゃ、よろしくね。」

 ストリペアが御者に無理矢理紙を押し付けた。救いを求めるように御者がリーズを見る。

 横から紙を覗き込むと、車輪の絵に、色々と書き加えられている。車輪に何かをつけると言うことだろうか。

「私たちは『琥珀』に泊まっているので、何かあったらそこに連絡してください。」

 リーズが御者にそれを告げると、御者は安心したように頷いた。

「宿に行かれますか?それとも洞窟の様子を観に行かれますか?」

 クリシュナが大きく伸びをする。

「ずっと座ってて、運動不足なんだ。このまま行きたいねえ。」

「そうだな。戦うかどうかはともかく、様子を見ない事には対策が立てられない。行ってみようじゃないか。」

 レオンも同意すると、他のメンバーも頷く。

「でしたら、商業ギルドに一度寄りましょう。今回の調査には同行者がいます。ひょっとすると彼が魔物について何か手がかりを見つけているかもしれません。」

 氷石の研究をしているヒューイが、洞窟の調査に同行する事になっていた。そのため、過去の文献を見て魔物について調べて欲しいと依頼してある。

「その同行者は腕は立つのかい?」

「本人は自分の身ぐらいは守れると言っていましたが、多分無理だと思います。」

 リーズも元は冒険者だから、そのくらいは見てわかる。

「出会った頃のストリペアみたいなものかな。」

 レオンの言葉に、ミカサが思い出したように笑う。

「そういえば、ストリペアも言ってたな。『自分の身ぐらいは自分で守れます!』って。」

「そうそう。それなのにゴブリンの群れに出くわしたら、怖くて動けなくなっちまって。」

「その後、目を瞑って爆弾を投げ続けるもんだから、アタシたちも助けに行けなくってねえ。まあ、自分で切り抜けたといえば切り抜けたんだけども。おや、ストリペア、どうしたんだい?」

 揶揄うようなクリシュナの声に釣られるようにストリペアを見ると、顔を真っ赤にしてぶるぶると震えている。

「そ、そんな昔の話、しないでくださいよ!それに、今だったらそんなことしませんから。」

「山の中で迷子になったこともあったなあ。霧が深くて探すのが大変だった。」

「も、もういいです!リーズさん、さっさと商業ギルドに行きましょう!どっちですか?」

 昔の話に耐えられなくなったストリペアがずんずんと先に行ってしまった。あっという間に人混みに紛れて見えなくなってしまう。

「あいつ、また迷子になるんじゃないか?」

「街中だから、人に道を尋ねることぐらいできるだろ。さて、俺たちも行くか。」

 レオン達は慌てた様子もなく、歩き始めた。

読んでくださり、ありがとうございます。

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